詩)缶蹴り
思い切り蹴飛ばした缶
鈍い音がして遠くまで飛んで行った
缶を拾いに行く間に隠れなければ
絶対見つからないように
こちらからは様子が伺えて
鬼からは見えない所に
次々と捕まる友達
よせばいいのにもう一度
自分が缶を蹴飛ばしたくて
顔を出しては名前を呼ばれる
英雄になり損ねた喜劇役者は
舞台を降りて牢屋に入った
自分は絶対捕まらない
息を潜めて様子を伺った
今ならいけると何度も思ったが
結局、蹴りには行けず
最後の1人になった
もう、見つからないと鬼が根をあげる
捕まった罪人はそれぞれが談笑し
最後は鬼までその輪に収まった
今だと思い
飛び出して缶を蹴った
夕焼け空に高く舞い上がった缶
鬼は楽しそうに笑いながら
時計を見ていた
私は英雄にはなれず
いつの間にか客席から舞台を見ていた