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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
179.エピソード179 怠惰のアセディア (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「え? あれれ? なんで? ここってアタシの、部屋? 」

 コユキが呟いた通り、目の前に広がっていた風景は、慣れ親しんだ、それこそ今朝も変わらず目にした自分の部屋、茶糖家の脇屋二階のコユキルームに他ならなかった。
 ハテナ顔のまま、何となく後ろ、今入ってきた扉を振り返ったコユキは小さく唸るのであった。

「う、うそ……」

 そこにはあの重厚な扉は存在せず、代わりにコユキの目に映った景色は、茶糖家の居間、そして、いつも通り思い思いの時間を過ごす家族達の姿であった。

 相変わらずテレビに向かい、ソニ○クヘッジホッグをプレイしている父、ヒロフミの横では小さな甥と姪が、笑いながらクレヨン片手にお絵かきをしている姿が見える。
 描いているのは可愛らしい豚ちゃんだろう、何故かつたない平仮名で、『こゆきおばさん』と書いてあるが、まあ、子供のやることだ、こんな物だろう。

 少し離れたキッチンでは、母ミチエと祖母トシ子が仲良く並んで、煮物や天ぷらを調理中で、会話の内容も普段通り、芸能人の恋愛スキャンダルだった。

 リエとリョウコはテーブルの上に広げられた通販カタログを覗き込みながら、子供用の雑貨の可愛らしさに、キャアキャアはしゃいだ声を上げている。

「コユキ、ありがとうね、アンタのお蔭で皆元通りだよ…… 辛かったでしょうに、ごめんね、聖女の重責をアンタに背負わせちゃって……」

「おばさん……」

 いつのまにかすぐそばまで来ていた、叔母、ツミコは申し訳なさそうにコユキに詫びると、姪の大きすぎる肉槐を抱き締め、コユキも抱擁しつつ答えたのである。
 暫ししばしの間、ジ~ンと効果音が聞こえてくる感じで過ごしていると、不意に聞き慣れない男の声が聞こえてきた。

「ようこそ! 聖女様、いえ、『真なる聖女』、コユキ様…… 私は怠惰たいだの罪、『怠惰のアセディア』、貴女様のしもべでございます」

そう言いながら、コユキの目の前、家族の皆が楽しそうに過ごす日常を、邪魔しない様に、嫌らしいほど計算され尽くした場所に現れた若々しい男は仰々ぎょうぎょうしく頭を下げながら、コユキに宣言するのであった。

「どの様な願いでも、この私、アセディア、『怠惰』にお申し付けくださいませ! 貴女の望みを叶えることこそ私の喜び、そう、御理解くださいませ、コユキ様? ふふふ」

 怠惰のアセディアと名乗る男に場を譲るように、体をコユキから離した叔母、ツミコは極自然にリエとリョウコの方へと去っていった。

 コユキは改めて男、『怠惰』の姿を観察した。

 執事服、というよりは少し緩めの印象を受ける薄色の燕尾服えんびふく、イメージ的にはモーニングでは無くテールコートと言った方がしっくり来る衣装に身を包み、ジレと蝶ネクタイは赤で揃えている。
 テンプルの無い鼻掛けメガネには、光沢のある金属チェーンがネックレス状に首の後ろに回しかけられていて、染めているのだろうか髪と眉は青く輝いている。
 丁寧に整えられた口髭は見たこと無い程に極めて細く、一見して不誠実そうな性格の印象を与えてしまうことだろう。

 先程の発言から察するに、執事的なキャラなのだとは判断できる、しくはホテル等のコンシェルジュだろうか?

 しかし、所々に散見される微妙な『遊び』又は『お洒落』によって、厳格で誠実な執事には見えないし、信頼をむねとするサービス業のスペシャリストとも考えられない位、胡散臭いうさんくさいのだ。

 総評! こいつ、TPO分かってないんじゃね?

 これがコユキが男に下した最終評価であった。
 おまわりさん然りしかり、お医者さん然り、やはり職業によってはきっちりとした分かり易さも重要よね、と働いた事も無いコユキは堂々と思ったのである。

 実の所、コユキの目の前に佇んでいるアセディアも、生前働いた事など無かったので、この場では職歴無しの二人が向き合っているという事になる。
 逝去せいきょした時、三十直前であったアセディアが、十代にも見えるほど若々しい姿をしているのにも、その辺りが関係しているのかもしれない。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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