堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
159.Gateway
傷付いたのか、足元の小石をコツンコツン蹴飛ばしているシヴァを放置して、コユキは偽装されているであろう場所へ近付いていく。
そして、かぎ棒をその空間に刺し込むと、先程まで映し出されていた斜面の景色が消え去り、代わりに直径三メートル程の大穴の入り口が、姿を現したのである。
それを見て善悪が呟いた。
「ふむ、パッと見た感じだと、まんま溶岩窟でござるな? 」
「行ってみましょう! 待っててよ、リエ、リョウコ、みんな! 」
やる気満々のコユキに促され、魔界へと繋がるであろう、暗い溶岩窟の中に踏み込んで行く『聖女と愉快な仲間たち』であった。
暫く進むと足元も見えない程暗くなったので、準備して来たヘッドライトを点け、念の為大き目の懐中電灯のスイッチも入れる。
格段に歩き易くなった事に安心したのか、コユキが明るい声で善悪に話しかけた。
「それにしても、キノコが完全にフラグだと思ったのに、結果なんにも起らなかったわね。 結局フラグなんて創作物の中だけなのね! 」
私は観察しながら叫んだ、馬鹿! それがフラグだ! と……
しかし、観察も経験も一方通行、私の声が届く事は無いのである。
グルルルルル!
突然鳴り響く猛獣の唸る様な声は、溶岩窟の先から聞こえた様であった。
大型獣特有の地を這う様な重低音のそれは、威嚇というよりはっきりとした怒りや殺意を孕んでいるようだった。
声の出どころに顔を向けた、コユキと善悪は上を見上げたまま、思わず叫び出しそうな衝動に駆られた。
二人から数メートル先の溶岩窟の通路を塞ぐように巨大な熊が立っていたのである。
胸には特徴的な白い斑が見て取れるのだが、その体躯はツキノワグマとしては明らかに大き過ぎた。
ヒグマか? そう見紛う程の体長は、目算で三メートル位に見え、黒く長めの体毛が、一層凶暴さを増して見せている。
たじろぐコユキの右肩でパズスが叫ぶ。
「鉄盾」
ガッ!!
瞬時に展開された魔力の盾がコユキと善悪の目前で、熊が繰り出した凶悪な爪の一撃を弾いた。
コユキは背中に冷たい物を感じて、思わず身震いをしてしまった、
熊がいつ攻撃を仕掛けたのか、その気配すら感じられなかったからだ。
コユキが戦いている間に、熊は二度三度とその爪を振り続け、四度目の爪が振るわれた時、パリンっと軽い音を響かせて鉄盾が消失したのだ。
「守護」
辛うじて凶熊の爪から善悪を守ったオルクスはモラクスと一緒に、続けてのスキルを発動した。
「「風よ」」
二人の体から吹き出した烈風が熊の巨体を溶岩窟の奥へと少しばかり押し出し、間合いを取る事に成功した。
それを見て、ラマシュトゥが大声で叫んだ。
「ほんの少しでも傷を負わせて頂戴! 改癒させるわ! 」
「応! 分身」 「暴爪弾」
アジ・ダハーカの分身である三メートル程の緑竜(翼付き)二対が熊を左右から掴むと同時に、モラクスの爪から打ち出される魔力弾の連射。
熊の全身を打ち貫くと思われた弾丸は、信じられない事に着弾直前で、全弾力無く地面へと落とされたのであった。
「と、止まれ! 」
アヴァドンが『支配者』の効果を乗せて叫んだ命令で僅かな間、熊の動きを止める事に成功した後は、流れるように連携を取っていく。
「魔力崩壊」
「突角長槍」
「弱体治癒」
瞬時に熊の前に展開された正体不明の障壁を破壊したシヴァの技に続いて、熊の体を鋭く抉るモラクスの攻撃、ラマシュトゥの改癒がその傷に入り込んで行くと熊は数十センチの可愛らしい子熊に姿を変えるのだった。
「ふぅ、みんなありがとね、死ぬかと思ったよ」
コユキの声にラマシュトゥが答える。
「いいえ、まだ! 改癒を解こうとしていますっ! 兄様、急いで! 」
その悲鳴の様な叫びに答えて、善悪とオルクスが声を揃えた。
「「即時配達」」
その声に答えるように一瞬で姿を消失させる熊に、一行は揃って安堵の息を吐き、その場に座り込むのであった。
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拙作をお読みいただきありがとうございました!
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