No.13 主婦から気づけば起業という道へ
橋場 由見子(はしば ゆみこ)
HY教育エンタープライズ代表。言葉の力を用いて人と人とのコミュニケーションを創造的なものにする"結話力®︎"を教える。企業研修、企業面接対策、朗読など、言葉・コミュニケーションの分野を幅広く扱う。
4人家族の主婦業もこなす。
________ 橋場さんは自ら起業した会社を経営し、一般的な"働く"というより、とても活動的な生き方をされていますが、ご結婚されお子さんもいらっしゃる中で、いつからそのような人生を歩むことになったのでしょうか。
私も、結婚した当時は、将来また働くなんて考えていなかったですよ。
きっかけは主人がミラノで事故にあって、鬱になって、働けなくなったことです。「私が働かなきゃいけない」っていう状況になり、家事をしながら、子どもの面倒も見ながら、働きながら、夫の面倒も見ながら、という環境に追い込まれて不可抗力でしたね。
夫の給料で生活しながら、主婦業として家事や子育てをしっかりしていこうと思っていた私からしたら、そこが大きな転換になりました。
まずは、夫の実家の保険代理店の手伝いをしながら生計を立てていました。自宅で塾も始めたのですが、それは、夫が「将来塾をしたい」と前に言っていたので、「家でこれ(塾)をやっていれば、夫が早く回復してくれるかも」と思ったからです。お金も得ないといけないですし、とにかく何かやらなきゃという思いになっていましたね。
その後、保険会社にスカウトされ、また別の代理店から声をかけてもらって手伝って、という日々を過ごしていましたね。とにかく、家計を支えるために働いていました。
________ 塾もされながらで、とても忙しい毎日ですね。
保険代理店では、システムインストラクターとして14時まで勤務にしてもらっていました。帰ってから17時から23時まで塾をして、の生活を繰り返していましたね。
朝、全てのご飯を作っておくんですよ。会社から帰ってきてすぐ始められるように、と準備していました。
とにかく、やらないと生きていけないですものね。住んでいるのは私の実家だったので、両親がいてだいぶ助けてもらいました。そういう意味では恵まれた環境の中でなんとか乗り切った感じですね。
ただ、母がもともと体が弱かったこともあって、そこまで迷惑はかけられないと思っていたので。子どもも3人いるので、コンロ3つでは足りなかったですね「なんでコンロ、3つしかないの〜〜〜」と思いながら料理してました。
そんな環境でしたが、自分のご先祖様に感謝していることとしては、意外とめげないというか、「絶対大丈夫」という楽観的な部分があって、「絶対やれる」「夫は元気になる」と思って生活していました。
________ 信じる力とは、どのような気持ちが根底にあるのでしょうか。
もともとの性格があったのと、あったかファミリーという団体で川本先生という方から学んだ"音楽力"という人間の生き方に関することを学んでいる中で、自分を大事にすることとか、しっかり哲学をしていくことを教わる中で、揺るがないものになっていきましたね。
________ 川本先生や、あったかファミリーとはどのような出会いだったのでしょうか。
もともと母が音楽が好きで、その活動に参加していたので、「川本先生という方がいらっしゃるよ」と教えてくれたんですよね。私がいろいろ大変だったので、そういうところで何か救いになったらと思って声をかけてもらったんだと思います。人生の考え方とか、"音楽力"という考え方を聞いて感銘を受けましたね。音楽が"生きる力"になるということを教えてもらいました。
音楽が持つ力だけじゃなくて、歌詞の持つ力、言葉の力を、どういう風に紐解くのかを学んで、これを私はコミュニケーションに活かしていきたいなと思って今の活動につながっています。
________ いつから起業を意識していたのでしょうか。
自分で起業をしようと思ったのも、ある種、不可抗力なんです。
声をかけていただいた保険代理店の社長さんとはうまくいっていたのですが、息子さんが入ってこられることで、従業員とその息子さんがうまくいかなくて。私もうまくいかなくなった一人で、出ざるを得なくなりました。それが、私自身「いつかやりたいと思っていたことを始めよう」と決断に拍車をかけることになりましたね。
あったかファミリーで学んだことを、いつか社会に還元して、貢献したいという思いは、ずっとあったので、状況が後押ししてくれました。
保険会社でシステムインストラクターをしている時から、思っていましたのですが、派遣として働いていて、社員さんとのいろんなすれ違いがあったんですよね。
派遣社員としていろんな思いをさせられた時があって、私は「ここの社員教育がしたい」と思ったんですよ。言葉力やコミュニケーションを伝えていくとともに、本当の意味での社員教育をしないと、と思っていました。
また、主人が徐々に回復をしてこられたのには「コミュニケーション」があったと思います。言葉の力で乗り越えることができた、この体験を伝えたいと思っていました。
________ 「辞める」ではなく、中から変えようとすることがすごいですね。
それはこれまでコミュニケーションを学んでいたからこそ思ったのかもしれませんね。私自身が周りと上手くいっていなくて、あの頃の自分って嫌な自分だったなと思う部分もありましたね。企業の中にいて、人を大事にできない風土や、自分自身もその中に染まってしまうみたいなところがありました。
でも、「そうじゃないよね」っていう思いもあって、変えていきたいなと思いがありましたね。
________ 起業という選択を取ることに抵抗はなかったのでしょうか。
会社を辞めざるを得なくなったので(笑)
家族からも毎日愚痴を聞かされるのは嫌だと言われて、主人や娘からもいい加減にしてくれというところまで追い込まれたということもありますね。
資金をもうちょっと貯めてからと思っていたので、「今辞めたら大変」というのはあったり、最初は収入ゼロだから本当に大変だったけど、結局今までうまく回させてもらったという感じです。今でも稼いでいるというわけではないですしね。
こうやったら乗り越えるみたいな方法があった訳でもないんだけど、「信じ続ける力」で今まで継続できていますね。
________ 起業のために、心の準備だったりお金の準備だったり、不安なままの起業だったのですね。
勢いで会社を辞めざるを得なくなって、その当時、手伝ってくれると声をかけてくれた人と一緒に営業に回っていました。
ただ、その人となかなかうまくいかなかったです。結局、一人で立ち上げ直すことになりました。私が自分でやる、と最初から思えばよかったのだけれど、急に会社を辞めざるを得なくなって何かにすがる思いもあったのかもしれませんね。
周りの助けも大事なのですが、「一緒にやる」となれば、よほどきちんとしたコンセンサスの上にやらないといけないよねという学びにもなりましたね。今の組織の前進はそのような感じで2年くらい続けていました。
________ 今の活動をされていてどうでしょうか。講師としてはほぼ橋場さん1人かと思いますが、個人でされることへの大変さはないのでしょうか。
私の提供していることは、コミュニケーションなので、講演なりセミナー、研修などで、受講生の皆さんが変わっていくとか、言葉の大事さに気づいてもらうなど、お客様との交流があるので、一人でやっていても孤独な気持ちはないですね。何にも代えがたい喜びを感じています。
話すことは、日本の教育ではあまり教えていないですものね。言葉の奥の感性や哲学力や創造性を育むことがどれだけ大切か、そういう教育をしていこうと思っています。
”黙っていることが美徳”のような風潮が日本にはあまりにも長い間あったので、”語ることが恐怖”という意識はあるのでしょうね。同調圧力が強いので、違うこと語ると叩かれるということもあり、ますます語れない状況になっていると感じます。また、コロナ禍で人々が向き合うことが減ってきている状況がありますから、自分の言葉で話すことによって、考え、次に深まる、という話すことの重要性を伝えていきたいですね。
ただ、今は、大学面接対策とか論作文とか、文章理解が多くなっているので、コミュニケーション研修の営業をもっとかけないとなと思っています。
________ 起業されるときに、コミュニケーションを学ばれたのち、ご自身で何をサービスにしていくのかに関して頭の中にあったのでしょうか。
私が学んでいたのはハウツーものではなく、根本的な感性・哲学力・想像性を3つを基軸を大切にすることは決まっていたのですが、起業してからまとめたみたいなところはありますね、突然の起業だったので(笑)。何がポイントかなと思うところや、私の売りは何?というところを明確化しないと相手に通じないから、明確化する作業はかなりしましたね。
まだわかりにくいことがあるので、今でも試行錯誤していますよ。
コミュニケーションとはいっているのですが、人間関係力とか生き方に繋げたいのですが、「生き方伝えます」といっても、そんなおこがましいことはできないので。
朗読もするのですが、朗読をする詩の奥をどういう風に想像するか、哲学するかは常にお伝えしていて、「あまりにも言葉に対しておざなりでいました」など気づきを得ていただく姿をみて、「伝えていることは間違っていない」という確信を積み重ねています。
________ 橋場さんが伝えていることは、今日会う人との関係から、すぐに活かすことのできることばかりですね。改めて自分の日常を見直したいと思いました。
多様性を認めた上で、お互いどうしたいかを、腹を割って話すことが大切ですね。お互いが共存するために助け合うことができるはずですが、不安とか不満がコロナでも倍増していて、そういうことを忘れてしまって悲しい結果になていると思います。そうではなくて、お互いに前向ける言葉を発していくことが一番大事なことだよね、ということを伝えていきたいです。
あとは、自分と向き合えていない人も多いですよね。"今、生きている"って本当にすごいことで、そこに対して鈍感すぎる気がします。自分を大事にできていないから、人も大事にできていないんだろうなと思いますよ。
何千何億の奇跡がつながって今があるという凄さを、自分に対して感じることができたら生き方は全然変わってくると思いますね。
すべては、自分のうちにありますから。
【編集後記】
ご自身で道を切り開いてきた橋場さんの原動力は、自分が働かないと家族が生きていけない不可抗力と、”やりたいこと”の2つが重なって実現できたことでした。
提供するものに価値があると信じ続けるのには心の強さが必要ですが、そう信じてこれたのは、旦那様がコミュニケーションによって回復するプロセスを身を以て体感できたから、という点も学びになりました。
【ライター】
篠原 七子(しのはら ななこ)
神戸市出身、福岡市在住の26歳(2021年時点)。自然と調和した暮らしづくりを目指し、コンポストの研究製造販売をする会社でCS/広報として働く。本メディア発起人(経緯はこちら)。
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