見出し画像

矢沢永吉ディスクレビュー パート2 CBSソニー編

 ロックやってBIGになる、金持ちになるという志半ばで解散してしまったキャロル。前回、キャロルでの矢沢永吉をレビューしましたが、今回はソロ初期70年代CBSソニー時代の永ちゃんのディスクレビューを掲載したいと思います。

CBSソニー編

画像1

I LOVE YOU,OK 1975年9月21日
A面
1.セクシー・キャット
2.ウイスキー・コーク
3.キャロル
4.雨のハイウェイ
5.キザな野郎
6.ライフ・イズ・ヴェイン
B面
1.恋の列車はリバプール発
2.安物の時計
3.夏のフォトグラフ
4.奴はデビル
5.サブウェイ特急
6.アイ・ラヴ・ユー、OK

 75年キャロル在籍時、解散が決定的になった頃、単身CBSソニーに赴き幹部と面会しソロ活動契約を結ぶためのビジネス面、金銭面の話し合いを極秘に行い、解散後CBSソニーから借金をし多額の違約金をフォノグラムに払い移籍。
キャロル関係の人間から離れスタッフ総入れ替えで、解散から20日後にキャロル時代に貯金していた印税をつぎ込み初渡米しソロアルバムREC開始、キャロル解散5か月後の9月21日にソロデビューを飾ります。

 編曲にBeach BoysのPet Sounds、Jackson5のABCなどにスタジオミュージシャンとして参加したマイク・メルボーン、プロデューサーにゴッドファーザーシリーズのOSTでもプロデュースを担当したトム・マックを起用しハリウッドのA&Mスタジオで録音されています。

 キャロルのバンドサウンドとガラリと変わった、ストリングスやブラスセクションが華やかな作品となっており、キャロルの矢沢がソロになりキャロルを期待した人等からは不評であったそうですが、「セクシー・キャット」「ウイスキー・コーク」「恋の列車はリバプール発」「サブウェイ特急」の様な曲では70'sR&Rを展開しております。ただルイジアンナ的なものを期待するとリッチなアレンジに差を感じることがあるかもしれません。

 何と言ってもこのアルバムのすばらしさはA&Mのスタジオミュージシャンを起用して制作された豪華なバラードに魅力を私は感じます。「キャロル」「雨のハイウェイ」「ライフ・イズ・ヴェイン」での煌びやかなストリングスアレンジと空間、デビュー前から存在しキャロルでは録音されなかった「アイ・ラヴ・ユー、OK」の重厚なブラスアレンジなど、シンガー矢沢永吉の豊かな魅力を堪能できるアルバムです。

 作詞の才能はないと自ら認めていた永ちゃん、ソロアルバムでは、元ノラ、ヤマト時代のギタリスト木原敏雄と共に初期バックバンド「矢沢ファミリー」に参加し後にNOBODYを結成するギタリスト相沢行夫を中心に、ザ・ディランIIの西岡恭蔵、はっぴいえんどの松本隆を起用しています。昔から親交のある相沢行夫と共に、はっぴいえんど/細野晴臣界隈の人選に永ちゃんのプロデュース力の視野の広さがあるなと思います。

 レザーに身を包んだ永ちゃんが、チェックジャケット、アイビー風なファッションまたは白いスーツに変貌しアメ車と映るカバーフォトからキャロルから変貌しようという意欲も見えてとれます。

 この時期ベースはもう弾かないと公言していましたが、初期ソロツアーではスローダウンなどのカバー曲ではベースをプレイ。ステージではグラマラスな銀ラメスーツにパーマをかけたリーゼントヘアとアルヴィン・スターダストやゲイリー・グリッターのような70'sR&Rスターとの同期性があったと言えます。


画像2

A Day 1976年6月21日
A面
1.気ままなロックン・ローラー
2.最後の約束
3.トラベリン・バス
4.親友
5.真夜中のロックン・ロール
6.昼下り
B面
1.古いラヴ・レター
2.六月の雨の朝
3.真赤なフィアット
4.ディスコティック
5.A Day

 前作から9ヶ月ぶりにリリースされた2ndアルバム。今作から永ちゃん自身のプロデュースで六本木のCBSスタジオにて日本人ミュージシャンを起用し録音されています。編曲は自らギターも演奏した水谷公生を中心に「親友」「A Day」を渋井博が担当しており、この時期水谷のアレンジメント仕事を参考に次回作から永ちゃん自らアレンジメントを行うことになります。
またレコーディングエンジニアにはっぴいえんどの風街ろまんや細野晴臣のホソノハウスなどを担当した吉野金次を起用し日本国内でもサウンド面で海外の作品に負けないものを作ろうとする意欲を感じます。

 ハードブギーな「気ままなロックン・ローラー」、フォーキィーな「最後の約束」に導かれ、キャリアでも代表曲としてライブで歌われタオル投げが行われ、ツアータイトルにも採用される「トラベリンバス」で一気にアルバムのテンションがレッドゾーンへ。西岡恭蔵のドキュメンタリータッチのリリックを含めドラマチックなR&Rナンバーとなっており、水谷公生の異様に絡みつくギタープレイ、後藤次利と思われるパーカッシブなファンキーベースが普通のR&Rで終わらせません。

 このアルバムでは矢沢永吉最大のヒット「時間よとまれ」で作詞を担当する山川啓介が初登場で「親友」に詞を提供しています。この「親友」や「昼下り」「古いラヴ・レター」の様なブルージーで歌謡曲味の強い作品が収録されているのも興味深いところです。

 シングルカットされたシンプルなロックチューン「真夜中のロックン・ロール」ダークなスローナンバー「六月の雨の朝」では永ちゃん自身の作詞となっています。

 ライブ感が強く、まるでロイ・ウッドとウィザードの様な「真赤なフィアット」「ディスコティック」の後にピアノの伴奏でしっとり歌われる「A Day」では西岡恭蔵の詩と共に永ちゃんの静の美味しい部分がたっぷり堪能できます。


画像3

ドアを開けろ 1977年4月21日
A面
1.世話がやけるぜ
2.燃えるサンセット
3.苦い涙
4.黒く塗りつぶせ
5.そっと、おやすみ
B面
1.あの娘と暮らせない
2.通りすがりの恋
3.バイ・バイ・マイ・ラヴ
4.バーボン人生
5.チャイナタウン

 永ちゃんソロ始動後、キャロル解散ライブ以来日比谷野音に戻ってきた凱旋コンサードを記録したライブアルバム、THE STAR IN HIBIYAを挟んでリリースされた3rdアルバム。日比谷野音でバックバンド起用された、サディスティックス(高中正義、後藤次利、今井裕、高橋幸宏)と相沢行夫、大森正治(元ヤマト)のメンバーとほぼ同じメンバーで録音されたこのアルバムでは永ちゃんが編曲も行いエッジの効いたギターとリッチアレンジのR&Rとトロピカルな空気感を持った楽曲が堪能できます。またヤマト時代のギタリスト木原敏雄が「世話がやけるぜ」で作詞提供、アルバムでギターもプレイしております。
シングルカットされた「黒く塗りつぶせ」でもハードなギターを聴くことができ、強烈なロックシンガーとして凶暴さを持ったボーカリゼイションも堪能できます。

 また、「苦い涙」「あの娘と暮らせない」のブルース/R&B路線、ドゥーワップの「そっと、おやすみ」でブラックミュージックへのウインクも見逃せません。

 何よりこのアルバムから現れ、80年代LA時代のAOR路線へつながるバレアリックテイストな楽曲、異国情緒たっぷりの「燃えるサンセット」「バイ・バイ・マイ・ラヴ」「チャイナタウン」で音楽の幅を広げ、まるで映画の中にいる様な楽曲がアルバムのカラーを大変カラフルなものにしていますし、「バーボン人生」の様なニューオリンズ・ジャズ、ラグタイム風の楽曲における艶っぽさも矢沢=ロケンローと思われている方に驚きを与えると思います。

 RECエンジニアは前作に引き続き、吉野金次が担当しており素晴らしいハイファイで丁寧な録音を堪能できます。


画像4

ゴールドラッシュ 1978年6月1日
A面
1.ゴールドラッシュ
2.昨日を忘れて
3.鎖を引きちぎれ
4.ラッキー・マン
5.ボーイ
B面
1.さめた肌
2.今日の雨
3.時間よ止まれ
4.ガラスの街
5.長い旅

 77年の8月に日本のロックアーティストとして初の日本武道館単独公演を成功させ、同年11月に武道館のライブ録音アルバムをリリース、勢いに乗りまくりで78年に突入すると3月に資生堂のCMソングタイアップで「時間よ止まれ」のシングルがリリースされるとミリオンセラーとなる大ヒットを記録。「時間よ止まれ」が収録されるアルバムとしてこの4枚目のLPがリリースされた。

 A面1曲目ダークなブルース「ゴールドラッシュ」で始まり、相沢行夫のギターが軽快かつ重厚なコーラスアレンジが印象的なメロウな「昨日を忘れて」、永ちゃんの代名詞の一部分と言えるハードブギーな「鎖を引きちぎれ」ではアルバムタイトルの「ゴールドラッシュ」というフレーズが印象的に歌われるが、この曲が元々「ゴールドラッシュ」って曲だったんじゃないの1曲目の歌詞はあまりゴールドラッシュという感じでもないし、、、両曲山川啓介の作詞です。

 ファンキーな「ボーイ」では坂本龍一のエレピのグルーヴが素晴らしく、村上 “ポンタ” 秀一と思われるドラムと、後藤次利のベースが素晴らしいファンクグルーヴを奏で、「ラッキー・マン」でもタメの効いたブギーを聴かせます。

 前作で目立ったバレアリック路線は「時間よ止まれ」のみに落ち着いており、永ちゃんのクルーナーボーカルの素晴らしさ、イタリア映画の場面転換を思わせる詩の世界、坂本龍一のシンセサイザーとエレピの清涼感、駒沢コマコ裕城のトロピカルサウンドを華やかにするスチールギター(この名演が全然語られてないですが大変素晴らしい演奏です!)、高橋幸宏の軽快なドラム木原敏夫のアコギソロとヒットするためのピースが全て揃った最高の一曲となっております。

 RECエンジニアは引き続き、吉野金次が担当、演奏者のメンバーも含みはっぴいえんど/YMO界隈が参加しておりそれぞれの最高の演奏や仕事が堪能できます。


画像5

Kiss Me Please 1979年6月21日
A面
1.バイ・バイ・サンキュー・ガール
2.いちいち憎んで
3.ワン・ナイト・ショー
4.ラスティン・ガール
5.Mr.T.
B面
1.アップタイト
2.馬鹿もほどほどに
3.天使たちの場所
4.I SAY GOOD-BYE,SO GOOD-BYE
5.過ぎてゆくすべてに

 日比谷野音、日本武道館のライブを成功させ、ついに後楽園球場でのスタジアムライブを成功させ球場でのライブ盤リリース後に発売された、本作。前年、自著伝第1弾「成りあがり」出版しベストセラーに、また「時間よ止まれ」のヒットもあり長者番付の歌手部門で1位となり名実ともにBIGな存在、いちロックシンガーでは収まらい存在となった永ちゃん。プライベートでのゴタゴタもあり、リマスターCDでのライナーでの本人のコメントでは「色々あって暗い印象のアルバムになった」というのが、この5thアルバム。

アルバム冒頭「バイ・バイ・サンキュー・ガール」でヘヴィーなディスコミュージックを収録。ハードヒットなピアノとクラビの絡みがダンサブルなビートを盛り上げます。続く、「いちいち憎んで」ではレゲエビートに挑戦しており、豪華なブラスアレンジも含めアメリカ経由のレゲエに仕上がっています。また歌詞ではちあき哲也が初登場しこの他、4曲を担当し80年代のアルバムでの作詞群の序章の様です
3曲目「ワン・ナイト・ショー」も四つ打ちのバスドラにファンキーなクラビが印象的なナンバー、この曲の作詞は「成り上がり」に大きく関わった糸井重里です。

 「ラスティン・ガール」「Mr.T.」のスローバラードの陰鬱さがそれまでのスローナンバーと一味違う苦味を感じるところにこのアルバムのダークな印象を与えています。

 B面一曲目「アップタイト」もファンキーな四つ打ちドラムとスラップベース印象的で、続く「馬鹿もほどほどに」ではレゲエビート再登場。気が利きまくりのエレピが曲を引っ張り、ジージーと耳障りながら必要不可欠なファズギターもダークな印象を与えます。「息がつまるぜこんな繰り返し」という歌詞とサウンドが完璧なバランス担っています。

 B面3、4ではシングルカットの「天使たちの場所」「I SAY GOOD-BYE,SO GOOD-BYE」ですが、「天使たちの場所」のウクレレの導入にカントリーフレイバーを感じ、静かに盛り上がるところにスワンピーなアメリカンロックへの情景を感じじずにはいられません。また間奏でオーボエがプレーされており、「バーボン人生」に続くラグタイム風味がサービスされます。
「I SAY GOOD-BYE,SO GOOD-BYE」のハードボイルドな世界観、ピアノ中心のロックの最高地点です。

 アルバム最後は自称「俺には作詞の才能はない」永ちゃん自身作詞を担当した「過ぎてゆくすべてに」というバラードナンバーです。
大変素晴らしいキュンとくるメロディバラードでアルバムを締めくくります。

 このアルバムは全体的にリズムの解釈が新しい時代に突入している印象で、林立夫をドラマーに起用しているところに意識的なものを感じます。またギタリストに大村憲司が参加しており、エッジの効いたミュージシャンにも目を配る永ちゃんのアンテナの感度の良さに関心します。また吉野金次がエンジニアから離れており、それまでの作品よりロウファイさと言うかささくれ立ったサウンドに聴こえます。

なおこのアルバムでCBSソニーを離れ、アメリカ進出、海外市場での活躍を目指しワーナーパイオニアへ移籍、またLAへ活動の拠点を移します。

以上、矢沢永吉ディスクレビューパート2 CBSソニー編でございました。国内で敵なしと思えるほどの人気でBIGになった矢沢永吉のCBSソニー時代。20代頑張った人だけがもらえる30代へのパスポートをなんとか貰って迎えた30代の矢沢の世界挑戦、BIGからGREATヘ。次回、永ちゃん世界への挑戦、ワーナー・パイオニア時代のアルバムをレビューしたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?