堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
225.オーディエンス
二人がここに辿り着いて食事を始めてから、時間が経過するに従って少しづつ観覧者が増えていったのだが、小腹が膨れたコユキが箸を置こうとした時、軽い口調で一人の紳士というかうらぶれた中年親父が声を掛けてきたのである。
「お──! 姉ちゃん良い喰いっぷりだったが、そろそろ限界か? まあそりゃそうだろうな! んでも良くやったと思うぜ! 大したもんだぜ! 」
この発言に、ある程度とは言えお腹が膨れていて、怒りにくい筈のコユキは珍しくカチンと来てしまった。
なぜなら、今発言したおっさんはどう見ても自分の様には食べる事が出来ない、所謂小食属性にしか見えなかったからである。
ステテコ上下で観光地に来ている神経もイマイチ理解出来ないし、ハゲ散らかした頭頂に残った僅かな毛髪の姿もいさぎ悪い事この上なかった。
故にいつも言わない様な言葉を返してしまったのであった。
「は? 限界だって! 馬鹿言ってんじゃないわよおっさん! こちとら生まれてこの方限界まで食べた事なんて一度だってありゃしないわよ! でもね、胃袋の容量には限りは無くてもオアシの方には限度があんのよ! それとも何? おっさんがオアシ出してくれるつーの? あ? どうなのよ! 」
もう…… 大人気無いなぁ、
ん、おっさんが財布の中身を見ているが、挑発されて乗っかっちゃたか~
しかしステテコ姿のおっさんの返事を待たずに、別の人物、いや人々が我先にと声を上げたのであった。
曰く、
「おいおい! そう言う話しなら俺にも出させてくれよぉう! 姉さん、本当に大丈夫なのかい? 」
そう言って最初にコユキの大っきい顔を覗きこんできた男は、Tシャツ越しでもハッキリと分かる鍛え抜かれた肉体を有した優れた個体、メガネも良いね! やってるね♪ 兄さんであった、彼は万札を一枚財布から出してニカッと笑い掛けてきたのであった。
「俺も出させて貰おっかな? 」
そう言って万札を重ねて、三枚か、押し出してきたニイチャンは、バスケット選手だろうか、独特の『俺知らね』風味が濃い目のクールガイだった。
他にも俺も俺もと万札を差し出してくれた面々は、揃って大喰らいの優しい顔をしていたが、何故だろうか? 一人痩せこけた、うん、何と言うか…… 胃腸の辺りを何分の一か取ってしまった様な、痩せぎすのリーマン風味の男も混ざっていたのであった。
青いネクタイが彼の誠実であろうと言う覚悟を感じさせる。
彼は言った、
「ねぇ? 僕の代わりに食べてくれるかな? これ、少ないけど……」
そう言いながら、コユキと善悪の前に五千円札を置いてくれるのであった。
他にも無言のままで四千ルピー(約二千円)を置いて、少し後ろで見守ってくれた、スリランカっぽいチリ毛の彼氏や、本当に食べれるの? とか言いつつも、千円札を置いてくれた痩せて綺麗なチャンネエの三千円も有り難く頂いての大食いチャレンジであったのである……
因みにこの潮流の切欠になった、激散らかしたおっさんだって黙っていた訳じゃあ無い、五百円玉をパチンっ! と置いて堂々と言ったよ、
「分かった! これで好きなだけ喰え! 」
とね…… 有り難い事、この上ないね♪
兎に角、ギャラリーの期待をバッサリと切ってしまった、もち○ドライブイン運営チーム、果てさて? どんな言い訳をするのやら? 半端な言葉じゃここに集った人たち納得しないと思うけど……
高級そうなスーツに身を包んだ一人の紳士が進み出て、頭を低く下げながらコユキと善悪に言った。
「お客様、大変申し訳ありませんが…… 御注文にお応えする事が出来ない仕儀とあいなりました…… 餅、完売でございます! 」
一瞬の静寂……
突然叫びを上げる人々の咆哮! うおぉ──わおぉ──! と、喧しい事この上ない!
「勝った! 勝ったんだあぁ──っ! 」
「俺達が、こんな俺達が…… 世の中の常識をう、打ち破ったんだ──! ぅぅうああああぁぁぁ! 」
「奇跡ね、ね、ねぇ、どうしよう、ワタシ今奇跡の現場にいるんだけど…… はっ! 若しかしてアタシが次世の証人ってヤツに…… エエッ! どうしようっ! 」
ふぅ、何度も言ったかな? 五月蝿い事この上ないね!
偉業を成し遂げた当の本人コユキと善悪の二人は、盛り上がりきった人々の間を、大きな体を縮ませてこそこそと車、善悪の軽バンに向かってそのまま朝霧高原を後にするのであった。
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