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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
274.土蔵 ②

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 さて、未だフンババやカルラの事等想像もしていない善悪の興味は、共に納められていたしおりに移った。

 真っ白い厚紙、画用紙を切って作った物だろうか?
 中央にシロツメ草、所謂いわゆるクローバーの白い花が押し花になって貼り付けられていた。
 善悪はその栞を手に取ると裏返してそこに書かれた文字に目を向ける。

”肩を並べて戦いし、君へと贈る”

 子供の頃は意味不明の言葉であった。
 しかし、昨年の夏から秋に掛けて、思いもしない冒険に巻き込まれ、幼馴染コユキと共に闘いを生き抜いてきた善悪には、今であれば充分過ぎるほどに理解出来てしまった。

 これは、死闘に赴く叔父さん、聖戦士である昼夜チュウヤがパートナーであるツミコさんに残した遺言とも言うべきメッセージである、と。

 シロツメ草の花言葉は、 ”私を愛してください” である。
 
 死を覚悟する闘いに赴く叔父が、最後に残したかった言葉は、聖女と聖戦士の禁忌によって阻まれた、彼女への秘めた思いであったのか…… そう考えた善悪は、己の恋するコユキと関連付けて、酷く悲しく感じるのであった。

 少し迷うような素振を見せた後、何やら覚悟を決めた表情を浮かべて栞を文箱に戻し、丁寧に蓋を閉めた善悪の耳にルクスリアの嬉しそうな声が届くのであった。

「み、見つけましたわぁ! 善悪様、ありましたよぉぅ!」

ん、本物はここにあるのにそんな馬鹿な! そう思った善悪は文箱を携えて入り口近くへと足を運んで行く。

 程無く入り口に辿り着いた善悪が目にしたのは、ロシアンクッキーの空缶の蓋を今まさに空けているルクスリアの姿であった、蓋にはガムテープが張られ、その上に大きく『ぼくのたからもの』の、何やら見覚えが有る筆跡の文字が書かれている。

「?」

どこかで見たような? そう善悪が思っている間にも、ルクスリアとイラの元ラブラブ夫婦が缶の中身を確認してしまうのであった。

「あら? これは…… ビー玉ですわね? こちらはメンコの束ですわ? 聖なる遺物ではないのかしら? ねぇ、アナタ?」

「うん、どうだろうか? これは…… ビニール風呂敷、か? こっちのは、うん、銀玉鉄砲だな? 子供が大切にしていた宝物みたいだな? ハズレ、か……」

会話を聞いていた善悪は漸くようやく思い出したのか、二人に言うのであった。

「あははは、そうそう、残念ながらそれは僕ちんが子供時代に隠した宝物でござる! 懐かしいなぁ~」

「あら、このノート、子供の字だけど凄く綺麗に纏められているわね! 名前は『茶糖コユキ』、コユキ様のノートですわ! 何でこんな所に!」

「マジか? うん、まだ下に何か入っているぞ? これは…… ポケットサイズの洋物の、ん、エロ本だ、な…… あれれ? 全部の女性の顔の所にコピーかな? 切り抜いた女の子の顔が貼ってあるんだが…… おい、ルクスリア! これって若い頃のコユキ様じゃないかな? どう思う?」

バンっ!

真っ赤な顔をした善悪がクッキー缶の蓋を踏みつけて強引に閉めてしまうのであった。
 イラが指を挟まれてしまい、何とか引き抜いて息をフ~フ~吐き掛けている。

「な、何をするんですか? 善悪様! あ、危ないじゃないですか?」

見る見る腫れ上がっていくイラの指など歯牙にも掛けない余裕の風情で善悪が答えた。

「それは、拙者のパパンの大切な宝物でござる! パパンのプライバシーを侵害してはイケないのでござるっ!」

なるほど、そりゃそうだ、しかしルクスリアが疑問の声を上げた。

「ええ、でもメンコにもビニール風呂敷にもしっかりと、『幸福ヨシオ』って名前が書いてありましたんですのよ!」

「た、確かに! 痛てて、フ~フ~」

善悪は元夫婦の胸倉を文箱を持っていない右手一本で、手繰り寄せるように捻り上げ、表情を消した顔を近付けて言ったのである。

「……おい、世の中にはな…… 疑問を持っても口にしない方が良い事が…… 沢山あるんだぜ? 長生きしたかったら、俺の話しに合わせといた方が…… 良いだろうなぁ? あ!」

「「は、はい……」」

承諾の返事を聞いた善悪は、二人の胸倉から手を離した後、蔵の出口に向かいながら念を押す。

「んじゃあ、コユキ殿のもとに戻るのでござるが、いいか、お前達は蔵の中で何も見なかった、忘れるなよ、もしペラペラ喋ったりしたら――――」

「わ、分かってますよ! もう忘れてしまった様な気がする感じだと思うんで、安心して下さいよ、なあ?」

「え、ええ、本当に! ロシアンクッキーの空き缶もその中身の事も、すっかり記憶の彼方ですわ、ご、ご安心を……」

「……なら良いのでござる」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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