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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
732.決河の勢い

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 ハヤ達を見送ったナッキは、メダカと手分けして池の中の状況を確認して行ったのである。
 激しい嵐の襲来に対して、築地ついじや水草は有効に働いたらしく、大きな被害が見受けられ無かった事に、ホッと胸を撫で下ろす一同である。

『無事乗り越えられましたね、王様』

 近くに寄ってきたメダカの声に頷きながらナッキは言う。

「そうだね、だけどいつもの餌場から流れ込んで来ている水の量は滝みたいで、子供達が近付くのはまだ止めた方がいいね、念の為築地の中でコケとか食べてて貰おうよ」

『なるほど! 伝えて参ります!』

 周囲に集まっていたメダカ達は、ナッキの言葉を伝えるために築地に戻っていく。
 一匹になったナッキは、餌場になっている水の流入場所に向かうと、水面から顔を出して独り言を呟いたのである。

「本当に滝みたいだ…… ここの水量がいつも通りに戻ったら本当に嵐が去ったって事になるんだなぁ…… それまで気合を入れて注意をして行こう! ん? 何だろう? 声が、聞こえるぞ、一体どこから?」

 普段と違って水中ではなく、大気中を伝わってくる僅かな音に、目の後ろの内耳ないじを澄ませるナッキ。
 集中した結果、どこからか聞こえてきた声はこんな事を叫んでいる。

「待て待てっ! 無茶はいかんよ! 思い直しなさい、飛び込んでその先が陸地だったら死ぬんだぞ? 判っているのか?」

「ええいっ! 離せい! 行くと言ったら行くんだぁ! 南無三宝なむさんぽうっ! どうか王の元へ導きたまえぇっ! トオォーっ!」

「ああぁー! ば、バカヤロウーッ!」

 チャポン!

 聴覚を研ぎ澄ませて目の前の滝を見つめていたナッキの前に、一匹の小さな魚が流れて落ちた。
 大体メダカと同じ位の大きさだったが、彼らのように半透明ではなく、ナッキのそれより白っぽい銀の鱗に包まれた体のようだ。

 流れ落ちた勢いで水底みなそこまで潜って行った魚を追いかけたナッキは、キリモミ状に回転中の体を鰭で挟んで止めてから話し掛けた。

「大丈夫かい君? 聞いた所じゃ誰かが止めていたんじゃないかぁ? 本当に無茶しちゃってぇ!」

「うおぉ、目が回ったぜぇ! 無茶ぁ? 良いんだよ! 結果、言い伝え通り下の池はあったんだからよ! 予想が当たったぜ! って、うわあっ! あ、あんた、随分大きい魚、サカナ? 魚だよな、あんた?」

 銀色の小さな魚は、今しがたまで回していた目を見開いて聞き、ナッキは答える。

「ああ魚だよ、僕は銀鮒のナッキさ、君は? メダカなの?」

「ギンブナ? そうか、聞かない種族だな…… それになんて、俺がメダカだってぇ? 馬鹿言っちゃイケないぜ、メダカってのはずっと小さい魚なんだろう? 俺はモロコだよ、名前はカーサ、この上にある池の住人さ」

「ふーん、上にも池があるのかぁ、そんでモロコって魚なんだね、よろしくカーサ」

「おうよろしくな、ところでナッキ、あんたもここに住んでるんだったら判るだろう、『メダカの王様』ってなあ、一体どんなヤツなんだい? 話のわかる野郎なら良いんだけどよぉ」

『無礼者め! そのお方、ナッキ様こそが『メダカの王様』その人であるぞ!』

 築地、別名メダカのお城から戻ってきた集団が、モロコのカーサを取り囲みながら声を揃えた。
 成体のみとは言え、五百匹の集団である。

 迫力に押されたカーサは、慌ててナッキの脇に身を寄せて、わずかに震えながら聞く。

「な、何だよこいつ等、い、一斉に話して来やがって、気味が悪いっ! なあ、あんたが『メダカの王様』なんだろう? ナッキ、いやナッキ様か? こいつ等は一体何者なんだよ?」

 ナッキは呆れた様な声だ。

「へ? 何者って、メダカだけど?」

 モロコのカーサは、周囲のメダカ達を見回してから、意外そうな声音で言う。

「へぇ、こいつ等がメダカ、かぁ、もっと小さいって聞いていたんだが、い、意外にデカイじゃないか…… やっぱ年寄りの言う事ってアテにならないんだなぁ! にしても、ナッキの旦那もメダカ達も、中々強そうじゃないかぁ、これなら助けて貰えるかもしれないぜっ! やったぜっ!」

「?」

『?』


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。

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