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意志のデザイン

どうすれば、「らしさ」と「経済性」が共存する事業を作れるのだろう。
どうすれば、新しく立ち上げたチームに、「意志をともにする仲間」が集まるのだろう。
 
KESIKIは、この4年間、「やさしさがめぐる経済」を目指し、多くのクライアントとともにそうした問いに取り組んできました。
 
2023年7月。新オフィスの竣工に合わせ、これまでワンチームとなってきたクライアントの方をお呼びし、感謝を伝えるオープニングパーティを開催。
 

パーティでは、クライアントも交えた二つのセッションを行いました。
 
テーマは「やさしさがめぐる新しい事業のつくり方」と「わくわくが生まれるカルチャーづくり」。セッションを振り返りつつ、当日の様子をお伝えします。

ブランドの存在意義からはじめる

 最初のセッションは「やさしさがめぐる新しい事業のつくり方」。
 
ゲストは、株式会社アダストリアの子会社ADOORLINKの高橋朗さん。グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなど、30以上のブランドを国内外で約1,400店舗を展開しています。KESIKIからは、パートナーの石川俊祐とビジネス・デザイナーの大貫冬斗が対談相手として参加しました。
 
KESIKIが関わったのは、ADOORLINKの看板ブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」の立ち上げ。その条件はすべての衣服をコットンなどの天然繊維、もしくは再生ポリエステルなどのリサイクル素材で作ること。アパレル業界では、環境負荷の高さが以前から指摘されており、サステナブルへ意識が向くのは当然です。
 
一方で、「社会の流れとして大切だから」といった理由だけでブランドをつくってしまうと、ブランドを自分ごと化しにくくなります。そこで、改めてなぜサステナブルなブランドが必要なのか。その意味の問い直しから、ブランドづくりは始まりました。
 
石川「エコやサステナブルな服を買う人とは誰なのか? 何をしている人なのか? そもそも、人間は何のために服を買うのか?と、問いを繰り返しました。なぜなら、それを理解しなければ、サステナビリティという言葉が飾り物になってしまうからです」 

ブランドの存在意義を定義したら、次はブランドの人格づくりです。

新ブランドは、何を大切にして意思決定をするのか。出てきたのは、「なんだか楽しい」「心が通っている」「世の中で暮らす多種多様な人に、ブランドや衣服の方が寄り添ってくれる」といった言葉たち。

この言葉をブラッシュアップし、“adaptable”や“inclusive”といったブランドの人格を形づくる言葉が生まれました。
 
価値観は、最終的にブランドの約束事(プリンシプル)として落とし込みました。この指針は事業規模が拡大しても、いつでもブランドが大切にしている原点に帰ってこられるよう、3年半が経過したいまでも変わらず大事にしているそうです。

ブランドの人格づくりは、素早い意思決定にもつながります。

実は、このプロジェクト、デザインの立ち上げまでたったの3ヶ月。ネーミングの考案にはじまり、ウェブサイトやECサイトの構築、ブランドのメディア発信、広告のモデルのキャスティングまで、幅広く行う必要がありました。それが可能だったのも、ブランドの人格がしっかりしていたからだと、大貫は振り返りました。

社外だけでなく、社内にも思いを伝える

長期視点で地球や社会に対して良い影響を与えることを目指したO0uは、これまでアダストリアが取り組んできたブランドづくりのあり方とは異なりました。
 
一般的に、社内新規事業の多くは、立ち上げてから一定期間のうちに売上を求められます。投資した事業が成功するかどうかを測る上で、売上という尺度はとても大切です。
 
一方、事業によっては、短期の売上で事業の成長性をはかるのではなく、それ以外の尺度でその事業の存在価値を測る方が良い場合もあります。
 
まさに、後者のあり方を目指していたO0u。それを実現するため、高橋さんは、ブランドの存在意義を社外だけでなく、社内にも丁寧に伝えていくことが大事だったと振り返ります。
 
高橋「世の中にとって本当にサステナブルなブランドを目指す、という意志を貫くためには、社外へのアピールだけでなく、社内を丁寧に巻き込んでいくことが大切でした。「O0u」は、大量生産・大量消費型のブランドと比較すると、短期的に“大きなブランド”を目指すことは難しい。伸ばすためには、『規模の経済』の発想から離れる必要がありました。
 
“選択的にスモールなブランドである”ということを社内に伝え続けることで、期待値調整やコンセンサスの形成をしていきました

売上だけでなく、環境に対する影響も数値化し追っている

自分たちの価値観に基づいてブランドを展開すること。そして、それを社内外に丁寧に伝え仲間をつくっていくこと。それこそが、今でもO0uが愛されながら、事業としても成長している理由なのです。

ピュアな“想い”が人を集める

続いてのセッションは「わくわくが生まれるカルチャーづくり」。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のデザインスタジオ「KOEL」のメンバーやその支援先の方々との対話が行われました。
 
2020年4月に設立されたデザイン組織であるKOELは、現在は35人にまで規模を拡大。通信の会社であるNTT Comで、ここまで大規模なデザインスタジオが生まれた背景には、KOELの前身となるデザインチームを立ち上げたビジネスデザイナーの金智之さんの存在があります。
 
金さんはNTT Comの中で新規事業開発に携わるうちに、会社が成長するためにはUXデザインやデザイン思考が重要であると考え始め、2011年頃から「ビジネスにデザインを活用する」といった考え方への認知を広げる活動を地道に続けてきたと言います。
 
さまざまな部署にいる人を訪ねて、一人ずつ困りごとを聞き、デザインの力を使えばどのように解決できるかを対話しました。これを長年にわたって繰り返すことでデザインの力に共感する人の輪を広げて、それが社内の役員陣にも伝わっていきました

最終的には『新しい組織を作ってみないか』と役員陣から声がかかり、KOELの立ち上げに至ります。ビジネスとデザインを架橋できるようなデザイナーが社内に少ない環境でも、デザインの力を信じ続けて頑張ってきてよかったと思いました」
 
地道に意志を持って活動し、ボトムアップに信頼を積み上げていった金さんの周りに共感する人々が集まり、KOELが生まれていきました。
 
KESIKIもまた、金さんの意志を汲み取りながら組織の立ち上げから伴走。ビジョン・ミッション・バリューにはじまり、KOELを知ってもらうためのメディアづくりに携わりました。
 
ビジョンやミッションを発信する中で、その想いに共感し、外からも人が入ってきました。英国のデザインファームMethodにも所属していたKOEL ヘッド・オブ・エクスぺリエンス・デザインの田中友美子さんはその一人です。
 
田中「NTT Comは巨大な社会インフラを扱っている企業であり、それをデザインして『日本を何か変えられるんじゃないか』という期待感を持てる、面白い組織だと思います。ただ、やはり私がKOELにジョインした大きな理由は、金さんの人柄の良さであり、共感できるビジョンのある組織だったことだと思います」

主観的な問いが、らしい事業をつくる

社内外から人が集まり、組織として成長してきたKOEL。KESIKIが伴走したNTT Comとの事業づくりでも、一人ひとりのワクワクを大切にしてきました。
 
一つは、オンラインワークスペース「NeWork」の開発。きっかけは、KOELの組織立ち上げと同時にコロナ禍が到来し、NTT Comから「Zoomのようなオンラインコミュニケーションのサービスを作ってほしい」と要望があったこと。
 
ただ、メンバーの間ではこんな疑問が浮かび上がります。
 
「果たして、いま本当に必要なのは日本発のZoomのようなツールなのだろうか?」
「本当にZoomのようなツールを作ったとして、自分は使うのだろうか」
 
そうした「問い直し」を通して、自分たちのワクワクを大切にした結果生まれたのが、リアルより気軽に話しかけられるオンラインワークスペース「NeWork」です。効率重視のオンライン会議ツールに、感情の視点を持ち込んだことで、NTT Comらしい事業となりました。 

また、2021年に設立された「OPEN HUB for Smart World」もその事例の一つ。代表は大企業同士の共創コミュニティー「C4BASE」などを運営してきた戸松正剛さん。

組織や部署ごとの境界を取っ払い、面白い取り組みが自発的に生まれていく光景が見たい。「OPEN HUB for Smart World」は、そんな戸松さんの意志を尊重し、あらゆる人が協力しあう仕組みのある場として生まれたものです。

 NTT Comが事業として提供できる価値も変わりはじめていると戸松さんは語ります。
 
戸松「NTT Comの得意分野は、大型の案件に対して、大量の人員を長期間にわたって投入し、ウォーターフォールで開発をすること。そうした企業文化が根付いている中で、個人のワクワクを大切にし、短期間でアイディア出しから実装まで手掛ける文化を持つKOELとのプロジェクトは非常に有意義だったと思います」

意志かららしさが生まれ、それが人を惹きつけたり、独自の事業を生み出す。
 
でも、一人で意志を貫くことはなかなか難しいものです。特に新しい事業を生み出す時には、批判はつきもの。KESIKIはそんな時、苦楽をともにし、一緒に走る存在でありたいと思っています。
 
改めて、自分たちの目的を問い直したい。
パーパスにつながる事業を立ち上げたい。
アクションや発信を通じて、ビジョンを達成したい。
 
そんな思いを抱えていたら、ぜひお声がけください。
ともに、皆さんの意志を実現していきたいと思っています。
 
KESIKIも11月には創業5年目を迎えます。
ぜひ、今後ともよろしくお願いします。



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