堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
226.wake up
約一時間後であった、途中、静岡市清水区の由比漁港に立ち寄って、駿河湾名物桜海老をゲットしつつ、静岡市駿河区用宗で生ジラスを入手して、焼津の魚センターに立ち寄ってピンナガマグロ、地元民の言う所のトンボマグロの中とろを購入しながら、のんびりと帰ってきた二人は、茶糖家の玄関を今更ながら、緊張を貼り付けた表情で踏み越えるのであった。
二間通しの和室には、以前と同じ様に青い顔色を隠そうともしない、幽鬼の如き姿の茶糖家、サブトラクトコユキのオールスターメンバーが気持ち悪い感じで横たえられている。
魂自体は取り返した筈である…… まさか…… シクった?
善悪の脳裏に最悪の予測が浮かんでしまう……
その時、茶糖家の外壁をすり抜けて、おどおどとしながらも、ちらちら姿を見え隠れさせている一つの魂魄があった……
っ!
善悪には一瞬で理解出来た、故に青いだけの魂に自信満々で声を掛けたのである。
「リエちゃん! リエちゃんでござろ? 待っていたでござるよ! ささっ! 自分の肉体に戻るでござるよ! 某たちが見守っているのでござる! なんの心配も要らないでござるよ」
姉妹の中で一番気が強くて、負けん気一番! でもコユキが聖女に選ばれたとき、最初に協力を自ら申し出た末の妹、リエの性格を魂の動きだけで理解した善悪。
やはり凡百の坊主とは何か違う切れ味的な物を感じてしまう!
兎も角、善悪に語りかけられた一つ目の魂、魂魄は一旦家の外に戻ると再び姿を現したのであった、他の七つの魂魄を伴ってである。
フラフラ漂っていた青い球×八つは、そもそもの自分の肉体を見つけると、ゆっくりとそれぞれの胸に向けて入り込んでいった。
コユキと善悪は成り行きを見守ることしか出来なかった、コユキの胸の鼓動が早鐘を打つ……
緊張が極限まで達し、軽く失禁してしまっていたのかも知れない……
(※真偽の程はコユキのプライバシー問題なのでここでは遡及しません)
そんなドキドキ状態で見守っていると、やがて家族の状態に目に見える変化が齎されたのである。
揃って顔色に朱色が注すのと同時に、深い呼吸をしはじめ、手足の指や、顔の各部位が寝起きのように忙しなく動き始めたのであった。
「ああ、み、皆! 」
コユキの歓喜の声に答えるように、家族達の顔色は朱色に染められていった。
そのまま、朱を越え真っ赤に全身を染めていく家族は、八人揃って大声を発したのであった。
「「「「「「「「んん、んギィイヤアァァァァァァっ!! 」」」」」」」」
雄叫びを最後に、全身をビックンビックン脈動させながら、口からブクブクと泡を吹きつつ、嗚咽とも呻きとも取れぬ苦悶の声を発している家族の姿を前にコユキは呆然としたまま言った。
「えっ? うそ! なんなのよ、これ? 」
善悪が怒った様に答えた。
「蚊! 蚊でござるっ! ご家族の皆は、一夏の間に蚊に刺されまくって、アナフィラキシィーショック状態でござるよ! コユキ殿! 救急車を、早く呼ぶのでござる! 」
その叫びにコユキが泣きそうな声で答える。
「ぜ、善悪! ごめんね! アタシお巡りさんとか、消防署とか、グスッ、電話掛けても信じて貰えないのよぉ──! お願い! アタシの代わりに救急車呼んでぇぇ──! 」
因果応報、どうしようもない令和の狼少年、いや豚喪女コユキの自業自得であった。
「ちっ! 仕方ないでござるな! あ、もしもし消防署ですか? うん、僕チンは幸福寺の住職をやっている善悪でござる、実は茶糖家の………………」
善悪の的確かつ、一般人の常識に則した通報によってコユキの家族たちは最寄の公立病院へと運ばれたのであった、良かった良かった。
***********************
拙作をお読みいただきありがとうございました!
この記事が参加している募集
励みになります (*๓´╰╯`๓)♡