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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
694. ブラックナイト

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 いつの間にか中天に現れた漆黒の機体は無骨ながらも天使、そんな気配を有する巨大な物であった。
 ゴツゴツとした重厚な外観とは違って、ふわりと着陸を果たした、『彼』の言葉はこうであった。

『待ち焦がれました、我君ぃ、空を飛び続けた事、六千万年…… ですよ? 限界っ、判りますか? 限界突破でしたよぉっ! 我君ぃぃぃっ!』

 なるほど、六千万年、か…… 確かにそりゃ限界を超えてるよな……
 私の観察、その全てでも数百年、いいや細かい物を足したとしても精々数千年に過ぎないからな、六千万年か…… その長さだけで苦行だと理解できた、彼がどんな存在かは判らなかったけれども……

 兎に角、彼が激怒げきおこぷんぷん丸状態である事だけは理解できた、私、観察者であった。

「辛い思いをさせたようだな、許せよセエレ、しかし良くぞ命令に従ってやり遂げたものよ…… 見事であった! 長き時を天空にて只一人、孤独に耐えてくれたのだろう…… 言い付け通り、誰にも見つからなかったのだろう?」

『うっ…… そ、それは……』

 言い澱む巨大な飛行物体に対して、ルキフェルはいぶかしげに聞く。

「む? どうしたセエレ? 亜光速で飛行するお前がまさか人間風情に発見された訳でもあるまいに? 一体何があったと言うのだ?」

『えっとぉ……』

「『確かに人間には見つけられないでござろうな、ふざけて超低空まで降りて来たりしなければね』、何だとどう言う事なんだ? 『ああ、あれかぁ? 普段は国際宇宙ステーションの四倍遠い軌道に居るんだけど、ふらふらと地球とステーションの間辺りを飛び回ったりしているって言う謎の衛星、ブラックナイトがこの子、セエレって事ね、ネットで見たわ、あとムーで』、……遊び半分で見つかったと、そう言う事なのか? 『そうでござるなぁ、丁度、一万三千年前から謎の電波を出しているとか何とか仮定されていたし、そう考えると自由だ万歳! 好きに生きられるぜっ! って所じゃないのでござるか?』、むむむむぅ、『そうよ、きっと! 確かスペースシャトルエンデバーがステーションを建設し始めた時にも、肉眼で視認できる程近くまで寄って行ったのよ、物見遊山ものみゆさんよ物見遊山』マジで? 『マジでござるよ、しかも衛星の癖に自転に逆らって飛ぶというオマケ付きでござろ? 隠れる所か興味を引く気満々にしか思えないのでござるよ』『そうねむしろ発見されようとしているとしか思えないわよね』……何か言う事が有るか、セエレ」

『ご、ごめんなさい…… 寂しかったんです……』

「はぁー呆れたヤツだな全く…… 『まあまあ、済んだ事でござろ? 許してやるのでござるよ』『なははは』、それもそうか、んじゃ許してやるか! おい、セエレ! 飛行できない悪魔たちを搭乗させて飛び立ってくれ、行き先は五十万キロ上空、月の遠軌道の外だ、安全運行で頼むぞ」

『アイアイサー! ほれ、飛べない奴等は乗った乗った! 早くしないと追いてっちまうぞぉ!』

 この言葉を聞いた光の天使、いいや悪魔達は、開かれたハッチからセエレに我先に乗り込み始める。
 順調に乗り込む悪魔達の姿を確認したルキフェルは改めて美雪と長短に顔を向けて言う。

「では本当にさよならだ、皆、体を大事にな、さらばだ『さらばでござる』『さらばよっ!』」

 そう言うと振り返る事無く、巨大な翼を羽ばたかせて空へと飛び立つのであった。

「世話になった」「楽しかったよ」「じゃあな」「頑張れよ」「さよなら」………………

 次々と飛び立つ悪魔たちは、短く別れの言葉を口にするのだった。
 幹部陣達もルキフェルにならった様に、未練の素振りも見せずに空へと消えていく。

 気が付けば既に残っているのは一柱の悪魔のみであった。
 純白の光と化したオルクスは、しばらく人間達の顔を見渡して何か考えている様だったが、最期に美雪を見つめて笑顔を浮かべて言った。

「行ってきます」

 美雪は笑顔を返して言う。

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

 美雪に続けた長短にオルクスが悪戯いたずらそうに言う。

「帰りは遅くなる」

 長短は少し驚いて返した。

「帰り? ですか…… 戻ってくるんですね?」

 オルクスは一層深い笑顔を見せた後、純白の翼を羽ばたかせ、宙に浮かびながら答えた。

「いつかね」

 そう言うと、美雪たちの上空を数度、円を描いて飛んだ後、目にも留まらぬ速さで空の中へと消えて行くのであった。

 オルクスが消えた後も、名も知らぬ悪魔達の飛び立つ姿を飽く事無く見つめ続けた一行は、最期に轟音を響かせて飛び立つセエレがその姿を消すまで、見送り続け、その後、消える前のメット・カフーが準備してくれていたクラックを通って幸福寺の境内に戻りついたのである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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