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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
747.それぞれの役割

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 さて、国の名前も決まって王者の尊称も決まった。
 となれば、次に来るのは国の有り様を支える身分毎の役割分担、その任命作業だろう。

 だが、しかし、彼らは魚類と両生類の混成組織だったのである。
 食と住、それ以外に望む物など無い…… 服は着ないから衣は端から除外である。

 毎日、お腹一杯に食べる事が出来て、ヤバそうな嵐や大雨の時にも安全な長城をナッキが作っていたのだ。
 何の心配も無い美しヶ池に暮らす者は皆、種族毎に『ごっこ』を始めるのである。

 まずは、モロコはその特性、臆病な性格を活かして警備の任に着く事となった。
 とは言っても、美しヶ池全体を数匹一組で並んで泳いでみたり、長城と化した築地のそこかしこに見張りよろしく浮かんでいるだけである。
 まあ見た目的にはしっかりとした感じであった。

 カエル達はナッキを手伝って、土木工事の残りなどに従事していたのだが、ブル配下のウシガエルや影武者ダルマの仲間のダルマガエルと違って、体が小さなカエル達はあまり役に立てない事を気にしているようだった。

 特にアカネと同じく侍を自称しているアカガエル達は、同じく小柄なアマガエルと一緒に下の池周辺の陸地の探索実施を、ナッキに直訴して来たのである。
 これに対してナッキは慎重な答えを出した。
 乾くと死ぬ…… この話を聞いたナッキは、念の為に探索は雨の日だけと条件付けした上で、更にこうも付け加えたのである。

「万が一、二足歩行の巨大な生き物を見つけたら、直ぐに探索を打ち切って戻ってくる事! これが守れない様なら陸地に行く事自体許可できないよ、どうかな、守れる?」
 
 活躍の場を求めていた小型のカエルは揃って誓いの声を上げ、次の雨降りから慎重に周辺の探索調査を始めたのであった。

 メダカ達は、毎日交代で上の池の卵たちに新鮮な水を送る為に尾鰭を動かし続け、任に漏れた者達は今まで通り、細かな土木作業や、子供達のお世話である。

 議長と評議院幹部の数匹のモロコは、カジカ大臣や殿様、メダカの長老たちと一緒に国法の整備、平たく言えば美しヶ池で暮らす者の守る、ルールやモラル、エチカなんかを決めて行った。

『みんな仲良く』だとか『ゆっくり泳ごう』だとか『元気に挨拶』みたいな緩いルールの中で一際目を引いたのは第一条である。

 曰く、

『餌場で赤く細長くうねる虫を見つけた者は、速やかに王様か側近に伝えなければならない、その他の者も餌から距離を取り、決して近付いたりましてや口にしたりしてはならない、この禁を破った者は厳罰に処す』

だそうだ。

 実の所ナッキは池の外の小川に出る事も禁止しようとしたのだが、モロコやカエルだけでなくメダカ達にも猛反対されてしまったのだ。
 皆、池の外の世界に興味津々だった様で、さしもの王様であっても孤独を感じざる得ないほどのブータレ具合だったのだ。

『下流の滝には近付かない事』

『外に出る時は保護者同伴』

『それを徹底する為に門番とパトロールを配置する事』

 ナッキが譲らなかったこれらの条件を、全員が不承不承ふしょうぶしょうながらものんだ事で、政権転覆の危機をギリギリ回避出来た『美しヶ池』である、危機一髪であった。

 革命前夜を乗り越えた池は平穏無事に日々を過ごしていた。

「はーい、みんなぁ、こんにちわー♪ 僕が、おっとぉ、私がみんなの王様、『メダカの王様』、ナッキだよぉ♪」

『はぁーいぃ!』

「うふふ、みんな元気だねぇ~! おたまじゃくしはまるで魚だねぇ~! うふふふ♪」

「お、王様っ! た、大変ですぅ!」

「へ?」

 昨日孵化したメダカとカエルの子供たちを前に、最初の挨拶をしていたナッキに門番役のモロコが焦ったような声を届けたのであった。
 驚きの声で答えたナッキは、急激に冷静さを取り戻しながら聞く。

「どうしたのさ? 何が大変なのぉ?」

 門番のモロコは答える。

「あのっ、ですね、大きな魚がやって来て、ですねっ! 隊長達、カーサ様とサム様が引き止めているんですが、あの、そのっ、何でも、ギンブナがピンチだとか何とかぁっ? 意味不明な事を述べ続けておりましてぇーっ! あの、えっと、そ、そ、それでぇ、わ、私がご報告にぃー、来たのでっすぅっ!」

 つたない報告ではあったが、ナッキは大切な所を聞き逃しはしなかったのである。
 大きな声で確認するナッキ。

「えっ! ギンブナ? だってぇー! ピ、ピンチなのっ? んじゃやって来た大きな魚って言うのはヒットとか? 大人のギンブナの誰か、って事だよねっ! 僕が行くよっ! さあさあ案内しておくれよぉっ!」

「は、はいぃっ!」

 一所懸命な声を上げたモロコと共に、門番のリーダー、カーサ、サムが揃って押し留めている大きな魚の元に向かったナッキは素っ頓狂な声を上げたのである。

「あ、アレェ? き、君てぇっ? ハヤだよね? ピドと一緒にいた『暁の弾丸』のメンバーかな? たった一匹でギンブナの事を伝えに戻って来てくれたのかい? ギンブナの皆に一体何が有ったって言うんだい?」


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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