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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
579.ロット(挿絵あり)

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 幸福寺から北に一キロの位置に建つ団地跡、そこから裏手の藪を百メートル程進むと背の低い草が繁茂はんもした場所に出た。

 自身最速のスキルを使用し続けたコユキはここまでわずか十数秒の時間を要しただけである。

 一目見た瞬間には只の草むらに見えた場所であったが、気を付けて観察すれば、かつて住居か納屋か何かの建物の敷地跡だったり、水田や畑の類だったであろう平たくならされた場所が散見される。

 素早く周囲を見回したコユキは少し先のこんもりと盛り上がった高台に、林立した石のほこら宝形ほうぎょう造りだったであろう物の残骸を見つけるのであった。

 元は巨大な物であっただろう祠を目指して、急ぎつつもやや慎重に『回避の舞アヴォイダンス』を使用して、ススススっと近付いて行ったコユキの視界は、背を向けて座り込む一人の人物を捉えたのである。

 すわロット神か、慌てて声を掛けようとしたコユキだったが、完全に腐り切った脳漿のうしょうの中で、わずかでは有ったが未だ残っていた正常な部分が狂った様に警鐘をカンカンカンカン鳴らし捲った事で、安易な言葉を発する事を思い留まり、そーっと様子を覗いながら近付いて行くのであった。

 そこまで警戒してしまった理由は簡単であった。

 背を向けている人物のサイズ感が何やらおかしいのである。

 具体的に言えばやせ細った幼児くらいの体躯に、転じて成人の倍は有ろうかという頭部で非常にバランスが悪い。

 着ているランニングシャツも短パンも、だけでなく頭髪や全身の肌の色まで、カサカサとした灰色掛かった物で統一されていた。

 ゆっくりと近付くと、大きな頭部がフルフルと小刻みに震えている事が確認できる。

 五メートル程離れた場所まで近づいたコユキは恐る恐る声を掛けたのである。

「あの、ロットさんですか? えっと、大丈夫ですか?」

「あ…… ア…… ああ…… 儂、ロット…… ア……」

 どうやらロット神らしい、良かった、まだ存命だった様だ。

 コユキの言葉に答えたロット神は、スローモーションかと錯覚してしまう程の遅さで、首だけを廻してコユキを見つめたのである。

 振り返ったその顔は全身と同じくやせ細った灰色で、ヤケに大きな目は黒い瞳が辛うじて確認できるだけで、白目も虹彩も朧げなこちらも同様に灰色一色であった。

 気持ち悪い、素直にそう思ったコユキであったが努めて明るく振舞うのである、成長に感動だ。

「ああ、良かった、生きていたのねロットさん、アタシは聖女コユキ! ラビスちゃんに言われた通りレグバ達を探して集めたわよ! 後はロットさん一人だけ、さあ、幸福寺に向かいましょう?」

 ロット神は虚ろな目のままで答える。

「ア…… セ、セワ、カケル…… スマン…… ア、ア……」

 大丈夫だろうか? 死にそうに見えるが……

「大丈夫? 歩けるのかな…… それにしても生きててくれて良かったわ、皆が驚かすから焦って来ちゃったわよ」

「キョ、キョウノ…… カテ、トッタ…… イチニチ…… モツ……」

カテ? ああ、ご飯の事ね♪ ハッ!」

 コユキは見た。

 座り込んだロット神の前に整然と並べられた物を……

 パッと見では何なのか分からなかっただろうが、発言と照らし合わせる事で類推する事が出来たのだ。

 恐らく食事だと思われた。

 そこに並べられた物とは、車か何かに潰されてしまったのだろうか? 哀れにもペッタンコに押し伸ばされて乾燥した、蛙だった物である。

 田舎道ではちょいちょい目にする物ではあるが、最近の生活水準からかんがみれば野良犬や野良猫でも口にしないかもしれないこの蛙の干物がロット神の食事だと言うのだろうか……

 コユキの喉がゴクリと音を発したが、別に食べたいからではない、戦慄したのである。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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