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アプリが「薬」になる時代のデータ活用

※私は音楽テック企業の代表をしております。大学ではバイオテクノロジーを専攻、前職は外資系製薬会社のMRだったこともあり、関心のあるトピックスだったのでnoteに記しました。

近年デジタルヘルスの実用化が進んでいる。デジタルヘルスとは、医療・ヘルスケア向上のため、AI(人工知能)やVR(仮想現実)、IoT、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析など、最新のデジタルテクノロジーを活用することだ。オンライン診療など、コロナ禍の影響で加速したサービスもある。

アプリが「薬」に

デジタルヘルスの中で注目を浴びている一つとして、「治療アプリ」がある。代表的な「治療アプリ」は、Welldoc社が開発し、2010年にアメリカで承認された2型糖尿病患者向けアプリ「BlueStar」だ。「BlueStar」は、患者さんがアプリ上で日々の血糖値や服薬状況、体調などを入力すると、アプリがそれらの情報を解析し、生活習慣の改善やモチベーション維持のためのコーチングを行ってくれる。アプリ上で専門医に質問もでき、患者さんが入力した情報は、主治医などにも共有される。

ニコチン依存症治療アプリ「CureApp SC」は、治療アプリとして国内で初めて薬事承認・保険適用され、非常に注目された。同アプリを開発したCureApp社では、さらに高血圧治療用アプリを2021年5月に薬事申請し、早ければ2022年の保険適用を目指すとしているようだ。


DXが加速する製薬会社

このようにアプリが「薬」になる時代の中、製薬会社のDXが加速している。中外製薬は、DXを推進している製薬会社の一つだ。2019年10⽉にDXを部⾨横断で推進する「デジタル戦略推進部」を発⾜し、2030年を⾒据えた「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げた。デジタル技術によって同社のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターを目指している。

今年6月にはALBERT社と共同で開発した「製薬業界向けデータサイエンティスト育成プログラム」を発表した。同プログラムは中外製薬グループ社員を対象に展開し、社内デジタル人材の育成強化に取り組んでいる。


ヘルスケア業界の未来

ヘルスケア産業でのデータサイエンティストの重要性についても言及されているジェフ・エルトンさん・アン・オリオーダンさんの著書「ヘルスケア産業のデジタル経営革命」では、今後の日本のヘルスケア業界のトレンドとして、「コスト削減」、「量から質への転換」、「地域包括ケアシステムの構築」、「パーソナライズ化の進展」の4つを予想している。

日本のトレンド4つ
(「ヘルスケア産業のデジタル経営革命」P52-53)

「コスト削減」:少子高齢化を背景とする社会保障破綻を防ぐためにコスト削減が急務。

「量から質へ」:デジタル技術の進展を背景により広範なモニタリング・効果測定が可能となり、健康維持・予防や、治療効果の向上に向けた取り組みが増加。

「地域包括医療の進展」:地域でヘルスケア・予防・介護領域をトータルコーディネートすることで生産性向上するとともに患者中心医療を実現。

「パーソナライズ化の進展」:医療サービスが、公的保険中心のマス層と自費のプレミアム層の2極化し、プレミアム層向けの個別サービスが進化する。さらに、混合医療・自由医療が拡大。

また、製薬会社は「物売りからコト売りへ」の起きている、と述べており、
「患者や関連団体との接点を密にしたデータの収集・分析」
「ITプラットフォームの構築」
「先端的テクノロジーを活用した新マーケットの創出」
「メディア活動を含む多様な啓蒙・宣伝」

など、従来の製薬会社のビジネスプロセスを刷新して、新たなビジネスデザインを描く必要があると書かれている。

中外製薬のDX促進の取り組みは、まさに製薬会社として新たなビジネスデザインを描く取り組みなのかもしれない。


医療データの活用

ヘルスケア領域には、GAFAも参入している。Apple Watchによるバイタル情報の測定、GoogleのFitbit買収が分かりやすい例だろう。Amazonは今年からオンデマンドの医療サービス「Amazon Care」の運用を始めている。GAFAにとってもヘルスケア領域は魅力的なマーケットであり、膨大なユーザーデータを持つ彼らはヘルスケア領域でも非常に有意なポジションを取るでしょう。

新型コロナウィルス対策で問題になりましたが、データ活用とプライバシー保護とのバランスは非常に難しい。冒頭で紹介した「医療アプリ」にしろ、デジタルヘルスの実用化を進め、サービスを向上させるにはやはり膨大な医療データが鍵を握る。

宮田裕章先生が著書「共鳴する未来」でご自身が進められているプラットフォーム思想「PeOPLe」について述べているが、とても参考になる。「PeOPLe」とは(Person-centered Open Platfrom for Wellbeing)の略で、「個人を中心としたオープンなプラットフォーム」を意味する。データを1企業や国家が独占するのではなく、みんなで共有し、共に価値を作り出すためのプラットフォームだ。

詳しくは著書を読んでいただきたいが、私はこのプラットフォームにとても共感するとともに今後のデジタルヘルスケアの発展に重要ではないかと感じる。


さいごに

デジタルヘルスの実用化が進むにつれて、データを持たず、プロダクトしか持たないヘルスケア企業は非常に厳しくなるのではないかと考えられる。またデータ・ガバナンスは今後の課題として非常に重要な問題だ。いずれにせよ、ヘルスケア業界は今後大きくディスラプトされるマーケットの一つかもしれない。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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