堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
367.セオリー
コユキの当初の目論見と違い、アスタロトみたいな二面性も無く、色々な事柄に淡々と対処している様子が伺える。
――――善悪って…… 裏表とか無いのかな?
そんな可能性をコユキが想像していると又々別の声が善悪に話し掛けてきた、床を軋ませる足音から声の主はすぐ特定できた、『節食の徳』グラである。
「んなぁ~善悪様ぁ、台所にあるドーナツって食べても良いのかぁ? おでちょっと小腹が空いてぇ~」
今度の善悪は慌てた声である。
「ダメダメ! それは後でコユキ殿の所に持って行くヤツでござるよ! ポテチとかでも良いであろ? ちょっと待っててね」
「おお、ありがと善悪様、ポテチで良いどぉ、でもあのドーナツ変わってるなぁ、ちょっと緑っぽかったどぉ!」
「うん、昨日コユキ殿からヒントを貰ってね、試作品だけどホウレン草を練り込んであるのでござるよ」
「へー」
「ははは、さっポテチを出してあげるでござるよ、ついてきてねん!」
それっきり、本堂からの声は途絶えた。
少しして、金網を開けて出てきたコユキは頭に蜘蛛の巣を乗せたままで呟くのであった。
「ま、分かってた事だけどね…… 善悪に裏表とか…… ははは、そうこなくっちゃね! むふふふ」
当初の予測と違って善悪が真っ直ぐだった事が嬉しいようだ。
誰に言うでもない独り言は続く。
「にしても世の中の女は見る目が無いわねぇ、あんなに誠実で働き者があぶれてるんだもんねぇ、結婚相手としては理想的なんじゃ……」
そこまで言うと、急に黙り込んだコユキだったが、見る見る内に顔が紅潮していく、多分リエによって擦り込まれた『よしおちゃんと結婚』でも思い出したのだろう。
真っ赤になりながら足早に幸福寺を後にするコユキは満面の笑みを浮かべて呟くのであった。
「にしても、善悪ってアタシがいない時もアタシの事ばっかりなのね♪ ボキャブラリィが乏しいわ~♪ 嘆かわしいわよぉ♪ 」
本堂の中を覗き込む人影がある、正体はこの寺の住職、幸福善悪その人であった。
「行ったか? 」
ご本尊の横から答えるのはオルクスだ。
「ウン、マンゾク、シテ、カエッタ、ヨ」
モラクスが呆れた感じで呟くが、その声音には多少の非難も混じっているようだ。
「趣味が悪いですよ、なんか可哀そうじゃあないですか! 」
善悪は悪びれず、所か堂々と胸を反らせて答える。
「んなの最初に盗み聞きしようとしたコユキ殿が悪いのでござる! こっちには気配が分かるオルクス君がいるのを失念しているのもあっちだし、諜報に対して嘘の情報を掴ませるなんてセオリー中のセオリー、基本中の基本でござるよ、なはは、某の勝ちでござる! 」
「カチ、デ、ゴザル! 」
「はあぁ~」
どうやら善悪の方が一枚上手だったようである、この日眠りにつくまでそれぞれ上機嫌で過ごした二人であった、めでたしめでたし。
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