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2024 カナダナショナル 男子自爆大会での16歳の奮闘と「観客減どうする論争」

2024年1月9~14日、欧州選手権(ユーロ)とほぼ同日程で開催されていたカナダのナショナル大会。男子シングルSPは後々語り継がれるんじゃないかというレベルの自爆大会でスケオタ阿鼻叫喚の事態になりました。それとは別に大会終了後、「今回会場を訪れる観客が激減した理由と今後観客を増やすための対策」について海外スケオタを中心に議論が熱心に続けられていたので、大会の感想に加えてその議論もまとめてみました。

※ユーロについて語りまくった記事「2024 欧州選手権 きょうだい愛とバックフリップとリトアニアの本気」はこちら
(最後はバルト三国の話まで脱線したのにデニス・ヴァシリエフス選手の記述が抜けていたので追記しております)


「スケートカナダ」の配信は太っ腹

同時期開催のユーロの情報を追いかけるだけで大変だったので、カナダナショナルは私が好きな男子シングルの注目スケーターの演技のみを動画アーカイブで確認しようと思っていました。「スケートカナダ」が主催する大会はDailymotionで日本からも無料で観られますからね。

ちなみに私がここで書いている「スケートカナダ」とはグランプリシリーズの大会名ではなく、国際スケート連盟(ISU)とカナダオリンピック委員会によって承認されたカナダのフィギュアスケートの全国統括団体のことです。

「スケートカナダ」の団体紹介ページはこちら
※彼らいわく「世界最古かつ最大のフィギュアスケート団体」だそうです

この非営利団体がカナダのナショナル大会、GPSのスケートカナダ、その他オータムクラシックなどのカナダ開催の国際大会を主催しています。

「スケートカナダ」の動画チャネルはこちら
※ジオブロック(地域ごとの視聴制限)なしに試合やイベントの映像を配信&アーカイブ化しています。

上記動画チャネルでは、ジュニアやシンクロナイズドスケーティングも含めたフィギュアスケートのカナダナショナル全カテゴリの配信映像全編が英語実況版と仏語実況版の2パターンが視聴可能です。ナショナルのみならず、2014年以降のGPS「スケートカナダ」や「オータムクラシック」の配信映像を今も視聴できるんですよ。「いや~”スケートカナダ”は太っ腹やわ~」といつも感心します。

スケーター氏名の動画検索ではひっかかってこないのでこんなに過去動画の宝庫であることに気づきにくいのですが、当時の実況と共に全選手の演技を6分間練習や表彰式と共にほぼ全部観られるので「カナダで開催されたあの大会の感動をもう一度!」という方は是非。日本では放送されなかった表彰式やインタビューとか、カナダの有名ベテランスケーターによる対談やらナマ解説やらも結構見られます。(ISUの国際配信と全く同じ内容の時もありますがカナダのテレビ局CBCが絡んでいた頃の配信だとゲストが豪華!)

結果を先に確認して愕然…


しかし私が大好きだったキーガン・メッシング選手が引退してしまった今、次のカナダ王者を狙うカナダの現役男子シングルスケーターは「才能や実力はあるのに自爆率が高い選手」がやたら多くてですね…ライブ視聴は心臓が持たないんですよね。「大遭難しても見届けるわ!」と思えるほど熱烈に応援している選手は今いないので、先に結果を確認してから動画を見ることにしました。

そしたら男子シングルSPのリザルトが「何じゃこりゃ」になっていました…

  1. Wesley Chiu 88.98

  2. Aleksa Rakic 75.49

  3. Anthony Paradis 74.16

  4. Mikhail Mogilen 72.88

  5. Matthew Newnham 71.96

  6. Rio Morita 70.46

  7. Roman Sadovsky 68.29

  8. Bruce Waddell 65.86

  9. Alec Guinzbourg 62.31

  10. Conrad Orzel 61.72

  11. Damien Bueckert 59.48

  12. Gabriel Blumenthal 58.72

  13. Stephen Gogolev 53.80

  14. Ethan Scott 48.15

  15. Antoine Goyette 45.71

四大陸やワールド代表の候補だったロマン・サドフスキー(2022年優勝)もコンラッド・オーゼル(2023年2位)も60点台、スティーブン・ゴゴレフ(2018年2位&2023年4位)に至っては50点台で下から3番目…スコアシート見ただけでわかる大自爆の連続。こ、これは動画見るのしんどすぎる…

有力候補の中では唯一ウェスリー・チウ選手(2022&23年3位)が88点台といい演技ができたようでした。他の優勝候補選手とこれだけ点差が開いたら優勝はほぼ確定だろうけど、彼はフリーで崩れがちだから点は伸びないだろう。カナダの代表選考担当者は今頃頭抱えてるだろうなぁ…と思いました。

ネット上では「こんな大会なら引退したキーガン・メッシングが立ち寄って4回転抜きで昨季のプロ披露しても軽く優勝できちゃうんじゃね?」とまで言われていました。酷い言われ方ではあるけど、マジでそうかも…本来なら王者引退の後、「誰が次のカナダ王者に?」って煽りたいところだったでしょうが、この結果ではそんなプロモーションとても打てそうにないorz 

翌日のフリーではウェスリー・チウ選手が予想通り乱れたものの、SPでのリードを守り切ってカナダ王者に。コンラッド・オーゼル選手は4位に、ロマン・サドフスキー選手は6位にそれぞれ追い上げたものの、2・3位は若手に渡りました(スティーブン・ゴゴレフ選手はフリー棄権)。四大陸選手権にはチウ、オーゼル、サドフスキーの3選手が選出されたものの、ワールド代表は「保留」と発表。「こんな結果じゃワールド代表選べねーよ」ってことでしょうか

2位のアレクサ・ラキッチ選手は今季はシニアの大会に出ているから四大陸に派遣することも可能だったと思うのですが、3位のパラディ選手と共にジュニアワールドへの派遣となりました。経験浅すぎて任せられないということなのか、ロマン君をまだあきらめたくないという気持ちからなのか…。

今年のワールドはせっかくの地元カナダモントリオール開催だというのに、正直なところ候補選手の誰が出てもカナダ男子の来季ワールド出場枠が1に減ってしまう未来しか今は見えません…。ゴゴレフもロマン君もキャパシティはあるのになぁ…「パトリック・チャンに金メダルを!」で一致団結して勝ち取った平昌五輪のカナダ団体金メダルから何でこうなった…。

自爆大会の中奮闘した16歳


悪夢の自爆大会だった男子シングルの中で最も印象的だったのは、3位に入ったジュニアのアンソニー・パラディ選手です!

前年のカナダのジュニア王者で現在16歳。まだトリプルアクセルを安定して入れることができませんが、この若さで既に個性が炸裂しまくっていて先がものすごく楽しみな選手です。
(私は昨年のジュニアグランプリシリーズ大阪大会を観に行くまで彼を知らなかったのですが、彼のファンだと思しき方を会場で何名も見かけたので、ジュニアの試合も見ているスケオタにとってはかなりの注目株のようです)

実はアンソニー選手、フリーの演技中に靴トラブルが発生して演技を中断したんですよ! 冷静にジャッジに演技中断を申し出たのち、リンク外に一度出て紐を結び直してからリンクに戻りました。(配信映像ではその様子は遠めにしか映ってなかったので詳細はわかりませんでしたが、演技後のインタビューを見る限りでは演技中に靴紐が切れた模様)

独特な世界観を表現したプログラムですが、中断後もすぐに表現の世界に入り込んでいくのが凄いなと思いました。既にこれだけの表現力&個性がある16歳、スケーティング技術はまだこれからも伸びるだろうし、今後高難度ジャンプを身に着けられればかなりの人気スケータになりそうな予感があります。(というか既に人気あるかw)

演技中断による減点を5点もくらったのに3位に入るとは本当にびっくりでした。演技後のインタビューで「実は結構緊張していたので、中断することで逆に落ち着くことができた」とあのハプニングをポジティブにとらえていたあたりも魅力的に感じました。本当に将来が楽しみです。

アンソニー・パラディ選手の演技は上記配信動画リンクの2:08:58あたりです。まだご覧になっていない方は、よろしければ個性的な衣装も合わせてお楽しみください。振り付けにも彼自身が参加しているそうです。

"観客増やす対策"を問うK・オズモンド


同時期にリトアニアで開催されていた欧州選手権(ユーロ)の観客席が大盛況だったため、今年のカナダナショナルの観客の少なさは異様に目立ちました。去年はまだ結構入ってたと思うのですが、観客席は全日かなり寂しい状況でした。

カナダナショナルの解説をしていた元女子シングル選手のケイトリン・オズモンドさんが、大会終了後にInstagramで観客が少なかった原因を彼女なりに考察し、「どうやったら観客を増やせると思う?」と尋ねていました。

この投稿が海外スケオタの間でかなりの議論を呼んでいました。彼女のインスタへの直接返信はマイルドな意見が主でしたが、海外掲示板ではコメントが100件以上ついているのもあり、中には辛辣な意見もありました。

日本のファンにとっては「スケートカナダ」は「試合やイベントを無料で全配信したうえアーカイブまで長期間残してくれる超絶ありがたい団体」ですが、北米在住者からしたら色々問題を感じるようで。特にテレビ放送が減りスケオタ以外にアピールする機会が激減していることが憂慮されていましたね。

観客席が閑散としていた理由


私が海外掲示板でのやりとりを見た限り、今年のカナダナショナルの観客席が閑散としていた原因と考えられていたのは下記でした。

1)会場へのアクセスが不便すぎ
  徒歩圏内にホテルゼロ。マイカー無いとレンタカーやタクシー利用必須
2)大寒波襲来(マイナス35度前後!)で外に出る気すら起きなかった
  駐車場に丸一日車停めてたら帰りに車動くか心配になる程の寒波
3)会場への交通費クソ高い(カナダは国内線飛行機代かなり高いらしい)
4)昔に比べチケット価格高騰し過ぎ(通し券料金は20年前の4倍以上)
5)更にお高い3月の世界選手権とナショナル両方行くには金が足りない
6)全日通し券の販売がないので、複数日見る場合の割高感半端ない
7)前宣伝が少なすぎて開催情報を知らない地元民多数
8)国内スケートクラブや地元在住者への優待割引等の措置がろくにない

海外掲示板のredditでは「2004年のカナダナショナルはジュニアやシンクロ、練習も見学できる全日券プライム席が約120カナダドルだった。今回全日ぶんのチケットを揃えると500カナダドル。20年で1.5倍ぐらいに物価が上昇していることを考慮に入れても、チケット代があまりに高くなりすぎだ」との書き込みがありました。

500カナダドルは日本円換算すると55000円ぐらいだから、「ん?そんなもんじゃね?」と一瞬思ってしまう日本のスケオタの金銭感覚はかなりおかしいですね(苦笑)。まぁ日本はそこまで交通が不便で極寒のところで開催しないですが。長野のビッグハットですら交通が不便だ、ホテル少ないって愚痴っている私たち日本のファンはカナダのファンに怒られそう(苦笑)

更に今のカナダはシングル競技にワールド表彰台を狙えるトップレベル選手が不在だし、強いアイスダンスでも今大会には上位3組中2組が欠場でしたからね。ペアもアイスダンスも誰が優勝するか事前にほぼ確定している状態だったのも関心をそぐ一因だったかもなと思います。これに世界選手権に近いレベルのチケット代取られたら「大寒波来てるし自宅でオンライン観戦の方がいいわ」ってなるのも無理は無いかなと思いました。
(3月のモントリオールワールドはさいたまワールド以上にチケ代高くて「これで観客席埋まるのか」って批判が既にかなりされています)

アイスダンスの欠場も1組は怪我が理由でしたが、もう1組は男性スケーターが引退済みの匿名女性スケーターに「過去に性的暴行を受けた」と告発された件を受けての出場辞退でしたから、その重苦しい空気も客入りに影響を若干及ぼしていたかもしれません。

カナダでの客入りについての海外スケオタの議論を見ていると、「チケット代を年々上げ続けていることに対する不平不満」は世界共通で溜まってるんだなと実感しました。新型コロナ流行などの影響もあったとはいえ、「裕福なスケオタ」から搾れるだけ搾るやり方のみを続けてきた結果、会場に足を運ぶ層が新規開拓されずに、更にチケットが値上げされるーという悪循環になっている気もします。

そんな中でケイトリン・オズモンドさんのような解説者が様々な提案に耳を傾けようとしてくれるのはいいことだなと思いました。

スケオタからの「観客を増やす」提案


この件をきっかけに、海外のスケオタたちが会場に足を運ぶ観客を増やすための提案を数多く出していました

エキシビションにプロスケーターを招くだけでなく、大会期間中は引退した過去の有名選手たちに各種広報イベントをやってもらったり、地元のスケートクラブや学校の生徒たちを格安or無料で招待したり、地元の子供たち向けのスケート教室を開催したり、現在&過去の著名選手のミート&グリートイベントをやったり、撮影OKタイムや撮影OKゾーンを設けたりetc. …
あれ?それって日本のあの大会やあのショーでやってたよな」というのがいくつもありました。

私はこれまで日本の連盟やメディアは人気選手が多数いることに甘えているような印象を抱いていましたが、ここまで「スケートカナダ」の策の少なさが批判されているのを見ると、日本の関係者たちは国内スケオタ達にあれこれ言われながらも「観客層の新規開拓」&「会場に足を運んでもらうための試み」は結構やってる方なんだな…と少々見直すきっかけになりましたね。最近は数千円台で行けるよう値段設定してるショーや試合も増えてきてますしね。

そういう試みが批判されてしまうこともあるけれど、何事もトライ&エラーは必要。ファン側からも要望を積極的に伝えていった方がいいのでしょうね。

余りの自爆っぷりに真っ青になった大会でしたが、その反響が途中からえらい前向きな議論に発展してたのが興味深くて追いかけてたらインターハイとPIW東京公演が始まってしまいました(汗)。もうちょっと早くまとめられるようにしたいです(苦笑)。

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