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愛の別名がなんであれ 15話

〜2019.冬〜

あまり楽しい時間にはならなかったが、やってきた料理だけはどれも美味しかった。
僕たちは欲張りな子どもだった。
あれもこれも欲しくて、諦めなくちゃいけないものを選べなかった。
夢もポリシーも捨てられず、恋愛や幸せな家庭にだって憧れた。
大人になるということは、きっと諦めることなんだろう。
僕は諦められずにあれもこれも欲しがっているままで、彼女はもう欲しいものの選択を先に済ませたのかもしれない。
僕ももう、選ばなくちゃいけない。誰がなんと言おうと自分の道を進むと、決意を固めなくちゃいけない。それがたとえ、人生で唯一出会った特別な人と違う道を歩いて行くことになるとしても。

選択の時が来たのだろうか。
もし愛夏はもう選択を済ませたのなら、その選択が僕と愛夏とでは大きく違ったのかもしれないと思った。
反対方向に伸びた分かれ道が、この先でまた合流することはきっとない。そう感じた。

「俺は幸せよりロックを選びたいや。ロックに生きたい」
「そんなにロックが好きなら、私じゃなくてピアスだらけで全身タトゥー入っててリスカ痕だらけの女見つけなよ(笑)」
「べ、別に俺はファッションでロックが好きなわけじゃないよ(笑)」
「たとえでしょ。あんたは夢だ表現だ言っておいて、本当にぶっ飛んでる女を前にしたら引いちゃうのよ。だって普通なんだもん……」
強い口調で話していたが、愛夏は急に口ごもった。言っちゃいけない言葉を使ってしまったかのように。一緒に夢を見てたあの頃を思い出したかのように。
「ごめん。言いすぎた。あんたは、戦ってるよ。あんたがすごいのは私は認めてるから。女の好みに関しては、私みたいな誰が見てもいい女を好きになっちゃうみたいだけどさ」
そう言って無理しておどけて見せた愛夏が切なかった。

これまでにいくつかの恋愛は経験してきた。それでも、僕にとって生涯忘れられない特別な人は愛夏の他にいなかった。一度も手を握ったことすらない特別な人だった。
「俺はどうかわからないけど、愛夏は普通じゃないよ。誰が見てもいい女だけど、特別な変わってる人だよ」
いつか愛夏に言われたことを思い出していた。
(モグラはもう、飛ぶことを諦めたのか……?)
ふと、あの日の愛夏の歌を思い出してそう思った。


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