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言葉の意味を知らなかった



私は静かに布団をめくり、足音を立てぬようにキッチンに向かい静かに朝食の準備をした。好きなはずのこの家がここ数日居心地が悪い。きっかけはほんの些細なことだった。

くだらないことから喧嘩をし、話し合おうと言う彼を拒み何も言わなかった数日前。
それ以来、静けさを保った家はもやがかかった様な空気に包まれている。


話し合いを拒んだのは自分なのに重みのある沈黙に耐え切れず、もう読み終わった本を開いて目を通す。

彼の打つキーボードの音がさらに私を追い立てている様で「少し出かける」と私はたまらず家を出た。



夕暮れのけやき通りを仕事帰りの人々をかき分けながら足早に歩き、小さな本屋に入った。

世の中にはこんなにきれいな言葉が溢れているのに、どうして私は言葉を持たないのだろう。
例え口を開いても、相手を傷つける言葉を放ってしまう。

きれいな言葉や愛のある言葉を使うだけで、私は変われるはずなのに。


14人の作家が綴るエッセイを買って、もと来たけやき通りを行きよりさらに足早で戻る。

1日1日長くなる夕暮れに彩られた街を見て、彼に見せてあげたいと思った。



「ただいま」と小さく言い、彼の仕事机の隣に座る。数日ぶりに向かい合う彼の顔は少し疲れていて哀しそうで、これが私が言葉を話し合いを拒んだせいによるものだと思うと胸が痛んだ。

話し合うことは一番基本的な大切なことでしょ?リレーションシップはそうやってコミュニケーションをとることでしょ?コミュニケーションをとることを話し合うことを拒否されたら、どうやって関係を築いていくの?

と彼が言った。

自分の感情を言葉にするのが苦手で傷付いたらすぐに自分の殻に閉じこもってしまう。
それでいて私のことを分かって欲しい。もっと空気を読んで欲しい。と他人に全部委ねてしまう。
その上すごく傲慢な私は仲直りも時間が解決してくれるし、仲直りのきっかけは彼が作ってくれると思っていた。

私が自分の思いを口にしない事でこんなに傷つく人がいてるという事を知らなかった。


「傷つけてごめん。」と言うとやっと言えたね。と彼が言った。
子供に言うみたいな言い方で私は言葉とコミュニケーションにおいては自分は子供レベルなんだと思い知った。


いつも感謝してる気持ちをちゃんと言葉で
「ありがとう」と言いたい。
愛を注いでくれる身近な人たちに、愛の言葉を伝えたい。




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