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あとのまつり。

僕が大切にしたいと思うのは君だってことに気づいたのは、君を失ってからだった。

                                    ***


雨が降っていた。僕らのこれまでを、全て洗い流してしまうように。
「私ね、疲れちゃった。もうダメみたい。」
そう言って消えそうな笑顔を浮かべ、君は部屋を出た。君の最後の言葉が、部屋に1人残された僕の頭の中にこだまする。

                                    ***

相変わらず今日も朝まで飲んでいた。
「こんな僕でも君なら許してくれる」
そんな思いに甘んじていた。君という存在に甘えていた。
君に愛想尽かされるなんて、思ってもいなかった。

                                    ***

「ねぇねぇ!今日アイス買ってきたよ!一緒に食べよ!」
「…うん。いいよ。」

「ねぇ、こんな所に靴下脱がないでって言ったでしょ!?」
「…あぁ、あとで片付けるよ。」

「ねぇ…私の事好き?」
「…うん。言わなくてもわかるでしょ。」

―思い返して見れば、「ありがとう」も「ごめんね」も「大好きだよ」も僕は言わなくなっていた。

                                     ***

どれくらい時間が経っただろう。もう遅いかもしれない。でも僕は、君を追わずにいられなかった。


追いかけながら、気づくと僕は泣いていた。
前がよく見えないのは、この雨のせいか、それともこの涙のせいか。
「君は今どんな顔をしているのかな」と、ふと考えていた。今更だよね。

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「この人でよかった」だなんて思ってもらえなくてもいい。
「言わなきゃ分かんない」って怒られてもいい。
どこにいるかなんて分からない。想像以上に僕は君のこと分かっていなかった。でもこれも今更。いくら悔やんだって変わらない。

                                      ***
 

 でも神様、見つけるまでちゃんと走りますから。お願いです。格好悪くてもちゃんと言葉にしますから。だからもう一度、僕にチャンスをください。

もうあの子を泣かせたりなんてしませんから。

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