サイバネティクスとしてなされた建築学_4

サイバネティクスの建築学──デザインリサーチに埋め込まれたクリストファー・アレグザンダー

近年、相次いで理論の整備が進む「デザインリサーチ」。プロダクトデザイン(製品)→サービスデザイン(ビジネス)→社会システム(行政など)のデザインというようにその守備範囲を急速に拡大し、いまでは"文明そのもののデザイン"とすら取れるTransition Designのような領域すら出てくる始末。建築学徒からすれば、羨ましいような妬ましいような、なんとも言えない状況なのではないでしょうか(少なくとも僕はそうです)。

ですが面白いことに、僕がSFCの在学中に顔を出していた水野大二郎研究室には、「デザインリサーチの源流は建築学とも密接な関わりを持っている」という共通理解がありました。1962年にロンドンで開催された世界初のデザイン方法論に関するカンファレンス(国際会議)、『Conference on Design Methods』を指してのことです。この会議をもって、建築を含むいくつかの学問において個別に「研究」されてきたデザインが、始めて学際的な学術領域として対象化されます。「デザインリサーチ」の成立です(水野、2014)。本稿では、そこに関わったとされる「建築学」がいかなるものであったのかを、三人の人物を手がかりに推察していこうと思います。

さて、マンチェスター大学でインダストリアル・デザインを教えていたジョン・クリストファー・ジョーンズが発起人となり、ロンドンのインペリアル・カレッジで開催されたこのカンファレンス、正式名称は『The Conference on Systematic and Intuitive Methods in Engineering, Industrial Design, Architecture and Communication』といいます。直訳するなら『エンジニアリング、インダストリアル・デザイン、建築、コミュニケーションにおける体系的・直感的方法についての国際会議』とでもなりましょうか。題目に「建築」の文字が入っていますね。ここに名を連ねていたのが、数学科出身の異色の建築家、クリストファー・アレグザンダーその人でした。

しかし現代においてむしろ重要に思われるのは、カンファレンスの題目に「コミュニケーション」が掲げられていることです。デザインや建築と「コミュニケーション」とは、当時にしては珍しい取り合わせに感じます。しかしそうでもありません。コミュニケーションを工学的に取り扱った事例を検索すれば、ノーバート・ウィーナーによる48年出版の伝説的な書籍『Cybernetics, or, Control and communication in the animal and the machine (邦訳:サイバネティックス――動物と機械における制御と通信)』が直ちにヒットするでしょう。そしてなんと、偶然にもその第二版が、かのカンファレンスの前年、61年に出版されています──これはなにかありそうです。

ここでアレグザンダーがどういう人であったか、ということをもう少し俯瞰してみてみましょう。彼はイギリスで数学を修めたあと、建築の博士号を得るべく、アメリカはマサチューセッツ州ケンブリッヂにあるハーバード大学へと進学します。実はそこから車で10分ほどの距離に、MIT(マサチューセッツ工科大学)があるのです。アレグザンダーは、MITで教鞭をとっていた都市計画家・建築家で、あの『都市のイメージ』を執筆したケヴィン・リンチと師弟関係にあった(弟子であった)ことが知られていますが、そこにはふたつの名門大学の”物理的な近さ”が関係していたのかもしれません。

さてMITといえば、さきの書籍を著した天才数学者ウィーナーが、再び頭に浮かんできます。1919年、24歳にしてMITで数学科の教職を得た彼は、人類史に残る大思想「サイバネティクス」を同大学で作り上げました(クロード・シャノンもMITにいました)。すでに述べたように、それが書籍として世に問われたのが48年。この年にはちょっとした出来事があります。37年から39年までをフランク・ロイド・ライトの建築塾「タリアセン」で働き、その後MITで学位を取得したリンチが同大学で教鞭を取り始めるのが48年なのです。

この符合が、彼に影響を与えなかったはずはありません。実際いくつかの書籍で、リンチはサイバネティクスの影響を受けた第一世代であると指摘されています。都市の物理的形態にのみ着目し、注意深く"意味(meaning)"を退けたあの統計的都市分析は、情報を"信号(signal)"と"意味(message)"に分離した、情報理論におけるシャノンの手付きをトレースするものでしょう。ウィーナーもまた、サイバネティクスを援用して社会批評を行なったことが知られており、その対象には行政主導のトップダウンな都市計画も含まれていました。

ここからはいよいよ推測ですが...これを踏まえれば、アレグザンダーが『形の合成に関するノート』において示したデザインにおける「フィードバック」の位置づけも、『都市はツリーではない』を書いた精神性も直ちに理解できます。サイバネティクスが、彼にそれらを書かせたのです。アレグザンダーは、たまたまカンファレンスに居合わせた建築人ではなかった。彼にはリンチを経由したウィーナー直伝のサイバネティクスが流れ込んでおり、その思想をカンファレンス全体に響き渡らせた筈です(題目に”communication”を並べさせるくらいに)。

以上をふまえて改めて、かのカンファレンスの題目における「建築学」は、アレグザンダーによって「サイバネティクスとして実践された建築学」であったことを強調したいと思います。デザインリサーチの土台にある建築学をどう解釈するかは、今日において「再び建築学がデザインリサーチと手を結ぶには」というテーマにおける、最も重要な選択のひとつになるはずです(そんなことに関心をもつのは、僕くらいかもしれませんが)。

というわけで、ここではデザインリサーチと建築学の関係について、僕が描いている全体像の根本を展開してみました。多分に推測の要素を含むので、一片のよもやま話として読んでもらえたらと思います。それでは。


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プログラマ、建築理論家。1993年和歌山県出身。2016年慶應SFC卒。専門はコンピュテーショナル・デザインの理論と実践。NPO法人モクチン企画理事。東京大学学術支援専門職員。

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