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SS note杯)君に送る火星の

『自分の知らない土地をこの目で見てみたい』
定年後に父が家を出てから10年が過ぎた。

『ピンポーン』
『はーい』
『郵便局でーす』

旅先から贈り物が届いて、父の安否と居場所を確認する作業はもう何回目になるだろう。
最初のうちは、鮮度の良い魚介類が送られて来ていた。しかし、数年前からは缶詰や瓶詰めばかりになった。父は、いつのまにか国内を飛び出して、海外に行ってしまった様だ。
前回はブナという魚のスープが届いて、送り先はブラジルと書いてあった。ブナスープ→ブナ汁→ブナジル→ブラジル…駄洒落好きの父らしい贈り物だった。

今回は送り先が書かれておらず、代わりに『食べた感想』とだけ書かれていた。
父からのちょっとしたサプライズなのだろう。
何が送られて来たのかと梱包を剥がすと大きな緑色のタコが入っていた。
取り敢えず茹でて食べてみた。

『げっ!まずい!』

まずい…マズ…マァズ…Mars
…Mars!

『えっ!嘘!と、父さん』

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