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ビジョナリー・カンパニー

『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ)より

ビジョナリー・カンパニーの創業者が概して時を告げるタイプではなく、時計を作るタイプであったことを明らかにしていく。

井深大の最高の「製品」は、ウォークマンでもトリニトロンでもない。ソニーという企業であり、その企業文化である。ウォルト・ディズニーの最高傑作は『ファンタジア』でも『白雪姫』でもないし、ディズニーランですらない。ディズニー社であり、人々を幸せにする同社のたぐいまれな能力である。

会社を究極の作品と見るのは、極めて大きな発想の転換である。会社を築き、経営しているのであれば、この発想の転換によって、時間の使い方が大きく変わる。製品ラインや市場戦略について考える時間を減らし、組織の設計について考える時間を増やすべきなのだ。

フォードの経営陣は、赤字に歯止めをかけ、会社をなんとか存続させるために、ありとあらゆる緊急措置をとった。しかし、それだけではなかった。重大な危機に直面している経営陣としては、異例の動きをとった。時間をとって、指導原理を明確にしたのだ。

会社の価値観を掲げているか、掲げようとしているなら、こう自問するよう勧めたい。「これらの価値観のうち、外部の環境が変わっても、たとえ、これらの価値観が利益に結びつかなくなり、逆に、それによって不利益を被るようになったとしても、百年間にわたって守り続けていくべきものはどれか。逆に、これらの価値観を掲げていては不利になる環境になった場合に、変更でき、捨て去れるものはどれか。」こうして考えてみると、どれが本物の基本的価値観なのかを見極める役にたつだろう。

「基本理念を維持しながら、進歩を促す」これこそが、ビジョナリー・カンパニーの真髄である。

企業が(社運をかけた大胆な目標)BHAGを達成し、別のBHAGを設定しなかった時、自己満足による無気力状態に陥る。

今回の調査を始めたとき、調査が進めば、ビジョナリー・カンパニーが社員にとって素晴らしい職場であることを示す証拠が集まってくると、私たちは考えていた。しかし、調査が進むと、そうではないことがわかってきた。少なくとも、誰にとってもいい職場であるとは言えないのだ。

カルトのような文化は、むしろ、社運をかけた大胆な目標(BHAG)を追求する能力を高めうる。自分たちはエリート組織の一員であり、組織の力でどんなことでも達成できるという意識を作り出すため、高い目標の達成には最適な環境が生まれるのだ。

ジョンソン&ジョンソンはいまでも、枝分かれと剪定を意識して促している。いくつもの新しいものを試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものはすぐに捨て去っている。

3Mは小さなことをいくつも試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものを捨てている。

「指導力」を発揮して正しい方針さえ示せば、部下は実験をはじめ、新しい試みを始めると考えている。世の中はそれほど簡単ではない。それだけでは、何も起こらない。進化のための行動を常に促し、強化する仕組みを作らなければならない。

安心感は、ビジョナリー・カンパニーにとっての目標ではない。それどころか、ビジョナリー・カンパニーは不安感を作り出し(言い換えれば、自己満足に陥らないようにし)、それによって外部の世界に強いられる前に変化し、改善するよう促す強力な仕組みを設けている。

不満がなくなれば、自己満足に陥り、自己満足に陥れば、勢いが衰えるしかない。この事実をよく知っているのだ。もちろん、問題は、どのようにして自己満足を避けるかである。会社が成功を収め、業界でトップになった時、どのようにすれば、自らを厳しく律していくことができるのか。人々が奮い立ち、決して満足せず、常に改善の道を求めるよう「内側から燃える火」をいつもたやさないためには、どうすればいいのか。

基本理念は、「つくりあげる」ことも「設定する」こともできないのだ。基本理念は見つけ出すしかない。内側を見つめることによって、見つけ出すのである。

重要な点は、基本理念を維持し、進歩を促す方向で、組織に一貫性を持たせることである。一般性が大切であることを無視するのは、経営者や経営幹部が陥りやすい誤りの中でも、飛び抜けて手痛いものである。ビジョナリー・カンパニーを築くために、代表者を社外の会議に招集して基本理念を文書にし、将来のための進歩のビジョンを決めたのなら、会社に戻るにあたって、組織に一貫性を持たせるための具体的な改革を少なくとも5〜6点は用意するべきだ。

一貫性を達成する作業が終わりのない過程であることを忘れてはならない。矛盾が出てきたら、一刻も早くなくす。矛盾はガン細胞のようなものだと考える。組織の全体に広がらないうちに、なるべく早く切除すべきなのだ。

歴史がある大企業ほど、矛盾が深く根付いている。

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