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防災ゲーム研究に触れて想うこと

皆さんは「防災ゲーム」を体験したことがありますか。
防災ゲームとは、地震が起きた時の行動、避難所の運営や防災グッズの選び方、津波からの避難、ペットの防災に至るまで、様々なことを楽しみながら学べるように工夫されたゲームのことです。

今回、徳島大学環境防災研究センター(以下「徳島大学」)の方々、学生さんから「新しい防災ゲームの開発」や「これまで開発された防災ゲームの整理・体系化」に関する研究を進めるにあたり、意見を聞きたいとお声がけをいただき、いろいろお話ができました。

そのときの筆者の意見・考えなどをnoteでまとめておきます。本稿がいつかどこかで、防災ゲームについて知りたい、考えたい人たちの参考になることを願っています。

筆者と防災ゲームの関わり

学生の頃(2000年代前半)に災害ボランティアとして活動していくうちに、災害ボランティアの育成や防災教育にも関わるようになり、大学における災害ボランティア講座等でグループワークのツールとして防災カードゲーム「クロスロード」を用いたことがきっかけです。2005-2006年頃のことです。

その後数年の間に避難所運営ゲーム「HUG」や、小さな子供でも楽しめる「防災ダック」、防災すごろくゲーム「GURAGURAタウン」、紙芝居型のゲーム「なまずの学校」などを講座や研修で活用する場面が増えていきました。どんな防災ゲーム・教材を活用してきたかは下記noteをご覧ください。

2014年から社内起業で防災教育の普及啓発を行う法人の設立・運営に関わり、防災教育で防災ゲームや教材を自ら活用するだけでなく、多くの方に防災ゲームを普及啓発していくことの大切さを改めて実感します。

そこで2016年からこれまでご縁のあった防災ゲーム開発者の方々の協力を得て、防災ゲームに関するイベントを開催してきました。イベントの成果や開発者、実践者の方々のご意見なども参考にしながら防災ゲームや教材を利用場面別で整理したガイドチャートを作成しました。

そうこうしているうちにメディアの方々や防災ゲームについて研究したいという学生さんなどからお声がけいただくことも増えてきて、冒頭の徳島大学の皆さんからのお声がけにつながります。

防災ゲーム研究の課題をどう考えるか

本題に戻ります。徳島大学の皆さんからは、四国防災八十八話マップなどのコンテンツや、この1年間で収集された57種類もの防災アナログゲームの体験に基づく整理に関する発表資料などをご紹介いただきました。

それらを踏まえての筆者の感想です。

防災ゲーム研究の到達点はどこに

筆者は研究者ではなく、実務者としての視点でしか考えられないのですが、実務者なりに研究の到達点がどこにあるのかを考えてみました。それが全てではないかもしれませんし、筆者がコメントする上での仮定ではありますがもし今後も様々な視点で研究が進むとして、その到達点は「防災ゲームが体系的に整理され、活用・指導に関する要点が明確に分かり、多くの人が多様な防災ゲームを活用できるようになる」ことではないかと考えました。

なぜ今までなかったのか(先行事例が少ないか)

そう考えると「どうして今までそれ(体系化や指導方法等の整理)がなかったのか」が疑問です。もちろん全くないわけではないと思いますが少なくとも徳島大学の皆さんが調査する中では(あるいは筆者の実感としても)見当たらないということでした。なぜそうなのか、いくつか仮定してみました。

(1)体系化の必要がなかった。
防災ゲームに関する研究は少なくありません。例えば「Aという防災ゲームを新しく開発し実践したところ、このような効果があった、各地で活用が望まれる」といったものです。この場合はAのテーマ・実践・評価を軸にして他の教材を比較する、体系化することは重要ですが、テーマが無関係な教材との比較は意味を持ちません。元々ある教材を研究するにしても同様です。

例えば避難所をテーマとした防災ゲームの比較対象で、子供向け安全行動の防災ゲームを取り上げて「避難所についてはこれでは学べない、だから●●が優れている」とは言えません。つまり特定の「防災ゲーム」に焦点をあてた研究を進めていく時点で、体系化とは全く別の議論になるわけです。

「体系化そのもの」に焦点をあてる必要があるのですが、そのためには膨大な数の防災ゲームを実践を踏まえて客観的に整理する必要があり、限られた研究期間の中でアプローチするのは困難です。「Aという防災ゲーム」利用で精一杯で、体系化に伴う困難を乗り越えるだけの必然性、必要性があまりなかった、というがの一点目の仮説です。

(2)必要性はあったが、整理が難しかった。
次に複数の防災ゲームを体系化する必要性があると考えた方がいたとして、どう整理するかが課題となります。テーマ?手法?対象者?同じテーマで異なる手法を用いたり、逆に異なるテーマを同じ手法で実施したり…多彩な防災ゲームをどう整理するかというのは課題です。

一定の定義付けでテーマをまたぐ教材をスタートラインに並べることはできたが、それをどう走らせていくかが曖昧になってしまった、そして結局範囲を狭めざるをえず前項のようになる(テーマを絞る、対象を絞る…)、というのが二点目の仮説です。

徳島大学さんの研究では防災ゲームについて「ルールとゴールがある」ということを定義として考えられています。また、災害フェーズや「知識を身に付ける」などの目的別の整理※に取り組まれています。
※詳細は成果が公開された際に本稿でもご紹介します。

この視点はとても重要です。ぜひこれから防災ゲームや教材を研究したい方、開発したい方は意識してください。

(3)整理の道筋は見えたが、その先が見えなかった。
何らかの事情で必要性を感じ、かつ整理の道筋を見たとして、その先に何があるかを見出すことの難しさもあります。これは個々の防災ゲームについても言えることですが「作ったはいいが(研究したはいいが)、それが目的となってしまい次につながらなかった」というのが第三の仮説です。

もしかしたら誰かが体系化と実践を両立するような研究を発表されているかもしれませんが、それを把握できなかったのは筆者の調査不足に起因するにせよ、徳島大学さんにも伝わってないという事実は変えられません。

個々の防災ゲームにせよ体系化にせよ、明確なビジョンやミッションが紐付いていないと、多くの人に伝わったり、残ったりしていかないのだと思います。

これからどのように進めればよいか

冒頭で筆者は「誰もが活用できるようになる」ことを到達点として挙げましたが、それはあくまで現状、実務に携わる人間からの希望にしか過ぎません。

そして、その実現には整理した防災ゲームを伝え広め実践していくフィールドや人材が欠かせないことも痛感しています。そのひとつの場として筆者の所属法人では「防災クイズ&ゲームDay」というイベントを2016年から開催しています。これはマクロな視点で大きく網をかけていくようなアプローチなので、個人レベルまでフォローしきれないという課題があります。

徳島大学さんではこれまでの大学での取り組みや防災士との連携など、具体的なフィールドも人材もあるとのことなので、より地域・個人に密着したアプローチが期待されます。

徳島大学さんがこれから進められた研究を礎として、これから取り組む方々に後世につながるような研究を進めていく方々へのメッセージとして以下3点、まとめておきます。

★あまり防災に興味がない人に体験してもらう

防災ゲームの研究にせよ実践にせよ「まずやってみる」ことが大事です。そしてサンプルとしは「防災にあまり興味がない(と思われる人)」がベストです。厳密に防災への関心度を調査するまではいかずとも、ご家族なりお友達なり、防災について話したことがないような人とやってみることです。

防災ゲームはのゲーム性は「分かりやすく伝えたい」、「防災に関心がある人もない人も、多くの人に楽しみながら学んでほしい」という願いから生まれています。ゲームの種類や難易度によりますが、ルールやゴールを維持達成することに囚われれば楽しさを失います。

筆者も経験がありますが、複雑なルールを説明している時点で「わからないからやりたくない=学習意欲が失われる」という離脱者が出ます。それは学習成果以前の問題で、そもそもその場に惹きつけ体験までこぎつけるという前提を意識しないと本末転倒です。

「防災ゲームだから誰でも楽しくやるだろう」というのは大きな誤解です。ただ、その辺の感覚は「やる気満々」の人たちを相手にしても分かりません。まず身近な人(または疎遠な人でも)に「防災ゲームやってみない?」と聞いて、しぶしぶながらでもやってもらえるかどうか、試してみると実践感覚が身につくと思います。

その体験(できれば失敗する体験)が研究と実践の乖離を小さくして、より実際に利用する人に役立つ内容へとつながっていくはずです。

★開発者(作り手)だけでなく担い手・受け手の話をよく聞く

開発者の話を聞くことは必ずされるかと思いますが、それはあくまで主観的な意見です。前項課題の(1)の部分です。A教材の開発者が、他の開発者によるB教材やC教材を積極的に利用することはほとんどありません。

体系化する上では開発者の意見だけでなく、担い手、できれば他の教材も使ったことがある人の意見を参考にすることも重要です。情報はその教材の開発者、「作り手」の方に聞けば得られるはずです(●●の★★さんが地域で実践している、とか)。

そこから辿って★★さんという「担い手」へ、さらに★★さんが実際に指導した●●地域の方々や児童生徒などの「受け手」へ、とヒアリングを進めていくと防災ゲームの実態が見えてくることでしょう。全てのゲームでそれを行うことは困難ですが、いくつかサンプルをピックアップして行うだけでも、説得力は大きく違ってきます。

★時勢やニーズを捉え続ける

最後のポイントは時勢やニーズを捉え続けることです。今回の徳島大学さんの研究では「アナログゲーム」に焦点があてられていますが、現状ではアナログゲームの実践に必要なグループワーク環境を整えることが困難です。

また仮に今後感染状況が改善したとしても、オンラインやハイブリッド形式へのニーズは一定数残り続けると思われます。

2021年度時点では、マニュアルでフルオンラインやハイブリッド、アーカイブ配信まで想定した防災ゲームはほとんどないと思われます。ただ、現状で防災(アナログ)ゲームが全く使われていないかというとそんなことはありません。前項の「作り手」や「担い手」のアレンジによってそれらの実践は数多くカバーされています。

例)オンライン講座「HUGを体験しよう」|府中市市民活動センター

従ってこれからの実践では従来のアナログ形式教材、そして完全デジタル教材(ブラウザゲームみたいなもの)、そしてハイブリッド教材(教室と自宅でみんなが参加できる等)、それぞれが出てきますし、そうした教材が期待されます。

こうした時勢やニーズを捉えなければ、体系化したものを見てマッチングした教材があっても「すごくいい教材なのは分かったけど、みんなで集まってはできないしね」で実践につながりません。

とはいえ、この点まで網羅しようとすると大変です。筆者としても著名な防災ゲームからローカルな教材まで、オンラインやハイブリッドの実践経験は多くなりましたが、整理する段階までは至りません。

正直、もうこれは今後数年、数十年後にどなたかが実践を踏まえて研究してくださることを願うばかりです。もっともその頃には全く新しい概念が生まれているかもしれませんが。

まとめ・謝辞

今回、徳島大学環境防災研究センターさんにお声がけいただけたのは大変良い機会でした。筆者が個人的に思っていたことをある程度、言語化することができました。この場を借りて御礼申し上げます。

本稿はあくまで実践者=「担い手」としての所見に留まりますが、防災(教育)の普及啓発や被害の軽減に貢献したい、備えていきたいという思いは、「作り手」、「担い手」、「受け手」いずれも同じです。少しでもこれからの防災ゲームや教材の開発・研究に役立てば幸いです。

もし防災ゲームに関する研究事例等、情報をお持ちの方がおられましたら、ぜひ徳島大学防災研究センターさんにお寄せください。きっと今後につなげていただけると思います!




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