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第12章 雨のデモ

 今年の雨期はやけに長い。空はどんよりとして小雨がぱらつく。それにこの2~3日で気温も下がり、皆長袖のパーカーのようなものを着て、もう長い雨期にうんざりした表情をしている。例年なら雨期と寒期の間にインディアンサマーのような小暑期があり、プールや郊外のレジャー施設が賑わい、皆憂鬱な雨期が終わった喜びの顔で溢れるのだが。今年はこのままだと雨期が終わった後にいきなり寒期が来る気配である。バンコクもほとんどが雨に濡れた集会やデモであり、その上警察の高圧放水車から水をかけられるのだからみんなずぶ濡れで頑張っている。バンコクはCCITYよりは暖かいとは言っても、夜遅くなれば冷え込むのではないか。交通機関が止まり、ずぶ濡れのまま歩いて帰らねばならないので、集会リーダーも各自の最寄り駅での分散集会に切り替え、午後8時頃には解散するようにしたようだ。まだ民主派の大学教授を中心とした知識人、大学生、高校生等がデモの中心で、このコロナにより新卒の学生が就職できない状況が生まれていることも原因だろう。労働者は今の職場にしがみつくのに懸命で、職を失ったもの達は失業保険や政府からの手当で食いつないでいるのが現状で、デモなどに参加する余裕などないと言うことだろうか。しかしこの失業保険や手当も年内一杯で、コロナが収まる気配も見えず、更に長引くとなると労働者も参加してくることが考えられる。そうなったら数十万から百万ぐらいの集会となり、政権は揺らぐだろう。しかし地方では人民監視システムが機能しており、集会参加者の携帯はすぐに特定され、基本的なプロフィールが割り出され追跡される。そのことが分かり始めてから集会も学内の監視カメラのない場所で携帯を持たないで行われることが多くなった。指導者は監視カメラや警察の手動カメラ、音声録音等でその情報は蓄積されAIで常に追跡されその言動が法に触れないかどうかを判断し、煽動罪や不敬罪等を適用するように管区本部長に勧告が来る。それはバンコクの本庁にも繋がっているから、握りつぶしたら自分が不敬罪に問われてしまうので、AIが実質上の管区方面本部長と言ってもいいほどだった。かって北ランチャーンは革新派の赤服で溢れていたものだが、この間に国民監視システムが格段に整備され、有形無形の嫌がらせや圧力を受けて消滅してしまった。そのことがトラウマとなったのか地方での民主化要求デモは盛り上がっていなかったが、田舎に帰っていた失業者も、食えなくなりはじめ地方都市に戻りデモに参加するようになり始めた。秋までに雇用状況が改善しないと大きなうねりになるかもしれない。

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