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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
689.魔力災害

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 数年前、大規模で広範囲に及ぶ魔力災害に襲われた旧サハ共和国には、ロシアの聖女ナターシャ達や中国のワン達だけで無く、クラックを利用できるコユキと善悪、『聖女と愉快な仲間たち』も当然駆け付けたのだった。

 最初に飽和状態の魔力に包まれた地域では、命有る者の全てが一瞬で石と化してしまった。
 徐々に滅びの範囲が広がる中、ナターシャは得意の結界術を駆使して人々の保護に努め、ワンはスキルの飛行術でワイヤーアクション張りに空に舞い上がり、吊り上げられた様な不自然な姿勢ながらも、必死に避難すべき方向を示し続けたのである。

 コユキと善悪もフル稼働であった。
 周囲に溢れる魔力をエスディージーズで集め続けた善悪に、遊水地顔負けの吸引力で魔力を引き受け続けるコユキ、幾ら死ぬ事のない体になっているとは言え大変な作業であった……

 結局、『存在の絆』通信での召集を受けて集まったアスタロトの『反射』で避難する人々への影響を無くし、噴出孔の入り口をバアルのアンチマジックエリアで蓋をするまで、魔力を吸い続けたコユキの体重は夢の千キロ、トン越えを果たしてしまったのである。
 当然お腹も一杯で、その日の夕食はいつもの八割程度しか食べられなかった程である、いかに満腹だった事か…… 驚きである。

 兎に角、三魔界総出で魔力災害を何とか最小被害に押さえ込み、被災者を南部のオレネクまで送り届けたのであった。
 余談かもしれないが、避難した人々はその後、更に南方の大都市ヤクーツクの被災住宅へと移って行った様である。
 良かった、そう思うかもしれない、しかし、世界にはそれほどの余裕は残っていなかったのである。

 翌年、ロシア共和国はロシア連邦の解体に踏み切ったのだ。
 サハ共和国に連邦中央からの予算配分は打ち切られ、被災者のみならず、辺境に暮らす全ての人々が吐痰とたんの苦しみに曝される事となったのである。
 オーディエンスの皆様の中にはこんな声があるかもしれない。

「全く露助ろすけは、これだからな!」

…………

 残念ながらその指摘は的外れ、そう謂わざるを得ない。
 この頃のモスクワ、いいやクレムリンはそれ所では無かったのだ。
 懸命なオーディエンスの諸兄ならば、当然ご存知の事であろうが、ロシア連邦の原子力発電所はモスクワ中心にグルリと包囲するように配置されているのである。
 これらがヤバかったのだ……

 既に八割位の発電所がメルトダウンを防ぐ事、それだけを目標にリソースを集め心もマンパワーも注ぎ込み、電力消失も常の事、軍も官僚も違える事無く、最悪の状況を避ける事だけに注力し続けていたのである。

 連邦解体はむしろ、今後降り掛かる事確定の忌むべき未来から、協力者である諸共和国を遠ざける為に取った、苦渋くじゅうの策、友情に答える最期の施策しさく、そう言う意味合いを持っていたのである。
 これを聞いても言う人は言う事だろう。

「全く露助は、これだからな!」

 再び言おう、これも当たらないのだ。
 何故なら、皆さんの時代の一方の雄、アメリカ合衆国であってもロシアとほぼ同様の事態に苦慮くりょしていたからである。

 アメリカ合衆国の原子力発電所は、ご存知の通り、東海岸の人口密集地を囲むように配置されている。
 これらがロシアと同様に崩壊寸前、絶望的破壊の直前に追いやられていたのである。

 救いなのは国家分裂の様な事は起こらずに、合衆国国民は手に手を取り力を合わせてこの未曾有みぞうの危機に向き合っていた事であろう。
 首都はワシントンDCから同じくワシントンを冠する、西海岸北方のシアトルに移された物の、未だUSA魂は消え去ってはいない様であった。

 地中海に面した国々もエウロパの強国も、おおむね同様の状況で、最早国としてのていを為してはいないのがこの時代の常となっているのである。

 勿論、日本を始めとする東アジアも例外では無かったが、日本、中国、韓国、北朝鮮、モンゴルが相互に協力し合う事で、ぎりっぎっりっ、国體こくたいを維持している状態であったが、それすらもいつまで持つ事やら…… そんな状況であった。

 全人類が、等しく滅びの目前に引き出されている、そんな終末を迎えていたのである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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