コーチング【リーダーが社内でコーチングを使う時に大切なことを国際コーチ連盟の倫理規定から紐解く】

国際コーチ連盟によるコーチング倫理規定(http://www.icfjapan.com/whatscoaching/code-of-ethics)は、未だ国家資格ではないコーチングという職業に対して業界団体が任意で設定している倫理規定として世界中で活用されています。私を含め、国際コーチ連盟に所属する会員は加盟する際に必ずこの規定に同意することが求められており、認定資格保持者は3年毎に倫理規定に関する学びを深めることが資格保持の条件として定められています。

最近、国際コーチ連盟がこの倫理規定に改定を行いました。そして、この改訂では規定の適用範囲がプロコーチだけではなく、社内でコーチングを使う方(社内コーチという呼称を使っています)や、コーチングを学んでいる人にも同様に適用されるという事柄が追記されました。つまり「ちょっと使ってみよう」と思っている方にもぜひ参照し、実践していただきたいという啓発をしているということです。

今日はその規定の中で、企業のリーダーがコーチングを活用する時に理解しておく必要があるポイントについて、お伝えしていきます。

【守秘義務について】

これは私も、今回学び直して再認識したのですが、コーチングは弁護士などの士業と異なり「依頼者との間に秘匿特権が適用されない職種」であるため、どのレベルの機密保持をするか及び、機密保持義務が適用されない箇所はどこか、についての合意を個別に取る必要がある、と定められています。

一般的に「コーチはセッションで話された内容を口外しない」という概念が業界内での合意事項というか常識になっているのですが、もう少し深く読み解いていくと、機密保持の範囲はクライアントとコーチが予め合意した範囲で適用される、ということを意味していますので、意外と柔軟性のある捉え方ができるのではないかと考えます。

これをプロコーチではなく、社内で上司が部下に対してコーチングをする場合に当てはめて考えると、

「どこまでの守秘義務を用いて会話をするのか、知り得た情報はどの範囲で活用するのかということについて予め、そして必要に応じて都度合意する」

必要があるということになります。特に上司の立場では、部下の昇進に関する意思決定ができたり、支配的なコミュニケーションを悪用することも可能な権威的立場にいるため、コーチングを用いた会話の中で知り得た情報を相手方の不利になるような形で使うことも可能です。ここに倫理的な配慮をし、知り得た情報をどのように活用するのかについて明確な合意を得る必要があります。これは私の私見ですが、コーチングを用いた会話の冒頭で守秘義務の合意を取るだけでは不十分で、相手がデリケートな話題を持ち出した時や、今後の人事考課などで必要であろう情報が会話に現れた時点で即興的に確認⇒合意というプロセスを踏む必要があると思います。

【他メソッドとの併用】

私がコーチングを教える際には、他のメソッドと併用してコーチングの手法を用いることはご法度であると必ずお伝えしているのですが、社内で例えば上司が部下に対してコーチングを行う場合については複数の手法が混在した形で会話が進むことは大いにあり得ることです。

業務時間内に手短に、あるいは重要な会話をしている中で「今からコーチングの手法を使うね」と一声かけることは会話の流れ求めてしまうし、めんどくさいということもあり、多くのリーダーが「端折る」ところだと思います。

あるいは、コーチングの手法を使っている会話の中で助言や指示をしたくなった時に相手の了解も得ずに口を挟んでしまうというのも、リーダーがやってしまいがちな行為だと思います。国際コーチ連盟が設けいている倫理規定ホットライン(https://www.icf.com/company/ethics-and-compliance#hotline)に寄せられる苦情で最も多いのがこの「合意を明確に取らない」ことによるものだといいます。何をどのようにやるのかについては明確な合意をつど取れることが「コーチングを使う優れたリーダー」の能力の一つだと思います。

【相手の状況によりいつでも中断できる環境】

先述の倫理ホットラインに寄せられる苦情の第3位が「利益相反」だそうです。最初に合意した目標ややり方がコーチングを用いて対話をする期間中ずっと変わらないということはありません。例えば、会社の目指す方向性や事業部の必達予算が変わったなど業務環境に変化があれば、部下に求める作業内容や達成のスピードは変化するはずです。そういった外的変化があれば、対話の方向性は質も変化するはずで、コーチングを用いた会話よりも、指示命令が重要になってくる局面もあるはずです。そんなとき、上司は部下と向き合い、状況を共有し、新しい対話の方法を模索できるでしょうか。それとも、カレンダーに面談やコーチングセッションの予定が入っていれば、それを受動的に行使していくのでしょうか。

部下側からはコーチングを断りにくい環境になっていませんか?相手がいつ、いかなる状況においても、コーチングを受けることを拒否又は中止できる環境を保つこと、ぜひ心がけてみてください。

以上、今回は社内でコーチングを活用する時に知っておきたい倫理規定の内容についてお話してきました。

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