インナーチャイルドの強さ
昨日、寝る前に天井を見ていたら、小学3年くらいの頃に見た天井の光景とシンクロした。
典型的な機能不全家族に生まれた私は、持って生まれた敏感な特性も相まって、小学生の頃には精神的に追い詰められていた。
もちろん幼い私は、なぜしんどいのか、理解していない。
ただ毎日しんどくて、真っ暗で、押しつぶされそうだった。
もう、死んだ方が楽なんじゃないか。そう思い、自分のベッドに寝転び、首に手をかける。
ぐっっと力を入れる。
頭と顔に血がたまってくる。ぐぉんぐぉんと血液が波打つ。奥の方でしゅんしゅんと何かが聞こえる。
鼓膜が圧迫されたように耳が遠くなる。こめかみ辺りの血管が浮いているのがわかる。
苦しいけど、手を離せばまた恐ろしい日々が待ってる。どうしよう、どうしよう。
目を閉じると、自分のお葬式のシーンが流れている。私は、ちょっと離れたところからそれを見ている。
家族は泣いていて、クラスの子たちは下を向いている。
私は、棺の中に横たわってる。
その光景を見ながら、
死んだら、私の苦しさは誰かに伝わるのかな?みんなわかってくれるのかな?
死ぬほどしんどかったんだって、お母さんはわかってくれるのかな?
急に涙が溢れた。嗚咽が漏れる。目からこぼれた滴たちが、次々に枕に流れていく。天井が歪む。
その時わたしは、確信した。
あぁ、もし、今私が死んでも、お母さんはどうして私が辛かったか、わからないんだろうなぁ。
死んだとしても、誰にも、ほんとうの気持ちを知られないままなんだろうなぁ。
ふっと手を緩める。
解放された血液が一気に巡り出す。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、苦しかった…
心臓がバクバク言っている。生きている。死ねたらいいなって思ったけど、私は生きている。
生きてしまっている…
枕を見ると、広い範囲に涙の跡が広がっていた。悲しみの証明するかのように。
その頃の私は、泣くことができなかった。自分の感情を感じることもできなくなっていた。
物心つく頃から親の愚痴を聞いて、心のケアをする役割だったから、自分の感覚に蓋をするしかなかった。
精神的虐待に耐えるために、心を閉ざすしかなかった。
そのしわ寄せは、小学生の頃からの自殺を繰り返すという行動に現れる。
だけど、死にたくなるのは自分が「おかしいから」と信じていた私は、その気持ちも、行為も、ひた隠しにした。
それから、辛くなると何度も何度も首を絞めた。その度にたくさん泣いて、それでようやく気持ちが落ち着いた。
いつもは家族のことにエネルギーを使ってるけど、その瞬間だけは自分のことを見ることができた。息ができない苦しみの中、泣いて、泣いて、スッキリできた。
幼い私にとって自殺行為は、八方塞がりの毎日をなんとか生きるための、唯一の救いだった。
私があなたを守る
天井を見ながら、当時の私の気持ちに思いを馳せていると、
急に、助けに行かなきゃ!と思い立った。
体をリラックスさせ目を閉じて、催眠療法をやっている感覚を思い出しながら、幼いわたしのところまで行く。
蹲って泣いているわたしを、抱きしめる。
助けにきたよ。大人になったあなただよ。怖くないよ。
顔をあげるまで見守る。優しく背中をなでる。
彼女は、この小さな体で、周囲の負のエネルギーを背負い込んでるんだ。
なんて無謀なんだろう。なんて無茶な環境なんだろう。この子は、何も悪くないのに。
顔をあげた私を膝に乗せて、ギュッと抱きしめる。
「ごめんね、今まで助けにこなくて。ごめんね、ひとりぼっちのままにして。あなたの苦しさ、全部わかってるよ。私は理解してるよ。すべて見てたよ」
「あなたが苦しいのは当然だよ。おかしくないよ。変じゃないよ。我がままじゃないよ。」
「大人になって、たくさんの経験をして、たくさんの人を見てきた。勉強もしてきた。その上でわかったんだけど、あなたは、何も悪くないよ。これは絶対だよ。あなたは本当に何一つ、悪くないんだよ。あなたは悪い子じゃないんだよ。」
「今、何かしてほしいことはある?」
幼い私は、長い沈黙のあと、ためらいがちにぽつりと言う。
「…お母さんにこっちを見てほしい」
幼いわたしの、切実な願いだった。
お母さんにこっちを見てほしい。その一心で、自分を犠牲にして、お母さんが喜ぶことをしてきたんだもんね。
涙が止まらない。胸がつまる。
母を愛し、求める幼心に。
そのために、犠牲にしたものの多さに。
「うん、うん。そうだね。お母さんにこっちを向いてもらいたいね」
小さなわたしは、こくりと小さく頷く。
「そうだよね…うん…
あのね、お母さんも、お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんな、自分のことで精一杯なんだ。
だから、あなたは何も悪くないんだけど、あなたの方を見ることは難しいんだ。
あなたがいくら頑張っても、いい子でも、それは変わらないんだ。」
「たとえ、あなたじゃなくて違う子だったとしても、同じ結果になってるよ。
これは、あなたのせいでは一ミリもない。これっぽっちもないの」
「だけどね、本当に残念だけど、難しいの。私が大人になった今も、お母さんは変わらず、そのままだよ。」
「その分、大人になった私が、あなたを守よ。寂しくなったら、絶対にくる。我がままはいくらでもきく。なんでも話してほしい。あなたを一人にしない。
私はあなたが大好き。愛してる。
なんてかわいいんだろうって思ってる。
なんて愛おしいんだろうって感じてる。
今まで生きていてくれてありがとう。」
強く抱きしめる。
小学三年生に、親から愛を諦めろだなんて、酷すぎる。
だけど、これからは、私が彼女を愛することができる。
親からの愛を断念しても、寂しくないように、愛と光を送り続ける。
私が、あなたを見守っていくよ。
小さなわたしを抱きしめながら、愛のエネルギーを送る。
少しでも安心できるように。彼女が感じている暗闇を、光で満たすように。
もう一人じゃないよ。大丈夫だよ。
しばらくして、聞いてみた。
何かして欲しいこととか、言いたいこととか、ないかな?
「…お腹が痛い」
それを聞いて、嗚咽が漏れた。
それまで寝室にいて、家族を起こさないように静かに泣いていたのだけど、嗚咽を抑えきれずに、居間に移動した。
「お腹が痛い」と、教えてくれたことの意味。
わたしは、自分の気持ちを親に伝えることができなかった。
しんどい、苦しい、痛い、辛い、そんなネガティブなことは、特に言えなかった。
親の迷惑になると思って。我がままになると思って。
小学生になったばかりの頃、車にはねられたことがあった。そんなときですら、私は誰にも言えなかった。
車にはねられたのは自分のせい。だから、痛がることも、ショックを受けることも、我がままなんだ。そうやって、自分の中に押し込めた。
そんなわたしが、私に伝えてくれたお腹が痛いは、幼いわたしが思いつく限りの最大限の甘えであり、大人の私への信頼の証だった。
嬉しくて、切なくて。
お腹が痛いことすらも言えない、彼女のおかれている環境がひどく無慈悲に思えて、声を上げて泣いた。
こんなに泣いたのは、生まれて初めてかもしれない。
彼女の悲しみや苦しみ、我慢してきたものが次から次へと溢れ出てくる。
誰にも助けを求められなかった彼女が、私に見せてくれた信頼…
切ないけど、嬉しかった。
そっとお腹に手をあてる。
「どうしたのかな、冷えたかな?」
こんな、些細な心が通うやりとりさえ、私の家族の中にはなかったね。
でも、これからは、私がいくらでもするからね。安心してね。絶対だよ。約束だよ。
彼女の強さ
それからもしばらく、二人でたくさん泣いて、抱きしめあっていた。
…あくびが出る。泣き疲れた。そろそろ帰ろうかな。
幼いわたしもすっかり泣き止んで、スッキリしたように思えた。
そしてその表情が、胸を突くほど頼もしくて、私はハッと気付かされた。
彼女は、こんなに強いんだ。
幼いわたしは、惨めで弱い、何もできない存在じゃない。
本当は強くて、勇敢なんだ。
周りの苦しみを引き受けて、それでも生きようとしている。
なんてたくましいんだ。
太陽のような、広大さと明るさ。
幼き私から、自分が本来持っている強さを教えられた。
大丈夫だね、あなたなら。
大丈夫だね、私なら。
大丈夫だね、私たちなら。
これからは、一緒に愛と光の中で生きていこう。
何かあっても大丈夫、困った時は助けに行く。
大人になった私が、あなたを守るから。
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