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矢沢永吉ディスクレビュー パート7 GARURU RECORDS編

 ステレオタイプなロックというジャンルにとどまることなく、サウンドをクリエイトしてきた90年代後半から2000年代前半の永ちゃん。60歳を迎え自身のレーベルGARURU RECORDSを立ち上げインディペンデントで、アルバムリリースを開始、多くのベテランミュージシャンが過去の自分を演じている中、過去よりもやんちゃに、よりシンプルに、よりダイレクトにR&Rミュージックを制作し続ける2009年から現在までの永ちゃんのディスクレビューを掲載したいと思います。

GARURU RECORDS編

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ROCK'N'ROLL 2009年8月5日
1.トレジャー・ハンター
2.コバルトの空
3.未来をかさねて
4.小悪魔ハニービー
5.KISS KISS KISS
6.Loser
7.Sweet Rock'n'Roll
8.Lady・バッカス
9.君と…
10.あの日、アイツに
11.オイ、そこのFriend
12.ひとりぼっちのハイウェイ

 独立第一弾は、その名もずばり「ROCK'N'ROLL」、久しぶりのセルフプロデュースでLAサウンドスタジオ等とOdenスタジオにて録音された。参加メンバーも前作と引き続きのメンバーです。東芝時代よりも更にバンドサウンド感が強く、なによりラウドすぎず、暑苦しくならず骨組みがしっかりし贅肉のないミックスがこのアルバムから採用され結果永ちゃんの歌が生きることになった。

ディレイのかかったギターリフ、空間を生かしたベースとドラムのミックスが抜けの良い軽快なミドルテンポの「トレジャー・ハンター」でアルバムは幕を開けます。スライドギターのソロなど燻銀のロックンロールと言える決まりっぷりです。CMソングや紅白歌合戦での歌唱などメディア露出が多かった「コバルトの空」は現時点でのラストシングルにもなりました。アコースティックギターのリズム、スウィングするドラム、心地よくオーバードライブし陶酔感のあるエレキギターのサウンドがテレビジョン、またはザ・リバティーンズを通過した2000年代以降のサウンドにしあがり、切ない影のある矢沢メロディが乗り最高の曲になっています。

 アコースティクなバラード「未来をかさねて」バンド感があり、60年代のビートバンドが切ないメロディーをアコースティックギター中心に演奏した様なアレンジになっています。ジワジワとこちらへ迫ってくる疾走感のあるビートナンバー「小悪魔ハニービー」で左右に振られたギターのアレンジのリズムがストーンズを思い起こし、ホンキートンクピアノがR&R感をより演出します。最後のヴァース寸前に出てくるホーンアレンジは、「恋の列車はリバプール発」の感触も。

 ミドルテンポのブギー「KISS KISS KISS」では、ザクザクと刻むギターを歌がグルーヴを引っ張ります、間奏やオブリで演奏されるスライドギターのスワンプ風味も乾いていてたまりません。右チャンネルのアコースティックギターのリズムも実に気が利いており、矢沢流マッスルショールズサウンドといったお楽しみです。 シンセサイザーの短いイントロから雪崩れ込む「Loser」では再びニューウェーブ以降のタイトなロックサウンドを採用されています。今までならこの手のメロディを持った曲は水っぽい雰囲気になっていましたがここでは、陰りがあり不安感を煽るサウンドになっています。

 Facesと並行してソロアルバムをリリースしていた頃のロッド・スチュアートのテイストをもったアコースティックのスウィートなミドルテンポのロックナンバー「Sweet Rock'n'Roll」では、70年代の雰囲気を持つアレンジとなっています。一瞬シンプルな曲ですが、Cメロでのブラスでリズムを刻むあたりロイ・ウッド的なセンス=スペクター的なR&Rとなっています。またノスタルジックなところもナイスです。ご機嫌でスワンピーなブギー「Lady・バッカス」、打ち込みのビートとリバーブの効いたエレピが幻想的なバラード「君と…」、不穏なギターリフとトレブルの効いたベースのサウンドが硬派なサイケテイスト「あの日、アイツに」に続き、ファズが印象的なモダンなガレージサウンド「オイ、そこのFriend」はロックバンドがソウルを演奏した様な雰囲気があります。

 アルバム最後、フォークロック的な「ひとりぼっちのハイウェイ」です。ハイウェイ繋がりか「雨のハイウェイ」的な歌感がありますが、こちらはもっとバンド感のあるサウンドになっています。エンディングへ徐々に盛り上がるアレンジがエモーショナルで、ハーモニカとギターのユニゾンソロなどなんとなくノスタルジックな空気がたまりません。


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TWIST 2010年6月9日
1.サイコーな Rock You!
2.Shake Me
3.危険(あぶな)い女
4.闇を抜けて
5.古いカレンダー
6.long good-bye
7.ずっとあの時のまま…
8.ワニ革のスーツ
9.見つめ合うだけで
10.HEY YOU…
11.「マブ」

 前作から約10ヶ月ぶりの「TWIST」は、引き続きセルフプロデュースでLAとodenスタジオで録音された。今作では、ジャズ/フュージョン界のベーシスト、エイブ・ラボリエルの息子でありポール・マッカートニーのツアーバンドメンバーでもある、エイブ・ラボリエル・ジュニアがドラマーで参加している。紅白歌合戦出演翌日から製作が開始され、ギターとビールで作られた楽曲は、前作よりも更にガレージ感、荒々しさが上がり非常にプリミティブなロックンロールアルバムとなり、全11曲36分というアルバムのレングスも手伝いシャープに疾走感のある印象です。

 アルバム一曲目は、ドンズバなタイトル「サイコーな Rock You!」です。メロディがしっかりとある8ビートR&Rで、冒頭の先生パンチとして最高のナンバーです。クリーンのエレキギターがカッティングするリズムギターが非常に心地よく、随所に聞かれるシンセサイザーのフレーズも今までにない新しさです。続くギターリフのイントロがパンチ力抜群の「Shake Me」はハードにしたカントリーロックフィーリングです。低音の出が気持ちよく、ある種キャロル的な肌触りも同居します。スライドギターとタメの効いたリズムが70'sストーンズ的な「危険(あぶな)い女」のような曲で骨太なバンドサウンドが完璧にマッチします。ホンキートンクピアノも登場しご機嫌に盛り上げます。

 開放弦を絡めたギターイントロが印象的な「闇を抜けて」、コード進行かメロディの落とし所か、ビートルズのShe Loves You的な哀愁をもち、サビでホーンセクションが入る瞬間にカタルシスが解放されソウルナンバー的なクールネスを持った展開となります。続く「古いカレンダー」もビートルズ的な空気を持ち、You Mother Should Know的で、ジャズ、ボードヴィル感を持った曲となっています。サイケデリックなテイストも持つエレキギターとアコースティックギターのリズム、4ビートのベースと少し跳ねたドラムに大きく60年代後半の影響を感じます。

 切ないメロディの「long good-bye」も陰影の効いたR&Rです。切ないメロディでも湿っぽくならないのは、ブライトなギターサウンドと前のめりなドラムのグルーヴが効いているからでしょう。久しぶりに永ちゃんが作詞も行った(小鹿涼との共作)フォークロック「ずっとあの時のまま…」ではノスタルジックに過去の思い出を歌いますが、フォークロック的なタッチがthe La'sのようなポジティヴィティに溢れています。セクシーなロカビリーの流れを汲む「ワニ革のスーツ」でもシャープなアコースティックギターとブギーなエレキギターの絡みが非常にかっこいい仕上がりで、サビでの頭で打つタンバリンも地味ながらファンキーさを演出します。Cメロでも効果的にブラスアレンジが映え、ブレイクでの短いベースソロも非常にクールです。

 疾走感あるイントロにサビから始まる「見つめ合うだけで」もアルバムタイトルのようにツイストが似合う曲です。ブライトなエレキギターが曲全体を引っ張りますが、サビでのアルペジオが繊細でアップテンポな曲に哀愁を与えます、また感想のチープなオルガンソロを聴くと、この曲が66年ごろのヒットポップロックナンバー的なコンセプトを持っているのではと思わせます。アルバム中、スローなバラード「HEY YOU…」は永ちゃん得意のメロウナンバーですが、このようなスローナンバーでもバンドサウンドのせいか湿っぽくなりません。左のアコースティックギター、右のエレピの演奏が曲の中に隙間を作り、重心の思いドラムが感情を揺さぶります。

アルバム最後は、PYE時代のThe Kinks的なフィーリングをもつ「「マブ」」です。この曲も永ちゃんが作詞を小鹿涼との共作しており、ノスタルジックな歌詞と相まるもどこかご機嫌なビートとなっています。サウンドもミッド60'sの現代版と言え、ベースのフレーズやリードギターもレイドバックした演奏です。


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Last Song 2012年8月1日
1.IT'S UP TO YOU!
2.翼を広げて
3.夢がひとつ
4.BUDDY
5.パニック
6.「あ.な.た...。」
7.JAMMIN' ALL NIGHT
8.Mr.ビビルラッシー
9.吠えろこの街に
10.サンキューMy Lady
11.LAST SONG

 前作から2年ぶりにリリースされた「Last Song」、アルバムタイトルから引退か?との噂も流れた今作もセルフプロデュース、LAとodenスタジオで製作された。前作のがっしりした骨組みを見せつけるようなバンドサウンドは今作でも健在で、シンプルで素直に入ってくるR&Rアルバムです。

 「お前次第だぜ!」と歌いかけるハードブギー「IT'S UP TO YOU!」でアルバムはスタート、ダイナミックなリズムとエッジの効いたギターが聴く者を揺さぶります。また、SAの馬渕太成が作詞で初登場しこの挑発的なナンバーに言葉を与えます。ドラムのフェイドインから始まる「翼を広げて」。アコースティックギターのリズムが軽快なが、低音弦が響くリードギターがじわじわとエモーショナルに迫ります。ミドルテンポのメロウブギーの「夢がひとつ」では永ちゃんのポップセンスが炸裂します。サウンドをよりレトロにすればデイブクラークファイブのヒットソングのようです。ギターが浮遊感を持ちつつリズムが重たく力強い「BUDDY」サイケデリックなグルーヴを持っています、歌詞にも表現されているようにノスタルジックなロックナンバーです。

 グラムロック的な「パニック」ではドラムのバックビートが心地よく、スライドギターが曲をリードします。セクシーなギターソロのイントロから始まる「「あ.な.た...。」」では久しぶりに水っぽい大人の世界が展開されます。歌メロの後ろで鳴るアコースティックギターのアルペジオと細かくハットを刻むドラムが絶妙に薄くラテン味もあり、気持ちを揺さぶり、大人の恋愛の不安さを表現します。続く「JAMMIN' ALL NIGHT」もギターイントロのナンバーですが、跳ねたドラムとギターリフを中心に組み立てられた曲が非常にダンサブルなトレインソングです。歌とハーモニカだけになる瞬間、ストップ&ゴーのメリハリが非常に決まっています。

 「Mr.ビビルラッシー」では再びグラムブギーが登場。段々と楽器の音が重なっていきオーケストレーションされ、エンディングのフェイドアウトするオルガンが後ろ髪を惹かれます。R&Bフィーリングの「吠えろこの街に」ではマイナーキーでヒリヒリとした空気感を持ち、ドラムとベースがファンキーに土台を作り、ギターリフが曲を煽ります。メロウでポップな「サンキューMy Lady」ではコーラスの効いたエレキギターがキラキラと輝き、低音を中心としつつオーバードライブしたギターソロがなんともエモーショナルです。

 アルバム最後の「LAST SONG」では、久しぶりに山川啓介が登場。ジョージ・ハリスンのAll Things Must Passなピアノバラードです。もう余計なことはいらないと思わせるアレンジメント、スローバラードでもドラムはファンキーでストリングスがシンセサイザーなところが重くなりすぎないですし、ダブルトラックのギターソロも非常にシンプルで効いています。クライマックス、クロージングを思い起こさせるマイウェイな劇的なアレンジメントに、引退を匂わせるのも無理ないなと思います。しかし永ちゃん、次のアルバムでしっかり最新型を出してくるからすごいってもんです。


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いつか、その日が来る日まで… 2019年9月4日
1.今を生きて
2.魅せてくれ
3.愛しているなら
4.ヨコハマ Uō・Uō・Uō
5.海にかかる橋
6.ラヴ・イン・ユー
7.SEASIDE ROAD
8.稲妻
9.デジャブのように
10.いつか、その日が来る日まで...

 前回から7年ものブランクで製作された現時点での最新作「いつか、その日が来る日まで…」、引き続きセルフプロデュース、LAとodenスタジオで製作され、90年代に共同プロデュースで多くの作品に関わったジョージ・マクファーレンがキーボードで参加しています。前作までの3作で爆発したシンプルなR&Rを経て、時代の流れも組んだシティ感のあるサウンドがバッチリな作品となり「E'」の時期のアップデート版とも言える印象です。またメロウでポップな曲が多く、バブルガム的に聴ける作品です。

 R&B、ファンク的な「今を生きて」でアルバムはスタートします。ファンキーなギターとクラビネットやベースとドラムの感触はネオソウル的でもあります。ファンキーなナンバーが続き「魅せてくれ」ではシンセサイザーが非常に80年代のブラックコンテンポラリー的に響きます。ホーンセクションアレンジもソウルミュージック的であります。フォーキーで泣ける「愛しているなら」がここで非常にエモーショナルに歌われ、水っぽい「ヨコハマ Uō・Uō・Uō」も80年代の永ちゃんを思い起こさせつつ、ラテンフィーリングを持ったナンバーになっています。

 ポップナンバー「海にかかる橋」では、タブラのビートとエレピが幻想的なスイートなバラードです。ストリングスアレンジなどノスタルジックです。なんと作詞はなかにし礼が初登場です。幻想的な空気感をいなたいギターが切り裂きます。「ラヴ・イン・ユー
ん」の様なブルージーなブギーナンバー、永ちゃんが歌えば問答無用で熱くなりますが、この曲ではカウベルがクールにビートを支えます。ギターソロ後のドラムのリズムアレンジも凝っており、後半シンセサイザーの登場がここ数作のアルバムとは一味違った物にしています。

 フォークロック「SEASIDE ROAD」は、ストーンズにおける涙あふれてとでも言える可愛さを持っています。シンセサイザーのソロもキュートですが、しっかりとしたビートが支えます。シンセサイザーのアルペジエイターとダークな曲調が印象的な「稲妻」は、ニューウェーブ的で、ギターの歪みもしっかりとありますが、重すぎずパンク的なノリを持っています。

 エレピとシンセサイザーのアンサンブル、地味にながら気の利いたリズムギターが心地よい「デジャブのように」。切ないメロディと大きなビートを持ったポップナンバーです。アルバム最後はなかにし礼が作詞した「いつか、その日が来る日まで...」です。シンセのシーケンスの上のピアノバラードで泣きのメロディを歌います。


 以上、矢沢永吉ディスクレビューパート7 GARURU RECORDS編でございました。今までのファンを全て置いていきぼりにし、若いリスナーの気持ちをつかむ様なシンプルな作風に舵を切った2010年代。また70歳を迎えていぶし銀に更に磨きのかかる表現で時代の流れにのる永ちゃん。以上で全スタジオアルバムディスコグラフィーのレビューが終わりますが、新作がリリースするたびに続きます。
ありがとうございました。

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