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【コラム】ジャニーズ問題と外国人労働者

 故ジャニーズ喜多川氏の性加害問題は、事務所所属タレントなどのCM出演取りやめなどの問題に派生しています。この問題、英国の公共放送BBCがドキュメンタリー番組を放映したことで一気に火が付き、再発防止特別チームの編成や調査報告書の公表、そしてジャニーズ事務所の会見と、話が進みました。

 上記の記事では触れられていませんが、さらにこの問題を加速的に議論を進めたことがあります。それは、2023年7~8月に実施された、国連の「ビジネスと人権」ワーキンググループ(WG)の訪日調査でした。実は、ジャニーズ問題で少し陰に隠れてしまった問題があります。それは、外国人労働者をめぐる問題です。


調査の項目に挙げられたものは

 この中で、「リスクにさらされているステークホルダー集団」として指摘されたのは、以下のグループです。

  • 女性

  • LGBTQI+

  • 障害者

  • 先住民族

  • 部落

  • 労働組合

 そして、テーマ別分野として指摘されたのが、以下の3つ。

  • 健康、気候変動、自然環境

  • メディアとエンターテイメント

  • 技能実習制度と移民労働者

 今回、WGは12日間で日本の様々なステークホルダーに聞き取り調査を実施。その内容をまとめて、8月4日に公表しました。その内容を「ミッション終了ステートメント」としてまとめ、会見もされました。

ミッション終了ステートメントは、国連人権高等弁務官事務所のHPからダウンロード(日本語版)が可能です。

もう少し言及してもらいたかった外国人労働者問題

 その中で、技能実習生や移民労働者の問題について、ステートメントの中では、

すべての人が利用できる苦情処理メカニズムを含む「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP Mirai)」が設けられていることを称賛します。9つの言語に対応するこのメカニズムでは、専門家による相談サービスが受けられます。私たちはJP Miraiに対し、日本の移民労働者コミュニティに対する視認性を高め、信頼性を構築するよう促します。

国連ビジネスと人権の作業部会ミッション終了ステートメント

と、JICAやザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーンなどで設立した「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JPーMIRAI)」の活動を評価。

 国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の中でも、ゴール8.7「強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する」、8.8「移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」など、サプライチェーン(原材料の調達から生産、加工、流通、そして販売により消費者に提供されるまでの一連のプロセス)の中で、外国人も含めた労働環境の改善が訴えられています。その相談窓口が設けられていることへの評価がされています。

 一方で、

 作業部会は技能実習制度(TITP)の目的は本来、人材育成にありますが、こうした労働者は日本の人手不足を補ううえで、重要な役割も果たしています。

 にもかかわらず、日本の外国人労働者は、リスクの高い状況に置かれ、情報が共有される言語や媒体によって、情報へのアクセスに困難を覚えているだけでなく、煩雑な申請プロセスにも苦労しています。(中略)

 作業部会は、政府がTITPにまつわる人権問題を多く把握しており、現在は専門家パネルがこれについて検討を加えているところだと承知しています。私たちは政府に対し、この検討に合わせて、出身国政府との連携で仲介手数料を廃止したり、申請制度を簡素化したり、実習生の転職に柔軟性を認めたり、日本の法律により要求される同一労働同一賃金の執行を確保したりといった形で、明示的な人権保護規定を盛り込むことを期待します。

国連ビジネスと人権の作業部会ミッション終了ステートメント

 と、一部の外国人労働者の職場・生活環境の改善などへの指摘がされています。技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が5月に「技能実習制度の廃止と新たな人材育成制度の創設」などを提言する中間報告を公表、2023年秋に最終報告をまとめる―という議論が起きているからか、「少しふわっとした言及」と感じました。国連からの指摘があれば、より外国人労働者をめぐる状況が改善すると期待しただけに、少し拍子抜けではありました。

多くのメディアが会見をノーカット放送 その訳は?

 「ビジネスと人権 ワーキンググループ」でYoutubeを検索すると、多くのメディアが、1時間強にわたる会見をノーカットでアップしています。それは、WGが「メディアとエンターテイメント」として、ジャニーズ氏の性加害問題の調査も行ったから、です。

 会見は1.5倍速で見てみましたが、残念ながら、ステートメントの内容を発表した後のメディアからの質問も、性加害問題に集中。外国人労働者問題に関する追加の言及などはありませんでした。ステートメントでも、「結語」の中で以下のように総括されたのみでした。

リスクにさらされた集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です。

国連ビジネスと人権の作業部会ミッション終了ステートメント

 もちろん、当事者にとって、問題に大小はないと思います。その時々の時流というものもあります。今回の訪日調査については、さらなる情報収集が行われたうえで、2024年6月の国連の人権理事会で最終報告されるそうです。

 日本は、外からのプレッシャーに弱い国。外国人労働者をめぐる問題に、より鋭い国連のメスが入れられ、さらに労働者をめぐる施策がより充実することを期待しています。もちろん、民からできることは私も寄与していきます。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月より、地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。

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