向こう側からエネルギーを得る

こんにちは、たわら(@kentaroutawara)です。

本の表紙を見ると、「とっつきにくそうだけど、何かとても大事なことが学べそう」な予感がするときがあります。予感に従って選んだ、哲学とその有用性がわかる格好の哲学入門書をご紹介します。

古田博司著「ヨーロッパ思想を読み解くーー何が近代科学を生んだか」(ちくま新書)です。

哲学入門書をいくつか読んだけど、どうもしっくりこない、という方にはぴったりです。

『「人生には無限の可能性はない」。しかし、「無限の存在へと近づく可能性は健全すぎるほど健全にある」』

という力強い前書きからはじまります。

結論をひと言にすれば、「向こう側を認識し、直観・超越、マーカー法、接近法で、向こう側から力を得よ」となるでしょう。

「向こう側」これがこの本のキーワード。向こう側を認識し、向こう側をとらえようとする試みが科学を生んだのだ、と著者は論じます。

向こう側とは何? と疑問に思います。

1 向こう側を認める西洋の思考様式

向こう側とは何か。我々人間の感覚器で切り取ることのできない世界のことを指します。

我々人間がおのれの感覚器では切り取れなかった。ファジーなこの世の対象の集合体を「向こう側」(other side)と定義するのである
本書、pp206

本書で繰り返し指摘されるが、あの世のことではありません。

あの世は、この世にはない世界のことであり、一方で向こう側はこの世にあるけど、みえない世界のことです。

つまり人間の五感では感覚できる世界の向こう側にある世界のことを、著者は向こう側と呼んでいるのです。

向こう側の世界に、イデーや真理や神がいるはずだと考えるのです。

この向こう側への認識を持っていた西洋人から、哲学は生まれた、と語ります。

ギリシャ哲学者アリストテレスはかつて鼻の形がなぜ異なるのかを次のように考えました。鼻の背後に見えない力があって、それがこの世の材料に影響を与えているのだ、と。ここで見えない力や存在のことを、哲学ではイデアとかエイドスなどと言い表します。

この見えない力や存在がある場所のことを向こう側と呼ぶのです。

この思考法が西洋哲学の1つの流れとなり、実験と観察による科学的方法で、見えない存在を発見していく営みとして自然科学を発達させていきます。

科学が発達して、アリストテレスがエイドスと指したものを、後の人類が、DNAや素粒子やらに確定しているのです。

ちなみに日本には向こう側という認識がなかったため、哲学は発達しなかったと著者は断じています。

2 向こう側をめぐるイギリス哲学、ドイツ哲学、フランス哲学の認識の違い

向こう側とこちら側の関係性は、イギリス、ドイツ、フランスでは認識のしかたが異なります。

イギリス哲学は、人間は感覚器を超えることができないので、向こう側の世界、つまり真理には到達できない、と考えています。

しかし、向こう側とこちら側は似ていると考え、そのマーカーを見つけて、網羅し、類型化を試みます。

現実妥当性の有無を疑わせないほど、マーカーを総ざらいするのです。

具体例として、ジェレミー・ベンサムの「快楽と苦痛のリスト」を挙げています。あらゆる快楽の事象を並べ立て、類型化する方法です。こうすることで、真の快楽とは何かなどを考える観念論よりも、快楽という現象を理解するうえで役に立つのです。そして、類型化に基づき、また思索を深めるのです。

一方で、ドイツ哲学、フランス哲学は、向こう側に到達しようと試みるが上手くいかなかった、というのが著者の見解です。

カント、シェリング、シュライエルマッハー、ニーチェ、ヘーゲル、フッサール、ハイデガー、デリダ、、、という名だたる哲学者がどう戦ったのかを解説していきます。

フッサールは「こちら側」に引きこもり、ハイデガーは「こちら側」をさらに深め、ニーチェは「向こう側」を殺そうとし、、、などと続きます。

向こう側という焦点が明確なので、哲学史が理解しやすいです。

3 向こう側から力を得る~直観・超越、マーカー法、接近法~

「こちら側」だけの世界においては、普遍だと思われていたものも、実は虚構だった、ということが起こります。普遍的な歴史認識論が間違っていたことはソビエトが証明したように。

したがって、「向こう側」へと拡張した世界を生きたほうがよいのです。「向こう側」はあるが、到達できません。しかし、力を得ることができる、ということです。

その方法が3つ紹介されている。

① 直観・超越法

向こう側から突然にこちら側にくる直観を得て、経験を超えて、無理をすることで、結果としてこちら側の役に立つ理論や法則をもたらすこと。

例として、数学の -1 や虚数を挙げている。確かに経験できないものだが、この発明によって数学は大きく発展したはず。

② マーカー法

こちら側のマーカーを経験事象から、向こう側の似通ったマーカーを見つけ、網羅し、類型化すること。

例として、ファッションの流行を考える場合がある。世界の大都市のファッション写真を可能な限り集めて、類型化し、流行という経験できないものを追求することです。

③ 接近法

限りなく試行を繰り返し、向こう側ににじり寄る方法。こつこつと条件を変えて膨大な試行回数から真理や法則を見つける方法のことです。

二年半、毎日、マグネシウムに少しずつ微量の金属を加えて強度を測り、ついに目的の金属を探し当てた熊本大学の河村能人(よしひと)さんがその例。

これらの方法を意識的に使用して、「向こう側」から力を得て、生きていくことを著者は推奨しています。

例えば、科学で向こう側ににじり寄り、数学で超越し、ビジネスで直観する、というような。

これからの時代は、そのように自覚的に臨み、行動することが有用であるのだ。

マーカー法がいちばん手っ取り早い気がしますね、、、

「人生には無限の可能性はない」。しかし、「無限の存在へと近づく可能性は健全すぎるほど健全にある」

読んでくださったかた、ありがとうございます。

たわら

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