標的タンパク質分解誘導技術

現在販売されている医薬品のモダリティーは、低分子化合物又は抗体等のタンパク質が多くを占めている(売上ベースで約8割)。これらのうち、低分子化合物は細胞膜の透過性に優れ、標的タンパク質の酵素活性を阻害できることから、細胞内外の酵素タンパク質を標的とし、抗体は、高分子であり細胞膜の透過性が乏しいものの、標的タンパク質に特異的に結合できることから、細胞外のタンパク質を標的としている。

他方、現状のモダリティーでは、細胞内に存在し、かつ酵素活性を有さないタンパク質を創薬の標的タンパク質として開発することが難しく、これらのタンパク質はアンドラッガブルターゲットといわれてきた。

ところが、近年、標的タンパク質について、細胞内に存在するタンパク質分解系であるユビキチン-プロテアソーム系を用いることで分解を誘導できることがユビキチンリガーゼであるβ-TrCPを用いて示され(1)、その後、VHL(von Hippel-Lindau tumor suppressor)(2)、CRBN(Cereblon)(3)、IAP(Inhibitor of Apoptosis)(4)、MDM2(Mouse double minute 2 homolog)(5)等の他のユビキチンリガーゼを用いても示されてきた。

また、他の細胞内のタンパク質分解系によっても標的タンパク質の分解を誘導できることが示されつつあり、エンドソーム系を用いたタンパク質の分解誘導システム(endosome targeting chimeras:ENDTACs)、リソソーム系を用いたタンパク質の分解誘導システム(lysosome targeting chimeras:LYTACs)、オートファジーを用いたタンパク質の分解誘導システム(autophagy targeting chimers:AUTACs)も開発されてきている。

そして、これらの技術を用いることで、アンドラッガブルターゲットを創薬の標的タンパク質としうることから、欧米では、2010年代からベンチャーが多数設立され、これらのベンチャーに対して活発な投資が行なわれている。さらに、2019年には、Arvinas社がPROTACの臨床試験を開始し、その有効性が示唆されるデータが取得されており(6)、今後、多数の医薬品候補が輩出される領域と期待される。

一方、日本でも、ユビエンス株式会社(2018年創業)、武田薬品工業からカーブアウトしたファイメックス株式会社(2020年創業)等のダブルファンクショナル型の標的タンパク質の分解誘導医薬品の研究・開発を目的としたベンチャーが設立され、今後注目を集める分野であると考えられる。

標的タンパク質の分解誘導医薬品は、標的タンパク質に結合する低分子化合物と、ユビキチンリガーゼ等のタンパク質分解系を標的とする低分子化合物とを、リンカーを介して連結しており、複数のモジュールから構成されている点で従来の低分子化合物と構造が異なる。このため、従来型の低分子化合物とは異なる視点での特許戦略及び特許ポートフォリオが構築されている可能性がある。

そこで、標的タンパク質分解誘導技術をコア技術とするベンチャー企業における特許戦略及び特許ポートフォリオについて検討していく(以下、今のところ検討しようと考えている企業、変更の可能性あり、出願の有無は未検討)。

1.Arivinas Inc.

2.Nurix Therapeutics

3.C4 Therapeutics

4.Kymera Therapeutics

5.Vividion Therapeutics

6.BioTheryX Inc.

7.Captor Therapeutics

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