【小説】芸人は凄いねんぞ、林檎
こちらは八幡謙介が2015年に発表した小説です。
芸人は凄いねんぞ 松田雅志は、さび付いた工具を無理矢理たたむように、全身の関節を軋ませながら、ゆっくりとファミレスの椅子に腰を下ろした。デビューしたての頃によく相方とネタ作りで徹夜した店だったが、売れてからは一度も来たことがない。芸人を引退し、変装をせずに外を歩いても顔を指されなくなった頃から、この店で不味いコーヒーを飲むことが松田のささやかな楽しみとなっていた。とはいえ、伝説のお笑い芸人として名を馳せた彼に気づく若者もまだ