Prince of Tran(s)e

プリンスの魅力は「超える」事だった、と思う。「トランスジェンダー」はおろか「ジェンダー」でさえ、カリフォルニアの研究者ぐらいしか使っていなかった時代にこのジャケットのような格好をしていたし、男の楽器のドラムスにシーラEを起用し、70年代のハードロックばりのギターの上手さを誇りながらも、その汗臭さを超えていた。超えることはいかがわしい―86年の曲KissのMVで女性ギタリストにキスした時の彼女の困惑がそれを象徴している―、そのいかがわしさは時にはその遊戯性をはるかに超え、アーティストを金儲けのコマとしか考えない音楽産業への異議申し立てとして表れ、一時期はArtist formally called Princeと自身の名前さえも超えていた。