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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
280.ソ○ック

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 ゆっくりと然ししかし確かな口調でヒロフミは善悪の両の瞳を見つめながらはっきりと言い切ったのである。

「よしおちゃん、いいやよしお君! 君なら分かるだろ? ソ○ックの魅力は運動神経とか反射神経では回避不可能な、その理不尽すぎるスピード感にあることを…… 画面に映ってから避けようとしても、不可能なんだ! しかし、そこにこそ美しさが有る! ヘヴィーな遣り込み勢は画面展開の数手先まで覚えてソニッ○を操るたえを楽しんでいる事位、君なら知っているんじゃないか? 然るしかるにマニアから実装されたワイド画面対応はそんな攻め勢を嘲笑うが如き悪手、いいや挑戦、嘲笑といっても良い暴挙に他ならない、君だって分かるだろう? 見てから対応できる物がソニッ○かい? 違うだろう! そこは! 見える前に対応する記憶力と遣り込み具合! それがソ○ックヘッジ○ッグだろうぅ! 普通の人なら分かる筈なのに…… 肝心の開発陣が気が付かないとは、絶対にやっちゃダメな事を…… くっ! もう、がっかりなんだ! がっかりっ! 分かるだろう? 善悪君! リエの旦那が買って寄こしたこのPS5で、私が、この私、かつてリアルソニックリアと呼ばれた男がマニアに興じる訳には行かない、その訳をぉぉぉぉ!」

 かなり狭い範囲を攻めてしまった、ガチマニアがコユキのお父さんだったとは、普通なら困ってしまう所だろうに、善悪は不敵な笑みを浮かべつつヒロフミに返すのであった。

「なるほど! 分かったでござる! 今回、コユキ殿と僕チンはヒロフミ殿の期待に答えることは出来ず申し訳なかったでござる、しかし、活目して待つのでござる! お父さん(ぽっ)の希望が叶う日は遠からず訪れると思うのでござるよぉぅ!」 にやり

 チョット落ち込み気味のラマシュトゥに大丈夫大丈夫言いながら、軽バンに乗り込んだ善悪は、運転席の窓を開けながら見送りに来たコユキに言うのであった。

「心配いらないのでござる、コユキ殿! 明日は朝、そうだなぁ、十時くらいにも一度訪問するのでござる! 万事拙者にお任せあれぇ! でござるよ♪」

「う、うん、そうなの? まあ、そう言うなら期待して待っているけど…… 無理しないでよ? 善悪ぅ」

「りょっ!!」

そう言って善悪とちっちゃなラマシュトゥは幸福寺へと帰って行ってしまったのである。


 一晩空けて、夜は明けて。

 朝はぐんぐん進んで農家さんの一息つくポイント、大体十時位に善悪は茶糖家を再訪問したのであった。

「おはようでござる! 今日はヒロフミさんの誕生日、お祝いと贈り物、プレゼントを持って来たでござるようぅ! ちとお邪魔するでござる!」

 朝一番の綺麗な空気に響いた声は、茶糖の家中に届けられ、コユキ始めまったりと過ごしていた家族たちは少なからず衝撃を受けたのである。

 元気イッパイ、大声で宣言した善悪は勝手しったる檀家の家にズカズカと上がり込み、昨日コユキと訪ねた居間(ヒロフミ入)の前で改めて声を発した。

「ヒロフミ殿、善悪でござる! 入ってもよろしいかな? 」

「…………」

「居ないのかな? 変な物音はしているのだけど…… ま、まさか! 開けるでござるよ?」

 最悪の予想をした善悪は、鋭く部屋の中へ踏み込む事を決めたのである。
 何しろ昨日の夕方、ぬか喜びからのがっかり、所謂いわゆるブレンバスター効果のショックを受けたばかりである、馬鹿な事を考えないとは言えないのだ。

 引き戸を開けた善悪の目に飛び込んできた景色は、その、なんだかほのぼのとしていた。
 ヒロフミの膝には嬉しそうに尻尾を振り捲る子犬が頭を撫でられており、もう一方の手をミックスナッツの缶に突っ込んだ状態でコチラを振り返ったヒロフミの頬は、冬篭り前の食い溜め中のリスのように目一杯膨らんでいたのである。

「べ、べんばぶぐん?」

 未だにボリボリガリガリと咀嚼をし続けているヒロフミの姿を目にし、ほっと胸を撫で下ろしながら善悪は聞くのであった。

「良かった、安心したのでござる…… でも元気イッパイ夢イッパイだったんなら、なんで返事をしてくれなかったのでござる? 拙者心配しちゃったでござるよ?」

 善悪の問いに一言も返さず、ミックスナッツの缶を善悪に向けて差し出すヒロフミ、ようやく口中の豆を飲み込んだようだ。

「ん? くれるのでござるか? では!」

 喜捨きしゃ無碍むげにする訳にはいかないと、缶の中から一掴みの豆を取り出した善悪は、もう片方の手を立てて頭を下げると、一気に口に放り込んでガリボリ噛み砕くのであった。
 一瞬後、大きな眼をいつも以上に見開いた後、確り咀嚼した後嚥下えんげし、ヒロフミに向かって話し掛けたのである。

「なるほどぉ~! 噛んでる最中だと外部の音が一切聞こえなくなるのでござるな! 新発見でござるよ!」

「なっ?」(にやり)

 なんだこれ? もう良いから本題に入れよ、私、観察者が思っているとその気持ちが通じたのか、善悪が本題を切り出すのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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