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ネコクインテット #毎週ショートショートnote

あの日、野良猫の僕は、メインボーカルが抜け四匹となったバンドの仲間と遅くまで飲んでいた。
「僕のボーカルじゃ、客は納得しないよな」
閉店する時間となり、僕は肩を落としながら財布を取り出した。

「あの…」
振り向くと、大きな目をしたペルシャ猫の女の子がいた。
「もしよければ、代わりに私が…」
きれいな声だった。僕たち野良猫とは違う、透明感のある声。この声なら…。
「君しかいない!」
僕が叫ぶと、ペルシャ猫の彼女は、真ん丸の目をパチクリさせていた。

僕たちは新しいボーカルを迎え、五匹でバンドを再結成した。
彼女の透き通った声は多くの猫を魅了し、たちまち僕たちはトップスターになった。

それから長い月日が経った。
年老いた僕の隣には、今でも彼女がいる。
「あのとき、代わりにボーカルになるって言ってくれてありがとう」
僕の感謝の言葉に、彼女は昔から変わらない、透明感のある声でこう言った。
「代わりにお金を払ってあげるって、言おうとしてたんだけどね」

たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。


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