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批評する視点について~「自作」という観点

私は私にしか歌えないものを求められているんだ

【家入レオ インタビュー】自分にしか歌えないものを突き詰めてアルバムを制作していこうと

 上記の記事で、批評について私がどの方向へと進んでいくかを示した。本記事ではもう少しこの方面について掘り下げながら、なぜ現状音楽批評がこうなっているのかを考えたい。

 上記の記事でも引用したが、「紹介待ち」としてみのさんが挙げた日本のジャンルは以下の通りである。改めて引用したい。

①歌謡が少ない
②アイドルが少ない
③(90年代などの)王道J-POPが少ない
④演歌が少ない

みのミュージック「海外の邦楽ガチ勢がハンパじゃない件」

 これらのジャンルに共通することは何だろうか。
 まず思い浮かぶのは、セールスを獲得しているという点である。いずれも日本ではオリコンを含めランキングの常連となり続けているジャンルである。
 これは現行の日本の音楽批評シーンにおいても足りない視点というか、改善すべき点だろう。
「高いセールスを記録した」ことで評価の俎上に載せる作品は少ない一方で、すぐれた作品を取り上げるのに「高いセールスを記録した」ことを理由付けするのは多い気がする。

 ただ、これだけでは限界がある。それ以上に日本のポピュラー音楽批評において重視しなければならない視点は「非自作」という点だ。①~④の(③は当てはまらないものも多いが)いずれも、シンガーと曲を作るライターは異なっている。この視点をより重視し、批評に加える必要がある(当然だが、自作について批判する意図はないのであしからず)。

 ロックジャンルと「非自作」というのは相性が悪い。メンバーが曲を作り、詞を書き、というのがほとんどであろう。プロデューサーや編曲家に別の人物を入れる場合もあるが、ロック曲の場合編曲家のクレジットがされない場合も多くある。
 音楽批評において、ロックジャンル出身の人が多い現状によって、「非自作」ということがプラスになることは「ミュージシャン○○が手掛けている」という例以外では少ないだろう。その場合でも、あくまでその提供者への賛美が高評価に結びついており、「自作ではない」ことでプラスになる、といった評価の仕方はほぼされていない

 またヒップホップにおいてはなおさら自作かどうかというのは(特にリリックの場合)重要だし、楽曲クレジットも作曲・編曲に代わって「Produced」「Sound Produced」「Beat」などが使用され、作詞作曲をまとめて「Written」という場合もある。日本語ラップの功労者・ZEEBRAも自身の著書で、

ラップにはほかの歌と比べて大きな違いがある。
 ほぼ自分で歌詞を書くことだ。

『ジブラの日本語ラップメソッド』

と言っているし、非自作と分かっているものが高く評価されることは少ない。

 私の嗜好もあって非自作のラップも素晴らしいものがあってそれを伝えたいのはあるのだがそれは議論とは少し離れるので置いておくと、既存の批評シーンが出来上がっているジャンルにおいて「自作かどうか」というのは重要すぎる前提で、わざわざ自作であるということを前置きして論を進めることは少ないように思う。ここに論の固まっていない、いわゆる「紹介待ち」音楽を語るときの注意点はあるのではないか。職業音楽家による製作が一般的な演歌・歌謡曲、アイドル、プロデューサーの存在が重要な90年代J-POPなど、このことに注意して論を進めることが肝要だ

  個人的には自作の精神性をうまく引き継いでいる非自作ならば問題ない立場(というかその歌手の良さを引き出した作品であればよい立場)で、そのスタンスで批評を行っていくが、その際に依拠したい文言が冒頭にも引用した家入レオの言葉だ。彼女はシンガーソングライターという立ち位置で自作側に立つ一方、表題曲などを中心に作詞家・作曲家を積極的に招いていて、作詞・作曲・編曲のクレジットに登場しない曲も多い歌手である。彼女はアルバム『DUO』の製作インタビューでこう語っている。

私が今回のアルバムを作る時にテーマとして真ん中に置いたのは、“私にしか歌えない曲”だったんです。“家入レオ劇場”というものを軸にして制作していこうと決めて。(引用者中略)全国ツアーを回った時に“あっ、私は私にしか歌えないものを求められているんだな”ってステージで感じる瞬間があったんです。(引用者中略)“自分にしか歌えないものを突き詰めてアルバムを制作していこう!”と思って、自分が心から一緒にやりたいと思う方たちに声を掛けて出来上がった一枚です。

【家入レオ インタビュー】自分にしか歌えないものを突き詰めてアルバムを制作していこうと

 自作に拘らず、非自作を取り入れることで自分らしさを表現する手法を取っている。音楽を自己表現と解釈するなら、例えばこういう音楽を拾い上げる批評の視点が必要なのではないだろうか。「紹介待ち」ジャンルを私が取り上げていく上で、こうした視点を重視して述べることとする。またこうした視点を持って批評している方、批評における自作かどうかを指摘している方がいたら教えてほしい。


 もちろんいわゆる「サブカル」「ポップカルチャー」などの問題もあろうが、それは以下の記事に詳しくあるのでここでは省略する。


参考・引用リスト(2022年2月24日閲覧)

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