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画像で短編物語 その1

頬を撫でる風が冷たくなってきたのを感じ、僕は浅い眠りから覚めた。
日は傾き、そろそろ夕暮れかと言う頃合いだ。起き上がり、軽く伸びをすると目の前に地面に突き立った1本の剣がある。

伝説の剣。

僕のおじいさんのそのまたおじいさんくらいの人が、世界を救った勇者様の為に打った剣らしい。
今は、この剣を振るう事のできる勇者様を探す為に、一時的に僕の剣となっている。

赤く染まりつつある太陽の光を受けて煌めく姿は、とても僕なんかには釣り合わない程に神々しくて、堂々としている。
柄には宝石による装飾が施されており、刀身には古代文字が刻まれている。

『光あれ』

選ばれし者がその柄を握ると、たちまち刀身が光り輝くというが、僕が握ったところ光り輝く様子は全く無い。
僕に伝承に残る「勇者」の素質は無いようだ。
と言う訳で、今、僕はこうして勇者探しの旅に出ているのだ。

「おお〜い!いつまで寝てんだ!キャンプの用意ができたぞ〜!」

向こうの方から大声で仲間が僕の事を呼んでいた。そういえば、野営の準備の途中だった。
僕は昼間の戦闘で心身共に疲弊していたから、先に休ませてもらったんだった。

地面から立ち上がり両手で体に着いた土を払った。向こうからこちらに大声で呼びかけてくれている彼の後から、他の仲間達もこちらに向かって手を振っている。彼ら彼女らは、僕がこの旅で出会った掛け替えのない仲間達だ。辛い事や苦しい事ばかりだけど、仲間達のお陰でまだ僕はなんとか勇者探しを続けていられている。

土を払い終わると僕は地面に突き立った剣を抜き放った。
空を見上げると、もうだいぶ暗くなっている。地平線へ顔を隠そうとしている太陽が、最後にその身を焦がすかの様に赤赤と燃えている。

黄昏れ時だ。

古の勇者様は、黄昏れ時に剣を天高く掲げ、剣に選ばれたと言う。
なんとなくそうしなければならない気がして、僕は伝承にあるように剣を黄昏れの太陽に向かって高々と掲げてみた。
燃える太陽の赤を受けて、剣は地面に突き立っていたときよりも、より神々しく光を放っているように見えた。

今なら僕も、剣に選ばれた勇者の様に見えるだろうか。

そんなことを考えて、剣を鞘に納め、背に背負ったた。
太陽はいよいよその姿を地平線の彼方に沈め、空には星達が瞬き始めていた。

明日は西に行こう。

ふと、唐突にそんな考えが頭をよぎった。太陽が沈んだ場所、ここから西には龍の渓谷がある。あの場所に何かがある気がする。
そうと決まれば仲間達にもそう伝えよう。元よりこの広い世界からたった一人の人間を探す旅。目的地なんてないようなものだ。

そう思い、仲間達の元へと駆け出した。その時、背後でキラリと何かが光った気がして振り向いたが、そこには何も無い。夜の闇があるだけだった。
不思議に思ったが、疲れているからだろう、おそらく勘違いだ。
そういう事にして、焚き火を囲む仲間達の元へ再度駆け出した。

投げ銭いただけると、ストレートにそのまま私の生計になります! そして明日を生きる糧となり、もっと面白い物語が書けるようになる!!…かも。