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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
247.昭和のリズム 

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 期限の二十分が過ぎようとしていた……

 コユキが麺を必死に吸い続ける音が、ヌーハラ丸出しでズルズル吸い上げる音が響き続ける中、ラーメン屋の親父さんが、チャンチャンガッガッと炒飯を煽るあお派手な音でハーモニーを奏でていた。
 親父さんの横には、ジュージューと水気を飛ばす丸鍋が静かなリズムを取るように何やら焼き上げていた様である。

 間に合うのだろうか?
 そろそろ二十分たってしまうのだが?

 コユキが言った、

「おやっさん、お代わり!」

「あ、あいよ!」

 間に合ったようだ、良かった良かった、コユキはこの約二十分の間に、超大盛ラーメンをお代わりすること七回目であった……

つまり、全然心配いらなかったのである!

 にしても、大盛チャレンジをお代わりし続ける人間なんて、人間? ニンゲンかどうかは定かでは無いがこんな奴は初めてであった、おやっさん的に……

「へい、おまっとさん、もしも食べ切れなかったら最初にお預かりした二万円を頂きますよぉ! 頑張ってチャレンジチャレンジィ♪」

 言い終わるのを待たずにコユキは口いっぱいに頬張った大量の中華麺(極細)をズゥーッズゥーッと飲み込み続けている。

 僅かわずか二分後、スープを最後の一滴まで綺麗に飲み干したコユキは、店主の親父に話し掛けようとしてその動きを止めるのであった。
 今迄厨房で忙しく動き続けていた親父が、いつのまにかフロアに出て立ち尽くしていたからである。

「?」

 キョトンとしているコユキに対して、ラーメン屋の店主は頭にかぶった中華風のコック帽を外し、薄くなった頭頂をコユキに見せつけるかの様に、丁寧な最敬礼をしながら告げたのである。

「申し訳ないお客さん! スープ、完売でございます! 参りましたっ!」

 そう言って頭を上げると、最初に払ったチャレンジ代の二万円をレジから出してコユキに渡しながら言った。

「お見それしました、さぞかし名の通った方なんでしょう? 最初に預かった二万円をどうぞ、それとこれなんですが、炒飯と餃子、土産代わりにお持ち下さい」

 そう言ってコユキの着いていたテーブルの上にずっしりと重そうなビニール袋を二つ置いたのである。
 チラッと覗いたコユキの目には、パックに小分けにされた炒飯と餃子が二つの袋に均等に入れられているのが見えた、ニタリと悪そうに微笑むコユキ。
 コユキは大きな帯周りをボルンっと揺らし、ゆったりと立ち上がって親父に返す。

「お気遣いありがとう、んでもアタシなんて只のアマチュアよ、今回良いパフォーマンスができたのもおやっさんの味、有ればこそよ…… 魚介と鶏がらのオーソドックスなスープに二種類の醤油ダレ、極細のストレート麺がすっきりとしたスープにベストマッチだったわ! 奇をてらうことの無い昔ながらのロースチャーシューもシンプルだったし、細かく裂かれたメンマの下味も懐かしい昭和の風味を感じさせてくれた。 お見事と言うなら、時代の流行に流される事なく、『定番』の中華そば、それを守ってくれたおやっさんこそ、見事だわ! 敢えて自分の快挙と認めるとしてもそれは決してアタシ一人で成功させた訳じゃない! ここに美味しいラーメンがあってこそ辿り着けた、言ってみればおやっさんと二人力を合わせて成し遂げた事だと思うわ、だから言わせてもらうわね、おめでとう、と」

「お、お客さん…… あ、ありがとうございます…… グスッ」

 コユキの言葉が余程嬉しかったのか、涙ぐんでいる店主の肩を、濃厚接触にならない程度にポンポンやっているコユキ。

 一見良い事を言っている様に見えるのだが、実際にはこの店のシステムのアラに付け込んで、大量のタダ飯を食っただけなのだが、ここで店主に告げるなんてのは情緒知らずの野暮天ってやつだろう。
 コユキもそこら辺は充分わきまえているのだろう、無言のまま笑顔を浮かべてラーメン店を後にするのであった、両手に確りしっかりと炒飯と餃子を提げて……

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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