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第10章.チュニジア☞スペイン(バルセロナ)

ランブラス通り近くの安宿に着いたのは、既に21時を過ぎた頃であった。

一人旅をしていると、直感的に「ここは、少し雰囲気が悪い(リスクを感じる)場所だな」などという防衛本能に近い感覚が研ぎ澄まされてくる。

ここは、スペインのバルセロナ。

朝早く、チュニスからのフライトでフランスのマルセイユの空港に着いた僕は、マルセイユ中央駅まで移動し、そこから鉄道にほぼ一日揺られながらフランスとスペインの国境を越え、その日のうちにバルセロナまで辿り着いた。

ここ数日間は、旅で偶然出会った日本人旅仲間と一緒だったせいか、久しぶりの一人旅再開は改めて意識的に緊張感を持たせた。そのせいか、疲労困憊度も知らず知らずのうちに相当溜まっていた。

とりあえず、間に合わせの安宿にチェックインし、近くのバルでパエリアを食べることにした。疲れていて空腹のはずが、食欲よりも疲れのほうが先に立ち、食事が先に進まない。ただでさえ2~3人前のパエリアが、ほぼ手付かずの状態で残してしまった。

長旅を癒すために頼んだスペインビールが、思った以上に身体を酔わせる。

酔って緊張感を失っていたせいか、バルを出て宿に戻ろうとした時、歳の頃なら大学生くらいの男性が、「フットボール、フットボール」と足を絡ませながらサッカーのボール争いのような格好で身体を寄せてきたのだが、気が付くと、僕のデニムの前ポケットに手を入れ、お金を奪い取った。

本来なら、怖くて縮み上がり、僕もその場を立ち去るところだったが、なぜかとても腹が立ち、その青年の胸倉をつかみ壁に身体を押し付けた。

本気で怒るときは、生まれ故郷の言葉が出るもので、故郷の大阪の河内の少しスラングな関西弁でまくし立てたら、お金を握っていた手を離し、「ソーリー、ソーリー」と謝りながら走って去っていった。完全に気の緩みが出た。

その夜のことがあり元来根っからの平和主義者の僕は、すっかりこの場所に嫌気がさし、翌朝、バルセロナのその治安が悪い安宿街を後にし、少し離れたユースホステルに身を置くことにした。

日本を離れて、もうすぐ1か月が経とうとしていた。

#一度は行きたいあの場所

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