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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
265.ウラン238

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 善悪が青白い顔でブツブツ小声で囁きつつ、自分の世界的な場所に入り込んでしまった様子を見て、代わりにコユキが聞くのであった。

「んじゃあ、アスタ! その五箇所って何処なの? んでそのヤバイ魔核の素材って? なんて言うのん?」

 アスタロトは急変した善悪の姿をチラチラ見ながらコユキに答えたのであった。

「ん、ああ、確か現代の国名だと、ナミビア、ニジェール、オーストラリア、カナダ、そしてウラヌス、クロノスを封じた最大の穴はカザフスタンだな! 素材の名前は、えっと、モラクス! あれ人間達は何て呼んでいるんだ?」

 問い掛けられたモラクス、スプラタ・マンユの次兄、二番目のお兄ちゃんで確り者、知識も戦略もここまで迷う事がなかった魔王種が珍しく重たくなった口を静々と開く。

「……えっと、あの…… う、ウランです…… ウラン238、半減期ほぼ地球の年齢の…… 核種でございます」

「え? えっ! う、ウラン…… なのん……」

 コユキも急にうろたえた様な声を出し、黙り込んでしまったが、事情を知らないアスタロトが自分の腕を組んで甘えていたトシ子まで固まってしまった様子に尋常ならざる物を感じて聞き返したのである。

「どうした、コユキ、トシ子! 一体なんだというのだ? 我にも教えてくれぃ!」

 その問い掛けにコユキとトシ子が流石は祖母と孫である、ピタリと合った言葉で返したのである。

「「掘ってるのよ、ガツガツ良い勢いでね、ウランちゃん」」

 問うた本人、アスタロトも含めてその場にいる全員が、『チ~ン』と擬音を響かせたように黙りこくって固まってしまうのであった。(※いち早く気がついた善悪は放心状態です)

「ほ、掘ってるの…… え? な、なんで?」

 いつものクールなキャラを崩壊させる事もいとわずに聞いてしまうアスタロト、大魔王三柱の一柱であった。

「んっとね、確か十九世紀中盤から、二十世紀初頭までにピエールとマリヤって夫婦がね、何か光ってんじゃね? これって次々変わって不安定で、錬金術の答えなんじゃね? とか何とか言って放射メカニズムと、物質変異、元素変遷を発見して貧乏生活に終止符を打ったんだっけかな? ナスビ、じゃなくて、キューカンバさん、ううんキュウリ夫妻だったかな? んで今は過熱を制御してくれる棒が出来たから適度な熱で水蒸発させて電気作らせたりしてんのよ、それはそれは大人気なのよ」

「…………そ、そうか…… アー! どうする? なぁ、コユキ……」

「ど、どうって…… どうしようか? ぜ、善悪戻ってきてよ! 人類結構前からピンチ編みたいなんだよ、ねえ、よしおちゃーん!」

 コユキの魂の叫びが、善悪を一人きりの楽しい世界、所謂いわゆるお花畑から彼を呼び戻す事に成功したのであった。(感動! しないか……)

 目覚めた密教の沙門、我等の善悪が正気を取り戻して頼もしく言うのであった。

「んが、うん、じゅるるる、ん、ゴホゴホ、ゴホン! 落ち着くでござるよ、コユキ殿! 確かにウランを掘り捲ってるし、先程アスタが言ったタルタロスの大穴の位置は産出量トップファイブにピタリと合致しているのでござる。 普通に考えれば絶望でござろうな。 んでも! こういう一見もう終わりって状況ほどナンカの救いがあるのが世の常、いやアニメの定石でござるからしてぇ、だからこそアスタロト、そなたに聞きたいのでござる! ウランの大量掘削、この事態にいて人類に生き残るすべは無いのでござるか? ん、んん? どうでござる? 一所懸命に考えるのでござるよ! どう? どうなの! で、ござる!」

「ほ、ほら! なんだっけ? そ、そうだ! 酸素の波型結合、そ、そうオゾンだ! オゾンの層を作り上げる事で、紫外線を減らすんだったか? アレを我等三人に加えてオリンポス十二神総出で作ったじゃないか? あの臭い層でこの星を包んでいる限り、宇宙からもたらされ続ける紫外線と中性子量を減らせるからウランが地上に出てきたとしても守りきれる! そういう話だったじゃないか、兄上! 良かった、心配は無しっ! だな! そうだろう兄上?」

 モラクスが氷点下の声で善悪やコユキに変わって答えた。

「オゾン層だったら、穴だらけですね……」

「うぇ!」

 唸ったアスタロトは、美しい顔を歪ませながらも必死になにやら思い出しつつ発せられるのであった。

「ふむ、こんな事を我が説明するのもなんだが、善悪、コユキ、いいや、ルキフェル兄上がこうも言っていたな? たしか二酸化炭素を増やすことで、対流を盛んにしておけば、万が一の事態にも耐えられる、その為に人間どもに産業、鋳造技術を教えておいたんだったか? なぁ、そう言っていたよな? 温室効果? だったか? そいつが維持されているのならば、地表から跳ね返る赤外線は対流を促すから、数千年は誤魔化せる筈! だったよな? な? そうだったよな?」

 復活した善悪が無表情のままで淡々と答える。

「ごめんでござるアスタ、今世界中で最もセクシーで激アツな議論の矛先は…… 温室効果ガス、徹底的に削減! よくもこんな事をっ! な、風潮でござるよぉ! わああぁん!」

 善悪泣いちゃった……
 そりゃそうだよね、悉くことごとくだもん、悉く……
 さしものアヴァドンでも泣いてしまった善悪をからかう事を躊躇うためらう事態であった、そりゃそうだろ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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