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社会におけるデザインの可能性

1.はじめに

 現代社会はデザインで溢れている。街を歩けば、多種多様な建築物、思わず視線がいくポスター広告、街を歩く人々が着用している衣服もすべてデザインされたものである。本論では、これまでのデザインの役割について整理し、現代のデザインの潮流、筆者自身の経験から社会におけるデザインの可能性について論じたい。

2. デザインの始まりから消費社会へ

 産業革命は沢山のモノを生み出し、私たちの暮らしは爆発的に便利になり、豊かになった。手で作られてきた道具や家具は、機械で作られ、価格も安くなった。しかし機械で作られる合理的なモノに対するアンチテーゼ、もっと人が使うべき情緒的な側面として、意匠というものを取り入れようとする運動が生まれ た。これがデザインの始まりと言われる。(若杉, 2022)
 人々はあまりにも機械的な製品ではなく、根本的にはデザインを有した人間味のある製品を求めているということである。この試みとは裏腹に、製品はデザインによってマーケティングされ、大量生産大量消費されて、人々を消費社会へと誘ったのである。消費社会では、多くの人々は物質的な豊かさこそが、人生の豊かさという価値観を共有していた。消費社会では、さまざまな物が比較的簡単に手に入るようになったが、その一方でさまざまな社会問題や環境問題を引き起こしていた。言い換えると、デザインによって消費社会が促進されて、さまざまな社会問題に加担したとも言える。つまり、デザインには人々を動かす大きな可能性があるのである。

3. 現代社会におけるデザインの可能性

 現在、デザインはより多様な場面で用いられている。特に筆者が注目しているのは、コミュニティデザイン、行動デザインという言葉である。消費社会を加担したように、デザインは社会の人々を動かす可能性を持っている。それはポジディブにもネガティブにも、使い方次第である。
 地域コミュニティは、消費社会によって失われていったものの一つである。消費社会の影響で、貨幣経済がより色濃くなり、人々は何もかもお金で購入し、解決するようになった。1980年代の賃金が上がっていて、多くの人々が豊かになっていた社会であれば問題がなかったかもしれないが、2020年代の現代では所得中間層ですら貧しくなり、豊かさの根源だったお金さえも手に入れることが難しくなってきた。そこで地域コミュニティの価値が少しずつ見直されてきた。そこで用いられているのがコミュニティデザインである。コミュニティの力が衰退しつつある社会や地域のなかで、人と人のつながり方やその仕組みをデザインし、施設や空間を具体的につくるのではなく、ワークショップやイベントといった「かたち」のないソフト面をデザインの対象とすることで、コミュニティを活性化させることである。(山崎亮, 2011)デザインといえば、製品やグラフィック、建築などのハードを想起するが、コミュニティという目に見えないソフトもデザインの対象になってきている。確かに、デザインした空間によって人々にどのような感性を与えるのかについて設計することができるので、デザインした仕組みによって、どのようなコミュニティを形成するかも設計することが可能だと考えられる。筆者自身、大阪出身でコミュニティとは疎遠だったが、地方創生に興味があり、約4年前に兵庫県の山間部にIターン移住し、コミュニティデザインを行なってきた。人々が集まり、交流できる場所を作ったり、イベントを企画したりすることによって、地域コミュニティの活性化に寄与してきた。地域コミュニティ形成することによって、社会学でいうソーシャルキャピタルが豊かになっているように思えた。デザインはソーシャルキャピタルを豊かにすることができ、社会をポジティブな方向へと導くことができるのである。
 次に、行動デザインを取り上げたい。コミュニティデザインよりもさらに直接的に人々の行動に変化を与えることができるのが行動デザインである。主に行動経済学の分野で言及されることが多く、「ナッジ」とも言われている。アイデアとグラフィックを組み合わせることによって、行動デザインは有効に活用し、人々の行動様式を変え、社会問題や環境問題を解決へと導くことができ、これもまた社会をポジティブな方向へと導くことができるのである。

4. むすび

 これまで見てきたように、デザインは人々を動かす可能性を持っている。それはデザインが、目に見えないまたは見えにくい可能性や魅力を可視化する力を持っているからだと考える。物質的な豊かさを良しとする価値観から変化する人々が増加する現代では、よりソフト面をデザインする重要性が高まってくると考える。そのソフト面をデザインするためには、従来までのグラフィックデザインやプロダクトデザイン、建築設計デザインなどの知識も重要であるが、社会学や文化人類学などの社会や人間を理解するための学問知識もより重要になってくると考えられる。社会におけるデザインの可能性についての切り口は違えども、「デザイン学概論」本論で言及されていた優れたハード面(技)に先行する高度なソフト面(知恵)の働きに大きな期待がある(西尾直, 2001)、という論述に繋がっていると考えられる。

参考文献

若杉浩一「デザインの役割、人と、社会そしてコモン」パテント 2022 vol.75 no.3 p22-32
山崎亮「コミュニティデザイン─人がつながるしくみをつくる』学芸出版社 2011
西尾直「デザイン学概論」大阪芸術大学通信教育学部 2001

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