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日本のVCがアフリカで最もアクティブなVCになった理由

こんにちは、Kepple Africa Ventures(ケップルアフリカベンチャーズ)の広報担当です。私たちは、ケニア・ナイジェリアに拠点を置き、アフリカのスタートアップ企業に投資を行う日本のVCです。今回は、私たちが2020年上半期、アフリカにおいて最もアクティブなVCとなった理由に迫ります(下記図参照) 。弊社投資担当の品田諭志・山脇遼介が、赤裸々に語っていますので、是非、最後までお付き合いください!

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品田諭志(しなだ・さとし)
西・北アフリカ投資担当。高校卒業と同時にアフリカの旅を開始し、リンガラ語を学びながらコンゴ河を下る。アフリカ約40カ国を訪問。東京大学農学部卒業。双日株式会社にて、ナイジェリアに4年半駐在し、インフラおよびエネルギー事業の開発と投資を行う。2019年、Harvard Business SchoolにてMBA取得。卒業後、Kepple Africa VenturesのGPを務める。
山脇遼介(やまわき・りょうすけ)
東アフリカ投資担当。2008-2010年に在外公館派遣員として在ボツワナ日本大使館の立ち上げ業務に従事。2012-2016年まで三井物産金属資源本部に所属し、南アフリカの鉱山会社買収等大型M&A案件に携わる。2018年、カリフォルニア大学バークレー校にてMBA取得。同年よりケニアのナイロビにてFinTechスタートアップのCrediationを創業、同時にKepple Africa VenturesのGPを務める。

週に1社、1年半で50社以上投資をしたVC

早速本題に入りますが、なぜアフリカで最もアクティブなVCになれたのでしょうか?

山脇:アフリカは、スタートアップ市場がここ数年で急速に伸びていることに伴い、スタートアップへの投資が全体的に足りないんですね。その中でも、特にシード投資が足りていない。そこで僕たちがシード投資(創業初期の起業家への投資)を重点的に、週に1社のペースで投資をしていたら、1年半で50社以上投資をしていて、結果的に最もアクティブなVCとしてランクインしていました。

品田:補足すると、昨今、アフリカのマクロ経済の成長やインターネット環境の整備に呼応して、欧米から母国に戻る起業家が増えています。一方、供給サイドのプレイヤーが限られているため、資金供給が追い付いていない現状があります。特に、事業の初期段階、シード期のニーズが非常に高いため、我々もシード期のスタートアップを中心に投資しています。1件あたりの投資額は、平均して500万円から1500万円程度と少額で、業界は絞らずに面白いと思ったスタートアップに投資をしています。

週に1社のペースでの投資は、かなりハイペースに見受けられますが、どうして実現できたのでしょうか?

品田:ファンドの体制、仕組みが柔軟に投資できる形になっているからです。3人のGP(ジェネラルパートナー)で意思決定をしているので、投資判断が速く、余計なドキュメンテーションやアドミ業務は極力省いた運営をしています。一般的に、日本企業は投資判断に時間がかかるというマイナスイメージを持たれている中、私たちは日本発アフリカVCのパイオニアとして、意識的にその真逆を実践することを心掛けています。

日本のVCがアフリカのスタートアップに投資する理由

なぜ日本のVCでありながら、アフリカで最もアクティブなVCになれたのでしょうか?

山脇: アフリカと日本では、スタートアップのマーケット構造が逆です。日本は、CVCを中心にお金が余っていて、有望なスタートアップ数が比較的少ない。一方、アフリカは、有望なスタートアップがたくさんあるのに、お金がないんです。僕らは、そこを効率的に繋ぐことを目指しています。現に、アフリカの有望なスタートアップを日本企業に紹介することを通して、日本のCVCを中心としたお金をアフリカに投入することができていますね。

品田:さらに我々は、アフリカのスタートアップに戦略的なパートナーとなりうる投資家や企業もつれてくることができ、それが我々の強みにもなっていると思います。例えば、アフリカのロジスティクススタートアップのSendyや、HRスタートアップのFuzuを日本へ招聘し、日本の上場企業と結び付け、億円単位の出資を取りつけた実績があります。日本企業と繋ぐことによって、アフリカのスタートアップのニーズにこたえられるのは我々だと自負しています。こうした我々の取組みは、アフリカのエコシステムのみならず、シリコンバレーの投資家からも一目置かれるようになっています。最近では、アフリカのゲームチェンジャーになり得る起業家/投資家に話を聞くpodcastチャンネル、The Flipにも取り上げられました。

アフリカのマーケットに合った投資の仕方

アフリカの投資事情は、他の地域とどのように違うのでしょうか?

山脇:アフリカの既存産業は生産性が低く、そもそも必要な産業が十分育っていません。そのため、アフリカでのVC投資は、日本やシリコンバレーでのVC投資とは大きく異なっています。

品田:基本的にアフリカでは、新しいテックを入れただけで問題解決することはほとんどありません。むしろ、既存のテックからマーケットに合ったものを選択し、社会の仕組みや人々の行動パターンに適したオペレーションに落とし込むことが重要です。

そして、そのようなサービス/プロダクトをマネタイズするためには、ビジネスモデルを何度も調整しながら、確実にお金を払ってもらえる形にする必要があります。したがって、私たちは、テックそのものへの投資というよりも、アフリカという市場・起業家のビジョン・稼ぐ力に投資しているといえます。

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山脇:アフリカでVC投資のやり方ってまだ誰にも分からないと思うんですよ。アフリカでVC投資が起こり始めたのは2010年前後で、10年程の歴史しかありません。既存の金融システムが全く機能していないので、何が正解なのか誰にも見えていない。だから、欧米や日本の方式を踏襲しない方が、むしろ良い。スタートアップもリーンスタートアップ等色々な方法論はありますが、唯一正しいと言えるのは、細かく実験して、そこからラーニングを得て軌道修正する臨機応変さだけだと私は思っています。

スタートアップが国づくりになるアフリカ

アフリカのスタートアップ投資の魅力とは何でしょう?

山脇:僕たちはスタートアップ自体がアフリカの国作りになると考えています。アフリカは世界の中で最も開発が遅れた地域と言われています。援助等でお金が入っているけれど「アフリカ諸国の経済が自立していっているのか?」となると、疑問符がつく。独立以来、工業国化が一貫して叫ばれていながら、一次産品を輸出し工業品を輸入するという構造が未だに続いています。

そのアフリカに、スタートアップというカルチャーやマーケットがつくられると、

 1. 資本が入り込み(まさに我々が担っている役割)
 2. 有望な人材が集まり
 3. これまで無かったような斬新なビジネスが創出され
 4. そのビジネスが社会課題を解決していく

といったサイクルが生まれます。スタートアップ自体が社会インフラ構築に貢献しているんです。

これは途上国に限った話ではありません。アメリカは2010年代、年平均おおよそ2%で成長していましたが、このうちの半分は、スタートアップを含めたイノベーションセクター(大企業のR&D等も含みますが)が担っています。要するに、国の生活水準が向上するためには、スタートアップは鍵となる存在で、アフリカでは、そういったスタートアップが生まれる土壌が急速にできていると感じていますね。

山脇:例えば、Mobius Motorsというスタートアップがあります。彼らはケニア国内で車の生産を完結させることを目指していて、プロトタイプは既に販売済みです。もし、アフリカだけで車を作る体制が整えば、かなりのインパクトになり得ます。アフリカで走っている車は現在全て輸入車ですが、アフリカ内で商業生産体制が確立すれば、アフリカの開発課題の一丁目一番地たる工業国化に大きく貢献すると考えられるからです。

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「Mobius Motors社製の乗用車」

これ(上記画像参照)、全部アフリカ域内で作ってるんですよ。かっこよくないですか?また、Mobiusの車は、構造もアフリカ仕様になっています。例えば、アフリカのでこぼこ道をたくさん走っても簡単に壊れないように、部分的に頑丈にできています。アフリカの人々のニーズにあった車が作られているのです。

品田:ナイジェリアからも例をあげると、Decagonというスタートアップがあります。Decagonは、ナイジェリア中から天才、逸材を集め、合格率1%以下という厳しい審査プロセスを経て、彼らにエンジニア教育を特別カリキュラムで提供します。若きエンジニアたちは、欧米のテック企業やアフリカの一流スタートアップで働いた後、次の世代を代表するCTOや創業者として、社会に羽ばたき、エコシステムの発展を引っ張る存在となります。

Decagon創業者Chikaは、ナイジェリアのスタートアップを代表する連続起業家で、パイオニアです。起業のバトンが世代を超えて手渡され、アフリカ域内から新しいスタートがどんどん生まれる仕組みを、スタートアップが創っているのです。

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「Decagonでの教育風景」

このように、スタートアップが国作りになる視点をもっているので、それがVCとしての立ち位置にも影響を与えています。私たちKepple Africa Venturesは、『アフリカに新しい産業をつくる』という大きなビジョンを掲げることによって、アフリカのマーケットにあった投資の仕方ができています

欧米と比較すると、ビジネスがスケールするには時間がかかると言えます。しかし一方で、上手く行けば、産業カテゴリーそのものを創造したり(Mobiusの事例)、ある産業の生産性を飛躍的に向上させる(Decagonの事例)といった無限大の可能性を秘めています。これは長い目で見れば、欧米でも実現しえないような莫大なリターンをもたらす可能性があり、投資家としてもきちんとうまみがあると言えるのです。だから私達は焦って短期リターンを狙わずに、大きなトレンドを押さえながら投資を継続することを意識しています

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次回は、品田・山脇が、Kepple Africa Venturesの投資スタイルにも影響を与えている商社とMBA時代を振り返る対談シリーズを執筆予定です。乞うご期待ください。(2020/10/12 更新しました!こちらもご覧下さい!)

Kepple Africa Venturesはnote・Facebookを通じてアフリカスタートアップ情報を発信しています。note・Facebookのフォローもお待ちしております。


そして、この記事を読んで、品田・山脇のことがもっと知りたい!と思ったあなた!両氏がどのような経緯でアフリカに興味を持ったのか?以下のnoteに巧緻な筆致で描かれています。大学合格後すぐに休学してコンゴにいった品田。出稼ぎとしてボツワナに行った山脇。両氏のアフリカの原体験をご覧下さい。


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