冬の日

いつか私は自殺するのではないか。
幼い頃よりそんな不安を抱えて生きてきました。

いえ、私は決して貧乏な生まれでもなければ、不幸な暮らしをしてきたというわけでもありません。どちらかといえば恵まれていた方でありましょう。

けれどもなぜだか、どうしようもない程に、孤独と不安が消えないのです。

私の心の深い底には何か鈍く、黒く、異様で、異形なものが流れているのであります。

道ゆく人は皆幸せそうです。家路を急ぐ人、友人と何処かへ向かう人、恋人を待っている人。暖かな雰囲気が冬の冷たい夜の空気に溶けています。まるでこの世には一切の不幸なんてないのではないかと思えるほどに、満たされているように見えてしまいます。

あぁどうして私はそこに居ないのだろう。あの柔らかな、オレンジの灯りのようにこの冬空の下、流れゆく幸せに身を委ね溶けてしまえないのだろう。
ぼんやりと眺めている私は、たった独り、そんなことを考えるほどに、深く落ち込み、恥ずかしく、消え去りたいと思ってしまうのです。

こんなばかな事を思うのはおそらく私だけでしょう。いえ、そんなことはありません。それはうぬぼれが過ぎるというものです。誰もが皆一度くらいは考えるのでしょう。今私の目の前を通り過ぎたあの優しそうな青年だって、あちらの角で、優しく旦那様と腕を組んで歩く老婦人でさえ、いつの日か、同じ事を考えていたやもしれません。そしてきっとそれを忘れたのでしょうね。だからあの人たちは幸せに見えるのでしょう。


いつか私にもそんな日がくるのでしょうか。孤独と不安を抱えずに生きて行けるそんな日が。期待はいたしません。だって幼い頃より抱えてきたものですもの。今更簡単に拭えるものではありません。これはもう私の一部なのですから。


けれどももし、それを忘れさせてくれる誰かが来てくれるのなら、忘れさせてくれる何かが起こるのなら、その時私は笑いましょう。嘘偽りのものでなく、虚栄と保身のためでなく、心の底からあなたに向けて。いつか来る、何かに向けて。


そろそろバスが参ります。ずいぶん長い間待ったものですから体が冷えて仕方ありません。
どこへ向かうかですって? どこへでしょうか。家かもしれませんし、そうではないかもしれません。ここではない遠くへでしょうか? さて、私にもわかりません。
雪降りしきる二月の空に、消えてしまうかもしれませんね。

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