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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
640.地獄の渡し守カローン

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 回転しながら滑っていたコユキが、皆に聞こえる様に大きな声を出す、後三分の一ぐらいの場所である。

「あれれ、皆ぁ! 左からなんか来たわよっ! アタシ回ってるから良く見えないのよぉ! 誰か見てよっ! 敵だったら事よっ! 至急、索敵ぃ、索敵なのよぉっ!」

 背中からカイムが答えてよこした。

「あ、カローンのジジイの渡し船だよ、こっちに来るなんて珍しいなぁーいつもはストゥクスとアケロンを行ったり来たりするだけなのに、キョロロン」

 何人かが左に視線を移すと、確かにそこには一隻の船、船? というかホバークラフト的な奴が真っ直ぐこちらに向かって来ている、その姿が映ったのである。

『エーィ ウーフニィム エーィ ウーフニィム、ィイショー ラーズィク ィイショー ダー ラース、 エーィ ウーフニィム エーィ ウーフニィム、ィイショー ラーズィク ィイショー ダー ラース』

 ネイティブか? そう思ってしまう感じの歌が聞こえている。
 これは、ヴォルガの舟歌、日本人的に言えば『ヘイコーラー』って奴であった。

 物悲しい歌声は、どこかで聞いた、いいやいつも聞かされていた、あの小汚い和尚のダミ声と、割と美声の重低音ボイス、スプラタ・マンユの次兄、モラクスの物によく似ていた。
 いや、似ているのではなく、少し前に牛の糞どんに乗ってストゥクスまで流されていった二人の声に他なら無かったのである。
 
「ムィー パ ビィリィシクゥー イヂョーム――――」

「ぜ、善悪様! 皆が居ましたよっ! ほらほらコユキ様も腹這いで回っていますよぉ! つ、ついに合流出来ましたよぉ!」

「ピェースニィ ソー、へ? おお、本当でござるっ! カローン君ご苦労でござったあぁ! 無事合流できたのもチミのお陰でござるよぉ! ありがとね♪ んじゃあ、さよなら、また逢う日まで、でござるよぉ」

 ボート型である物の、船底から高圧の空気を噴き出して移動して来たホバークラフトを操っていた、襤褸ぼろを着て質素な木のかいを手にしたジジイが、いかにも不服そうに眉間に皺を寄せながら言う。

「おいおい、約束が違うじゃろうが? コキュートスの近くまで連れてきてやれば一万人分、一万オボロス払うって誓ったじゃろがいぃっ!」

「欲が深い爺でござるよ、全くっ! えっと銀で五キロでござろ、ってアルテミス合流していないのでござるか…… おっ! パズス君いるではござらぬかぁー! んじゃ鉄盾出して、でござる! 良い? 十キロ以上で頼むよ、さあ、出してっ!」

 パズスは足元をフラフラさせながら善悪に言った。

「は、はあ、『鉄盾アスピーダ』、これで良いですか?」

 ゴドッ!

 重そうな鉄の盾がパズスの目の前に現れて、鈍い音を響かせて氷河に落ちた。
 重厚な鉄の盾、純鉄を満足そうに拾って善悪は、ホバークラフトの船頭、ジジイのカローンに放り投げながら言う。

「ほれ、これで良いのでござろ? んじゃさっさと帰るのでござるよ、くそ爺! 全く、乗り心地も最悪だったでござるよ!」

「毎度ありぃ! またよろっ!」

 善悪の酷い言い様にもかかわらず、守銭奴しゅせんどなのだろう地獄の渡し守、カローンはニヤニヤしながらホバークラフトで氷の上を滑って戻って行くのであった。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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