エグゼクティブ・コーチング 【人の変容に必要な時間は最低でも6ヶ月】

「コーチングは何ヶ月ぐらいで効果が出ますか」

これは、お客さまからコーチングのご依頼をいただく際に必ず聞かれる質問の一つです。同じような質問に「どのくらいの期間コーチングを継続すればいいですか」というのもあります。これらの“期間”に関する質問はコーチング発注に関してある意味“定番”と呼べる質問です。今日は、コーチングで人に変容を起こすにはどのくらいの時間が必要なのかについてお話します。

この答えを最初に書いておくと、「6ヶ月」というのが一つの指標になります。では、なぜ6ヶ月なのかということについて、これから紐解いていきます。

コーチングという手法は、継続性が重要で、単発のコーチングセッションの実施では成果が出にくかったり、変化を感じにくいことは書籍やインターネットなどの情報からご存じの方も多いと思います。では、実際にコーチングをどのくらいの期間受けると成果が出るのでしょうか。

その答えとしてコーチが好むのは「個人差があるので何とも言えませんね」というものです。確かに、コーチの技量の他に、コーチングを受けるクライアントさんのスキルレベルややる気、忙しさなどによって効果が出てくるまでの期間は変化するものです。だからといって、それを免罪符に変容の期間の目安を示さないというのもプロ意識に欠ける話ではあります。

私の場合、これまでの経験から実際にクライアントさんに変化が起こり始めるまでにかかる時間を3ヶ月と見積もっています。これより早いタイミングで変化が起きるケースもありますが、大抵の場合3ヶ月前後で変化が起き始めます。

これは、ダイエットに例えるとわかり易い話で、「よし、ダイエットしよう」と一大決心をしてスポーツジムの会員登録をするようなお話です。例えば、その翌日やる気満々にジムに出向き、インストラクターの指示で1時間ほど運動をしたとしましょう。その最中はしっかり汗をかきとても気分が良かったとしても、その運動後に体重計に乗れば数百グラムしか減っていないというのが実際のところだと思います。そして、仕事が忙しかったり、体調が思わしくなかったりしてなかなかジムに足が向かなくなり、会員登録しているだけで通わない会員になる。こんな結末ではダイエットの成果は出ないはずです。つまり一度や二度しっかり運動したとしても、大きな変化は起こらない可能性が高いということです。最終的に成果に結びつけるためには、ジムに通うことが習慣となり、同じようなプロセスを継続して実施できることが必要になります。

コーチングの場合は、クライアントさんの起こしたい変化や導き出したい結果(目的といいます)をコーチと共有し、その目的達成に向けて協力関係を構築することに合意します。これはつまり、今まで以上にその「目的達成の優先度を上げた状態で日々を過ごします」とコミットしている状態を作ることを指しています。この記事ではこれを”コミットメント”と呼ぶことにします。

このコミットメントをした状態でクライアントさんが日々の生活を行うことは、「目的に意識を集中させている」状態をより長く維持することに繋がります。その状態で日々を過ごすことにより、目的と現状の比較をより頻繁に行う機会が増え、その結果、何らかの変化が起きるということに繋がります。

もう少し簡単に言うと、目的に対して「何は達成できたのか」と「何はできていないのか」を明らかにし、達成度合いを客観的に評価する機会を頻繁に設けるということです。スポーツジムで言えば、ジムに行った時に必ず体重や体脂肪を計測して記録していくような過程に似ています。

これを「目的に対する現状評価」と呼びます。

「目的に対する現状評価」は成長や変化にとって極めて重要です。そして、それは「何が達成できたのか」だけにフォーカスを当てることではなく「何はできていないのか」とパッケージにして評価することが大切です。

コーチングセッションでは、この双方の要素を公平に扱い、洞察を得ていきます。例えば、「達成できなかったこと」については、反省を求めるのではなく、「計画したことについて、達成できなかった」のは“成果”であるとみなします。

例えば、Aという行動計画を作った場合、Bという思考が生まれ、行動を妨げるCという事象が出てきたため最終的に行動に至らなかったという因果関係があったとします。

これは例えば「今までの経験から考えると、Aという選択肢が最も成果の上がる選択肢であろう」という仮説のもと行動してみたが成果には繋がらなかったという事実を意味しています。そしてここから得られる洞察は、「今後新しいことをする時には過去の経験からAという選択肢を安易に選ばない」ということになります。これは新しい指針の策定に繋がり、実質的には“成果”であると捉えます。

一見「うまくいかなかったこと」もそれを知見として捉え、次の行動計画をたてる際に活かすことができれば、次は異なる結果が出るのです。

こういった「目的に対する現状評価」にかかる対話をコーチングセッションの中で重ねていくことで、クライアントさんの「新しい行動計画を立てる精度」が徐々に上がり、実際の成果につなげていくことができるようになります。

この一連のプロセスが目に見える結果として表出してくるのが、だいたい3ヶ月後というわけです。

コーチングプロセスの最初の「3ヶ月」は変容に必要な「目的に対する現状評価」のための対話に多くの時間が割かれます。これにより何らかの変化が現れてくるのですが、これらの変化はある意味偶発的に起きるものです。

例えば、「林さん、前回いっしょに決めた計画について実際に動いてみたんですけど、これが部下の反応がすごく良くって、今まで目標達成なんてしたことがなかったのに、急に目標にしてた売り上げを達成しちゃったんですよね。それにチームにもなんか活気が出てきてて。でもなんでそうなったのか、ちょっと理解ができないんですよね。」というお話。

つまり「変化は起きたけれど、なぜそれが起きたのかはイマイチわからない」という状態を指しています。コーチングを6ヶ月継続する意味がここにあるのですが、後半の3ヶ月はクライアントさんが「なぜそういう変化が起きるのか」に対する理解を深め、再現性を担保させることにより多くの時間を使います。

それにあたり、コーチングセッションでは以下のような問いを立てていくことに舵を切っていきます。

「どんな行動計画は実施に至るのか」(目標設定の仕方)

「行動に落とした時に置きた変化はどんなものか」(客観的な評価)

「なぜその変化が起きたのか」(要因)

「それは自分や周りにとってどんな意味を持つのか」(影響範囲)

「同じようなプロセスで解決できる課題はないか」(応用)

このような問いにより、一つの成果から洞察を深めるプロセスを繰り返し、クライアントさんの「思考プロセスの再構築」を促します。その結果、コーチがいつも関わらなくとも、思考が進み、達成のための行動計画が作れるようになります。

つまり、クライアントさん自らが思考し、計画を立て、行動を起こし、結果を評価するプロセスを自律的に回すことができるようになるのです。

これが達成されるまでの期間として「6ヶ月」を標準的に推奨しているのです。

当然個人差はありますが、およそ半年の期間があれば、人は再現性のある行動変容プロセスを理解していくと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?