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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
190.エピソード190 パンドラの箱

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 ブラックに浸りきった、俺は一つの疑問にぶち当たったんだ。

 それは……

 あれ、子供出来ねーなあ? だったな。

 夜毎のお勤めは俺にとっても嬉しい事この上なく、夫婦関係も順調で、愛の結晶が生まれていてもおかしくない、いや、授からなくちゃおかしいくらい充実していたもんなぁ……

 気になってしまった俺は、やっちまったんだったな、あの……
 パンドラの箱を開けちまう選択を…… しちまったんだ……
 お医者さんは、言い難そうに俺に告げたっけ……

 残念ですが、貴方にはお子さんは出来ない様です、とな……

 小さい頃に病気がちだったせいなのか、若い頃に粋がって、喧嘩した相手から受けた股間蹴りがイケなかったのか、兎に角、俺は男としてはどうか分からんが、父親、そう、生物学的には『不能』だったようだ……

 それを知って…… そうだ、知ったのなら、妻であるアイツに言わない、告げない理由なんてどこにも無い、でも……
 格好悪い、どうしようもなく自分勝手だった俺は……
 あいつに言えなかったんだ……
 その先にどんな運命が待っているかなんて、考えもしなかったんだ……

 暫くしばらくしたら、そう数ヵ月後だったか……
 夕飯を食っている俺にアイツが恥ずかしそうに、少し表情を曇らせながら言ったんだよな、身篭みごもった、って。
 俺は奇跡が起きたのか、そんな願いも湧き上がったが、それよりも、リアルな疑問が心中を覆い尽くしていくのを感じていたな。

 誰の子供だろう、いや、誰の子でも良いか、俺の子供じゃないのは確定だ、ってか、これ? あれ? この女の人、俺の奥さんなのか? いやいや、他人の奥さんなんじゃね? ってな。

 辛い気持ちはあった、そりゃそうだ、普通の話じゃね?
 でもな、俺はその時思ったんだ……
 ああー、俺が全部悪いんだよなぁ、ってな。

 だって、そうだろ、そうに決まってるんだよ、妻であるアイツに、自分の不能を隠して、毎晩のように抱いていた彼女がどう思うのか、そんな当たり前の事をおざなりにして来たのは俺自身なんだから、誰が悪いかなんて、最初から知っているんだが……

 俺が、適当にモヤモヤしつつもそれを隠し続け、そんな日々の中でも、彼女は玉の様な可愛らしい男の子を無事、出産したんだ。
 赤ん坊の顔とは思えないほどの、可愛らしい愛くるしい顔で俺の親指を必死に掴んだ彼は、頼むよ! 父ちゃん! 守ってよ! そう言ってるように見えたなぁ……

 勿論、俺は今まで以上に頑張る事に決めた。
 あんなちっちゃい命が、純真無垢な魂が俺を頼ってくれたんだから、それに答えようと努力しないやつなんていないだろう?
 もし居るとすれば、空き地で見つけた捨て犬、『クフゥ~ン』とか言ってるヤツを、『お掃除お掃除!』的なノリで増水している川に流しちゃえるサイコパスだけだろう?

 流石さすがにそれは無い、無いに決まっている……
 そんなヤツは水鳥が好きなチョットシスコンな男前に、

「手前らの血は何色だぁぁぁー!」

とか言われて切り刻まれれば良いと、俺個人は決め込んでいる。
(※あくまで個人が南○水鳥拳のレ○を好きなだけです)

 まあ、どこの誰の子か知らんが、俺にとっては、愛する彼女が文字通り体を張って生んでくれた、俺の息子に他ならなかったんだ。

 幸せな日々は、新たな驚きを与えてくれたよ。
 彼女が再び妊娠しやがった、いや、その身に新たな命を宿してくれたんだったな? たしか……

 そうして、又、彼女は新たな命、掛け替えのない息子を産み落としてくれた、長男とは似ても似付かぬ、赤ん坊らしからぬ、全てを見透かしたような切れ長の眼をした美男子を……

 それでも、そう、それが俺には嬉しい日々だったんだ……

 大きく育った長男の大きく可愛らしい瞳も、まだよちよち歩きの次男の貫く様な冷たさを湛えた目も、俺にとっては『家族』そのものの温かい視線だと思っていたんだよな。


 拙作をお読みいただきありがとうございました!



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