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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
669.デブデブ亡者

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

今回の話には、
『80.虫けら爆誕!』
『81.閣下のハンバーグ (挿絵あり)』の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。


 空だった右手に小さなカップと、その中に満たされたトウモロコシを砕いて煮込んだ液体を顕現させながらカーリーはコユキに問う。

「ねぇ、コユキ、このスープの名前は? 貴女に判るかしら? もし判ったのなら答えて欲しいんだけ
ど?」

 コユキは自信満々で答える。

「ん? ああ、これね! これは、そう、ええっと確か、ああ、あれよっ! え、エポタージュよ! そうっ! エポタージュっ! それが何なのぉ?」

「エポタージュですってよぉ、ねぇ善悪? 貴方どうするのぉ?」

 コユキの問い掛けに答える事無く、カーリーは善悪に視線を向けて、向けられた善悪が入れ替わる様に答えた。

「コユキ殿、これは『エポタージュ』ではなくポタージュでござるよ! どうしたの、でござるよ!」

「えっ? エポタージュじゃ駄目なの善悪…… ぽ、ポタージュ…… か…… 判ったわっ! んじゃあ、この液体はポタージュよポタージュ、それで良いんでしょぉうぅっ?」
 
「うんポタージュね、モラクス君が顕現した時、三重県遠征に向かう朝、何故か治っていたコルサコフ症候群がぶり返したのかと思っちゃったでござるよ、ああビックリした、でもあの時みたいに聞く耳が無いわけじゃなくて安心したでござる、治って良かった良かった、時々コユキ殿が言っている『寝て起きたら解決してる』が実現した稀有けうなケースだったよね、あれって」

「いいえ善悪、彼女のウェルニッケ脳症、と言うより乾性脚気かんせいかっけは治っていない、それ所か悪化し続けて彼女の記憶を破壊し続けていたのよ…… 今日までずっと、ね……」

「?」

「えっ、でも……」

 あの晩以来、特段記憶障害的な言動は見られる事もなく、日常生活や悪魔達とのやり取りになんら支障が無かった事を思い出しながら呟きを漏らした善悪に対してカーリーは説明を続ける。

「コユキの中に共生しているルキフェルのアートマンが消えた記憶を補完し続けていたのよ、それで周囲からは治った様に見えていただけなの…… アートマンは破壊されないからね、そう言う事よ」

 カーリーの判り易い説明を聞かされてもまだ、善悪は納得出来ないといった表情で言う。

「んでも、あの日以来、栄養バランスを考えたメニューに留意してきたのでござる、特にビタミンb1、アリチアミンは豊富に摂取出来るようにしたつもりでござるよ? なのに悪化するなんておかしいでござろ?」

 なるほど、当然の疑問と言えるだろう。
 私の観察でも、善悪は食事の献立に細心の注意を払っていた筈である。
 回復する事は無い病だとしても悪化するとは、専門外の私でも考え難いのだが……

 私と善悪のハテナに対して、カーリーは諭すように答える、わずかに溜息混じりだ。

「はぁ、まあアタシも見てきたけど献立的には気を付けていたわね、問題は相対的な主食の量よ、量! コユキが毎日どれ位の白米を食べてきたと思ってるの? 幸福寺で食べてる一日四食プラス二回のおやつだけじゃないのよ? 特にやる事が無い時なんて、一日中例の茣蓙ゴザに寝転んで『具無しの白米饅頭外塩が怖いわぁ』って言い続けていたんだからね、起きてから眠る直前までずっとよ? アタシの見立てでは多い日で八十キロ位は白米と塩だけ食べていたわよ」

「は、八十…… それが本当なら、確かに相対的に見れば米しか食べていないのでござる…… 何で又そんな馬鹿な真似を……」

 コユキはやや恥ずかしそうにしながら答えた。

「塩塩プレミアムメニューで気が付いちゃったのよ、白米の甘さを引き立てるのは塩だって事実にね…… シンプルイズベスト、日本人だもん、仕方がないでしょ?」

 仕方ないってか良くそんなにも…… 馬かよ?
 私同様善悪も驚いたのだろう、無言で自らの相方を唖然とした顔で見つめていた。

 カーリーは言葉を続ける。

「まあそう言う訳で、コユキと善悪二人揃ってお亡くなりになったのよ、今は分け合ったルキフェルのアートマンのお蔭で活動してるって事、言い換えれば、二人揃っていれば純粋なルキフェルと同じ、そう言えると思うわ、恐らく受肉して以来初めての事よ、これ」

『おおおおー!』

 派手な演出など皆無だと言うのに、本日最高の盛り上がりを見せる悪魔達を横目にしながら、善悪と並んだコユキはカーリーに言う。

「判ったわ、アタシ達二人は死を受け入れるしかないみたいだわね、んでこれからどうすればいいの? 天国や地獄みたいな場所っていうと、ヘルヘイム、か…… 直接向かえばいいの? それともちゃんとさっきレーテー川で会ったカローンさんに連れて行って貰った方がいいのかな?」

 この言葉にはヘルヘイムの主であるバアルがいち早く返す。

「いやいや、コユキ姉さまや善悪兄様が妾の所に来たって、妾裁くとか出来ないからさ! ってか一緒に暮らしてるんだから意味ないでしょ? 今更」

「そうなの? んじゃどうすれば良いのでござる? こう見えて死んでいるんでござるよ、拙者達って! まさか生者と一緒に娑婆しゃばで暮らす訳にも行かないでござろ? 幽霊じゃ有るまいし」

「そうよね、早く行くべき所へ向かってこの体はルキフェルに渡さないと駄目だと思うわ、大概のアニメやラノベでも死者が現世うつしよに残ったりするとろくな事がないのはお約束よ、今に正気を失って邪悪な怪物になるわ、んで主人公に倒されて『止めてくれて、ありがとう』的に解放される所まで見えるわ!」

「いいえ、今まで通りで問題無いわよ」

「へ?」

「なんで?」

「あのね――――」


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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