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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
178.エピソード178 アタシの全て

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 私を膝に抱いた彼は、数十年後に話してくれた。
 その時覗き込んだお婆ちゃんの瞳の中にあった、嫉妬、純粋な本来の意味の『嫉妬』について……

「あれには、ビックリしたぜ! まさか、あんな事を考えていたとはなぁ~! ん、ま、でも今となっては俺もその意味が分かる様になったんだけどな、へへへ」

そう言って照れくさそうに笑ったインヴィディアの苦みばしった顔を思い出してしまう。

 兎に角、お婆ちゃん、コユキがその時インヴィディアに、見ろ! と言った自分の嫉妬にまつわる続きとは、一体何だったのだろうか?

 

 格好良い、二人の妹の彼氏を前にして、コユキはハッキリ言葉にして宣言したのだった。

「あんたらが、普通に格好良い男だって事は、まあ、認めてあげるわよ! でもね、アタシの妹達を、この子達を、悲しませたり、苦しめたり、ましてや、絶望の淵に追いやったりしたら絶対許さないからね! この子達は…… アタシの全て、かけがえない妹達なんだから…… あんたら、アタシから取っていくのなら、アタシがしてきた以上に大切にしなさいよ! 分かった?」

義弟二人は、クソ真面目に答えたのであった。

「「はいっ! 大切にします!」」

コユキは言った。

「うん、あんがと! 二人とも頼むね……」

そう言って、大きな肉まみれの顔に埋もれた、小さな瞳から大粒の涙を流していたそうだ。


 コユキが泣いた理由は悲しみや淋しさでは無い、自分にとって掛け替えの無いものが離れて行ってしまう、そんな喪失感と不安、そして自分から奪っていく存在、この場合は二人の義弟に対する焼け付く様な妬みであった。
 それは正しく『嫉妬』の気持ちがもたらした、敗者の流す無念と失意の涙と言えた。

 ちなみに、昨今『羨望せんぼう』羨む気持ちを、『嫉妬』妬む気持ちと同義に捉える節があるが、実の所、この二つの言葉は大いに違う、らしい。
 恋愛の場面で使われる事が多い二つの気持ち、心の状態だけに、やはり恋愛の場面を例にして考えてみると整理し易い。

 まず、貴方を女性、と前提する。
 貴女が想いを寄せている男性がいると仮定しよう。
 結構なかよく過ごしていて、このままの関係が続けば、いつか恋人に、いいや結婚だってあり得るのかもしれない、てなイイ感じだとするね。

 ところが、不意に現れた別の女性と、意中の男性はあっさり、本当にあっという間に恋に堕ちてしまったとする。
 二人はスピード結婚を果たし、貴女は恋人処か只の友人の一人になったのだ。
 しかも、以前の良いムードは期待出来ないというオマケ付きで……
 あるとすれば倫理に反した形くらいだろう。

 この状態の貴女が、女性に対して持つ感情が羨ましい、所謂いわゆる『羨望』、いいなぁ~ってヤツだ。
 反して、自分の恋人候補を奪われたっていう妬ましい気持ち、男性にも女性にもぶつけられないモヤモヤした自分自身の中だけに生じる気持ちが『嫉妬』である。

 まあ、そうなっちゃうかもって先読みして、相手を拘束したり、ライバルを事前に蹴落とす気持ちなんかも、広義では『嫉妬』であろうが……
 その場合は、『嫉妬』だけでなく『臆病』の気持ちも複合されるので、やはり純粋な『嫉妬』とも違っているだろう。

 別の例で言えば、あなたが小説を書いていたとして、何冊も書籍化を果たしていて、何だったら、アニメ化とか実写映画化とかゲーム化とかされている売れっ子作家さんに抱く気持ちは『羨望』だろう。
 しくは、『憧憬しょうけい』かな?
 対して『嫉妬』はどう言った状態だろう?

 徹夜で何日も考え抜いたプロットを、頑張って小説としてアップしたとしよう。
 ご機嫌で何話か更新した時、感想欄がある言葉で埋め尽くされている事に気付くあなた。

「○○さんのパクリですよね?」
「恥ずかしくないんですか?」
「運営さんに通報しました!」

 身に覚えの無いあなたは、慌てて指摘された小説のページに飛んでチェックしたとしよう。
 読んでビックリ! そこにつづられた物語は、自分の考えた設定そっくり、瓜二つであったのである。
 かなり先まで進めば当然、全く別作品になるのだろうが、最初期の設定がダダかぶりなら仕方が無い……
 あなたは、泣く泣く投稿済み作品を削除するのであった。

 この時の何とも言えない気持ちが『嫉妬』、奪われた! キイィ────っ! って感情である。
 無論、感じただけで、思っただけで『罪』な訳では無い。
 『嫉妬』は気持ちだけであればいいのである、問題はこの嫌な気分を晴らすために起こす行動がタチ悪いのである。

 先程の続きで言えば、自分の作品をサイトから削除して、喪失感を感じた貴方は、あろうことか、そっくりと指摘された作品のページに戻ると、感想欄に罵詈雑言ばりぞうごん、作品のみならず作者への人格攻撃まで加えるクズっぷりを発揮して、しかも一日十数回の感想投稿を何ヶ月も続けた……

 こうなっちゃったら、もう完全な『嫉妬』の罪、大罪と呼んで差し支えないだろう、まあそんな人間が居るかどうかは疑わしいが…… (ギクゥ!)

 まあ、兎に角コユキが流した涙は、義弟たちへの復讐行動に移さなかっただけまともな『嫉妬』である。
 コユキがまともだったという、非情に稀有けうな例であったのだ。

 それを、見ていたのであろう、インヴィディアは優しく微笑みながらコユキに話しかけるのであった。

「ああ、そうか…… 俺は三十年もの間、間違っていたのか…… はなから持たざる俺が、失う不安である『嫉妬』である筈が無かったんだな…… ねえちゃんの記憶を見て、ようやく俺も自分の間違いに気付く事が出来────」

 話しの途中で、何故だろうか?
『嫉妬のインヴィディア』はドヒュッ! という音と共に城の外に飛んで行きそれっきり姿を消したのであった。

 再び分かり易いイメージで言うと、他人のくしゃみやあくびで壷の中と外を行ったり来たりする親子が、壷に戻される時の感じである、お分かり頂けたであろうか?


 体の自由を取り戻したコユキは、勇気凛々、かどうかは定かでは無いが、ビョーンビョーンと元気良く、無駄に長い階段を飛びながら思っていたのであった。
 そろそろ、誰か食い物をくれよっ! と、そんなコユキの願いが叶えられるかは誰にも分からなかったが、フグフグ言いながら、三階の扉を開けたコユキが見たものは!

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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