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サバット(フランス式ボクシング)とはどういうスポーツ?~選手目線でのお話~

こんにちは、舟山健太です(@Kenta913Biz) 。「大人の文武両道」という座右の銘のもと、フルタイムで会社で働きながら現役のアスリートとして日々活動しています。本日は、アスリート舟山としてのnoteを書きたいと思います。

いろいろなことを加味して、個人としての発信をもう少しやっていこうと思い、先日も世界大会に向けての自分の気持ちやコンディショニング体験をnoteに記載させていただいたのですが、そこでいきなり「日本代表としてサバットの世界大会に行ってきます」と記載してしまいました。

サバットがそもそも日本ではマイナーな競技であるため、ちゃんとサバットの説明をしないといけないところ、そこの説明をすっ飛ばしてnoteを書いてしまいました。順番が完全に逆になってしまいましたが、本noteではサバットとは何ぞや?というのを自分なりの視点(選手目線)で書ければと思います。

がっつり内容に入っていく前に少しだけ大前提を。前述したようにサバットは日本ではマイナースポーツなのですが、日本にサバットをちゃんと体系的に普及させたのが、自分が所属するJapan Savate Clubの代表かつ日本代表チームの選手兼コーチ兼監督でもある窪田隆一さんです。毎年本場フランスのクラブに出向いて練習方法やトレンドを常にアップデートもしている方なので、日本におけるサバットの一次情報は間違いなく窪田さんであり、窪田さんに聞く or Japan Savate Clubのホームページを見ることが、一番信頼できる情報が得られる方法です。

なぜこんなことをわざわざ言っているかというと、日本のサバット界隈はめちゃくちゃ狭いので、自分もサバット関係者はほとんど知っているつもりなのですが、ネットでサバットについて日本語で検索すると、おそらくサバットをやったことがほぼないであろう人がサバットの説明をしていて、これらの情報でサバットの認識が広まるのに若干の違和感があります。まずは、一番信頼できる情報の居場所をお伝えしたかったです。

そんなことを言ってしまうとブーメランで自分のところに返ってきてしまい、結局このnoteも二次情報じゃないかい!という話になるのですが、おっしゃる通りです。窪田さんの見解と異なる部分もあるかと思うので、どうか二次情報という位置づけで拝見いただければ幸いです。一応、公開する前に窪田さんにも変なこと書いてしまっていないか確認してもらおうと思っています。

サバットの発祥や歴史については Japan Savate Clubのホームページにあるので、そちらをご覧になっていただければと思います。このnoteでは、「現役サバット選手」の視点で、他の格闘技(特にキックボクシング)との違いや、サバットの特長について、日ごろ質問を受けたときに説明していることを記載したいと思います。マニアックすぎてほとんどの方が興味のない情報もあるので、マニアックレベルで分けて段階を踏んで記載していくことで、途中で離脱できるようにしておきます。


【マニアックレベル0】サバットの基本

1.サバットはフランス発祥の格闘技(キックボクシング)

まずサバットの大まかな説明をします。サバットはフランス発祥の格闘技で、打撃系の競技として行われているものは正式名称としてBoxe Française と言い、英語ではFrench Boxing、日本語ではフランス式ボクシングになります。「ボクシング」というと、パンチだけしかない競技かと思うかもしれないですが、実際にはキックボクシングです。つまり、パンチとキックの両方を使う打撃系の格闘技です。

2.サバットは大まかに2種類(+α)の形式がある

サバットには、【Combat(コンバ)】と 【Assaut(アソー)】の2種類の試合形式があります。
【コンバ】は、フルコンタクト制の試合で、いわゆる日本のキックボクシングの興行で行われているものと一緒で、相手をおもいっきりパンチやキックをすることでKOを狙うものです。
【アソー】は、安全性を重視したポイント制の試合で、相手に大きなダメージを与えることが禁止されたライト・コンタクトの試合形式です。ボクシングでいうところの「当てマス」や「ライト・スパー」くらいのイメージです。基本的にKOはないので、相手に的確に攻撃を当てたポイント数で勝敗を競います。
+αとして、【サバット・プロ】という形式の試合も行われています。こちらは、アマチュアの試合というよりは、プロの興行と同じような形式で行われる試合で、基本的には【コンバ】ルールとなります。

選手目線で少し補足しておくと、【アソー】はライト・コンタクトで、確かに相手に大きなダメージを与えないルールではありますが、相手の攻撃をディフェンスできずにもらった場合に、痛いか痛くないかと言ったら、普通に痛いです(笑)。まったく痛くないつもりでやるとビックリすると思うので気を付けて欲しいですが、そこを分かった上でやる分には安全に行える競技ですので、生涯スポーツとしてすごくお勧めです。

余談ですが、格闘技は痛そうで体験するのにすごいハードルが高いように思えるかもしれないですが、怪我する可能性がある競技だからこそ練習は怪我しないように徹底されているので、むしろ安全性が高いと思っています。自分は幼稚園から大学までサッカーをやっていたのですが、その頃のほうが怪我の頻度は高かった気がします。また、格闘技ジムは血のたぎったファイター達の巣のように感じるかもしれないですが、良い意味でファイターっぽい人はJapan Savate Clubにはいなくて(残念ながら自分はめちゃくちゃ弱そうな顔をしていて相手を外見で威嚇できません..)、また普通にフィットネス目的の会員さんもたくさんいて一緒に練習したりしているので、興味がある方は体験してみることをお勧めします!

【マニアックレベル1】キックボクシングとの違い

ここからは、キックボクシングを観戦するのが好きな人 or 自分でもやったことがある人向けの内容になるかと思います。

サバットには、他にも護身術としてのサバット、武器術としてサバット等、実はいろいろな種類がありますが、自分もそこまで詳しくないので、今回は自分が選手活動している打撃系競技としてのサバット(Boxe Française )の話です。

キックボクシングと言ってもいろんな種類があり、また団体によってもルールが異なると思いますが、大まかに日本で行われているキックボクシングとの違いは、いくつかあります。自分が知る限りだと、K1ルールが一番近いのかな?と思っています。また、サバットの基本原則として、手に付けている「グローブ」と足に履いている「シューズ」のみを使って攻撃や防御をすることが有効になります。この二つの部位以外を使った防御や攻撃は有効とカウントされません。

3.サバット専用のシューズを履く

キックボクシングは一般的に裸足で行うことが多いのですが、サバットは専用のシューズを履いて、シューズを武器にして戦います。この理由としては、競技の発祥が起点となっているのですが、サバットはもともとフランスのストリートファイトから競技に昇華されたものであり、外で戦うときにシューズを履いていることから、それがそのまま競技でも踏襲されています。ただ、この専用のシューズが我々が普段履くものとは違って、つま先や踵、足裏が固い素材でできているので、専用シューズでキックすることで対戦相手に大きなダメージを与えることができます。つま先でお腹を刺してKOするシーンはよくあります。やられる側の感覚としては、槍でお腹をさされている感じです。想像するだけで痛いですよね。

4.パンチに関してはボクシングルールと同じ

サバットはパンチとキックの両方を扱う打撃系競技ですが、パンチの部分だけ切り取るとボクシングルールとまったく同じです。キックボクシングの世界では、バックハンドブローや肘うち等も技としてありますが、サバットでは両方とも禁止です。

5.膝蹴り・脛蹴り・脛を使ったカットの禁止

上述したように、サバットの基本原則は、グローブとシューズのみを使った攻撃や防御のみが有効です。この原則に従い、膝蹴り、脛(スネ)を当てるようなキック・脛を使った防御(カット)は禁止となっています。サバットでキックを出す場合は、相手に脛を当てるのではなく、必ずシューズを当てることが必要となります。

6.クリンチ・首相撲禁止

ここはキックボクシングの団体によってまったく異なる部分で、K1ルールに近いところだと個人的に思っているところですが、クリンチ(相手の攻撃を避けるために腕を相手の身体に巻き付ける行為)と首相撲は禁止です。

7.相手の蹴り足をキャッチしてはいけない

ここもK1ルールと同じだと思いますが、相手の蹴り足をキャッチすることも禁止です。

【マニアックレベル2】キックボクシングとの違い(深堀)

さらにキックボクシングとの違いを深堀していきましょう。観戦だとしたらここまで知る必要はないかもしれないですが、サバットを体験するとものすごく他の競技との違いを感じる部分になるかと思います。

8.回し蹴りのフォームの違い

回し蹴りはサバット用語では「fouette(フェッテ)」といいます。サバットのキックの特長として、地面に対して垂直な軌道をとるような蹴りが禁止というのがあります。例えば、サッカーボールを蹴るような蹴り上げや踵落としのようなキックは、軌道が地面に対して垂直になるので禁止です。

キックボクシング出身の方がサバットの興味をもっていただき練習にこられることも多々あるのですが、一番アジャストするのに苦労する点としてはここになります。通常のキックボクシングのフォームで繰り出す左のミドルキックやハイキックは、足を「回す」というよりは「上げる」という軌道をとるので、サバットルールでは垂直軌道の蹴り上げと判断され反則になってしまいます。

サバットのフェッテ(回し蹴り)の特長としては、軸足をしっかり回転させ、その力が運動連鎖によって伝わり腰が回転し、回転の遠心力がパワーとなって蹴りだすキックです。

ここからはあくまで舟山の考察になってしまうのですが、キックボクシングの回し蹴りとサバットのフェッテ(回し蹴り)は、パワーの出し方、強いては使う筋群が異なるのかなと思っています。自分は純粋なサバットファイターでキックボクシング出身ではないので、間違ってる可能性はあると思うのですが、キックボクシングの蹴りは腸腰筋と蹴り足の大腿四頭筋をメインに働かせ、足を「上げる」軌道で蹴ることでパワー発揮しているのかと考えています。一方、サバットの場合は軸足のハムストリングスと大殿筋・中殿筋をメインに働かせ回転することで、足を「回転させる」遠心力でパワー発揮しています(=蹴り足はほぼ力いれなくて良い)。自分は運動連鎖や機能形態学の専門家ではないので、専門家の意見を聞きたいところです。

【マニアックレベル MAX】サバットの戦い方の特長

9.距離感がキックボクシングより遠い

格闘技において、距離感は一番と言っても過言ではないくらい大事です。距離を制した方、つまり自分の攻撃が一番当てやすくかつ相手の攻撃を受けずらい距離+位置取りが出来た選手が有利に試合を運べます。サバットのルールとして、キックは脛を当ててはならずシューズで蹴らないといけない・脛でのカット禁止・クリンチや首相撲禁止、等の特長を前述したかと思いますが、これらのルールを加味して戦うと、普通のキックボクシングよりも対戦相手との距離感が遠くなります。例えば、脛を当てることが禁止でシューズで蹴らなければいけないぶん、キックの飛距離が長くなり、立ち位置が遠くなります。また、相手のローキックやミドルキックを脛でカットすることが禁止されていることから、ディフェンスとしては「避ける」がベースとなるため、避けるためには少し間合いを遠めに設定する必要があります。

キックボクシング出身の方がサバットの練習に来た際に、2番目にアジャストしにくそうだなと感じるのが、この距離感です。通常のキックボクシングの距離感でキックを出すと、間違いなく脛があたり、「ディスタンス」と呼ばれる注意・反則を受けます。

サバットをご存じの方からの印象として「キック主体でパンチはあまりださない」ということを言われることが多く、その由来はこの距離感の違いにあるかなと自分は解釈しています。距離がキックボクシングよりもう1~2段階遠いことから、キックの刺し合いは普通のキックボクシングより確かに多いと思います。ポイント制のルール(アソー)では6.5:3.5もしくは7:3くらいの割合でキックが多いイメージです。一方、フルコンタクト制のルール(コンバ)では、キックとパンチの比率が6:4もしくは5:5くらいかなと思います。

10.フットワークが多い

距離の設定がサバットはキックボクシングより遠いということから繋がってくるのが、サバットはものすごくフットワークを豊富に使うという点です。1ラウンド2分と通常のキックボクシングの3分より短いので、体力的に楽な競技なのかなと思うかもしれないですが、むしろずっとラウンド中(特にポイント制のアソー)はフットワークでずっと動き回るので、スタミナの差は顕著にでやすく勝敗にも直結しやすいです。なぜフットワークが多いのか?については、本質的な理解をしきれていない部分が多いのですが、固いシューズによるキックでダメージを簡単に受けやすい点と、ローキックやミドルキックのカットが禁止されているため、攻撃を「避ける」必要が多いからかなと思っています。

11.攻防のやりとりが速い

これまた立ち位置やキックの距離感の遠さに関係してくると思うのですが、サバットは攻防が緻密で流れが非常に速いのが特徴で、「手足を用いたフェンシング」と表現されることも多いです。選手目線で表現すると、卓球のラリーのような勢いで攻撃が交換されていきます。実際に、「ピンポン」と呼ばれる、速い攻防に適応するための練習メニューがあるくらいです。観戦する側からしても、選手同士が見合っているシーンが少なく次々と展開が繰り広げられていくので、生で見るととても面白いと思います。ハイレベルな選手同士の試合になると、この速い攻防にいろんな技術が含まれていて、その技術を見える+理解できるようになるとさらに面白いので、ぜひ一度Japan Savate Clubの練習にきて、体験してみてほしいなと思います。

最後まで離脱せずにたどり着いてくださる方がどれくらいいるかなと思いつつ、ここまで読んでくださった方、誠にありがとうございます。

一度やっているところをみてみたい、ちょっと体験してみたい、などありましたら、ぜひJapan Savate Clubのホームページから練習スケジュールをご確認いただき、遊びにきてくださいませ。

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