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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
246.泥 (挿絵あり)

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 コユキは思う、それにしても腹が減った、と。
 そんなコユキの前に設えしつらえられた上品な瓢箪ひょうたんの形の池には、彩り豊かな錦鯉が丸々とした姿を晒しさらし捲っているのであった。

 ――――鯉か…… アライ、鯉こく、ははは、じゅるる、二、三日泥を吐かせて生姜醤油とお酒でじっくり煮込んで、ははは、旨そうだね、皆、良い子(味)そうだねぇ~

「えっと、こ、コユキさん、大丈夫ですか? あの、ヨダレが……」

 流石はお医者様、だらだら流れ続けるコユキの涎に健康障害の可能性を考えてしまったらしい、腐っても鯛、そう言う事であろう。
 コユキもハッとしながら答えるのであった。

「う、うん、大丈夫よ、この子(鯉)達に危害を加えるつもりは無いから(他人の所有物だから仕方なく)、心配しないで…… んだけど……」

コユキは思った。

 ――――この庭に有る湿り切った泥、土だったたら食べても良いんじゃないかな? そう、そうだよ、誰かが言っていた気がする、土地? それに何の意味があるんだ? ただの土だろう? だっけか!

 パンッ!

「頂きます!」

 言うや否や、足元の泥をむんずと掴み、口に運ぼうとするコユキを、何とか止めに入った青年医師の男は叫ぶのであった。

「えっ! えっ? 何やってるんですか! コユキさんっ! 泥ですよ! 食べちゃダメですってば! ダメダメっ!」

コユキは答えた。

「離せ! 上級国民! アンタだって毎日毎日炭素喰って生きてんでしょ? 珪素けいそと炭素の類似性ぐらい知ってるでしょうがぁっ! 処か、アンタ等お医者様が大好きな『お薬』だって、カオリナイト使ってんじゃない! 土でしょ、土は食べ物なのよぉぅっ!」

「だめだめ、砒素ひそとか鉛毒えんどくとかも有るかもでしょう~! コユキさん、ダメだよ~、お、重い、だけど、ダメっ、だよおぉぅっ!!」

 暫くしばらくドタバタしていた二人だったが、何とか泥喰いを思いとどまったコユキがヘトヘトになった彼に言った。

「分かったわよ、中々のガッツだったわね、アンタ! そんなアンタを見込んで頼みが有るんだけど、聞いてくれるかな?」

「はぁはぁ、う、うん、何? 僕に出来ることなら何でも聞くよ?」

「じゃっさぁ、チャンニイ~、二万貸してくれよぉ? おらっ! お財布見せてよぉ! へへへっ、持ってんだろ? おらっ!」

 どうしてしまったんだコユキ、ま、まさか、カツアゲ?
そ、そんな馬鹿な!
お婆ちゃん、アンタ間違ったことだけはしない筈だったんじゃ……

「えっ? 二万円ですか? それ位だったら別に良いですけど、普段はカードしか使わないんで現金は二、三十万円しか持ち合わせていないんだけど、はいっ! 二万円!」

 金持ちって凄いんだなぁ~、これは私観察者の私見である。
コユキは普通に受け取ると、何の屈託もなく答えた、ニッコリと笑顔を残して。

「あ、あんがとね♪ んじゃ、ちっと借りるわね、よし、行くか!」

「コユキさん! えっと、どちらへ?」

 コユキはニヒルな笑顔を浮かべて言うのであった。
(※表情は顔肉が付きすぎていて変わっていません)

「ふっ、ボウヤ、大人しく待ってな…… 夕飯までには返してやるからよっ!」 シュパッ!

 言い終わるや否や、コユキは残像も残さず姿を消した、アヴォイダンスではなくアクセル加速を使ったようだ。
本気の度合いが窺い知れる、コユキ、珍しく本気の本気、であった。

 コユキは二秒足らずで古ぼけたラーメン屋の暖簾のれんの前にいた。
 如何にしょぼい地方都市、県庁所在地とはいえ、人口七十万を越える中核都市の駅前とは思えないほど寂れたさびれたラーメン店。

 誰の興味も引かないだろう店先に、小さなダンボール製の張り紙が一つ、

『誰の挑戦でも受ける、来たれ勇者よ! 超大盛ラーメン! 二十分で食べ切れたら無料! 失敗したら二万円のペナルティ! 挑戦者求ム!』

 コユキはふんすっ! と、鼻息をならして暖簾のれん潜りくぐり、静かに告げたのであった。

「受けてもらおうかな、超大盛ラーメン、出してチョウダイ!」

と……

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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